エド・ウッド

Ed Wood

1994年、アメリカ (モノクロ、127分)

 監督:ティム・バートン

 製作総指揮:マイケル・レーマン

 製作:デニーズ・ディ・ノヴィ、ティム・バートン

 脚本:スコット・アレクサンダー、ラリー・カラツェウスキー

 撮影監督 : ステファン・チャプスキー

 プロダクション・デザイナー:トム・ダッフィールド

 衣装デザイナー:コリーン・アトウッド

 編集:クリス・リーベンゾン

 音楽:ハワード・ショア

 出演:ジョニー・デップ      マーティン・ランドー

    ビル・マーレイ      サラ・ジェシカ・パーカー

    ジェフリー・ジョーンズ  パトリシア・アークエット

    ヴィンセント・ドノフリオ  リサ・マリー

* ストーリー 

 1952年のハリウッド。野心的な映画監督エドワード・D・ウッド・ジュニアは、昼間は撮影所の植木屋、夜は自ら率いる劇団で活動していた。ある日彼は、落ち目になった憧れの怪奇映画スター、ベラ・ルゴシに偶然出会う。エドはベラ・ルゴシを切り札にして、なんとか新作製作にこぎつけるが、映画は散々な評価を受け、ルゴシも重度の麻薬中毒で赤貧状態。製作資金も底をつく中、彼は超楽天的な性格と得意の売り込みトークによって、次々に新作を監督し、最低映画の評価を受け続ける。

* コメント    

『プロブレム・チャイルド』シリーズの脚本家、スコット・アレクザンダーとラリー・カラツェウスキーは、ルームメイトだった大学生の時からエド・ウッドに関する映画を作りたいと考えていました。後年、彼らが書いた脚本は、同じく大学の同級生だった『ヘザース/ベロニカの熱い日』のマイケル・レーマン監督の目に留まります。彼は自分が監督するつもりで、『ヘザース』とバートン作品のプロデューサー、デニーズ・ディ・ノヴィにこのシナリオを持ち込みますが、共同経営者のバートンが強い興味を示し、監督したいと言い出したのが本作の発端です。

 生前も死後も最低監督の汚名を着せられ、女装などの奇行でも名を馳せたエド・ウッド。バートンはしかし、自分もエド・ウッドの同類だと述べているほど、このキャラクターに入れ込みました。確かに、怪奇映画を愛し、憧れの俳優ベラ・ルゴシを自作に出演させたエド・ウッドの趣味嗜好は、同じタイプの映画を好み、往年のホラー俳優ヴィンセント・プライスやクリストファー・リーをキャスティングしているバートンのそれと重なり合います。世間の評価こそ雲泥の差がありますが、作品の題材自体は、エド・ウッドとバートンの間にさほど大きな差異はないかもしれません。

 バートンは、自分がエド・ウッドのように誰からも認められず、サイテー映画の監督として生涯を終えてもおかしくないと語っています。実際に、ディズニー・プロでは長く認められない時期がありました。しかし本作のポイントは、本当は才能があったのに認められなかった不世出のアーティストを描いているのではない所にあります。あくまでも、ひどい作品を傑作と信じて作り続けた映画監督として、事実に忠実に描いているのがこの映画なのです。

 ただ、バートン自身はウッド作品について少し違う見方を持っているようです。彼の言葉を引用しましょう「問題は、彼の映画を観ると、まあひどいもんなんだけれど、それでもそれは特別なものだって事だ。単にひどいものだっていう事実を越えて、生き残り続けて認められているのには理由がある。彼の映画にはある一貫性、ある種の奇妙な芸術性があるんだ。つまり、他のどんな映画にも似てないんだよ。」

 本作は、バートンが実在の人物を扱った初の映画で、同時に、人間以外のキャラクターが出て来ない初の映画でもあります(他には『スウィーニー・トッド』しかありません)。個性豊かな登場人物は全て実在した人達。エピソードも実話だそうです。彼らのその後はエンディングで紹介されますが、サラ・ジェシカ・パーカー演じるドロレス・フラーは、後に作詞家として売れっ子となり、エルヴィス・プレスリーやナット・キング・コールにも作品を提供しました。又、ウッドの妻キャシーは、本作撮影時も存命しており、たまたま夫の映画を撮影しているのに遭遇して現場訪問したそうです。

 本作の特徴は、モノクロで撮影されている事。奇遇にもこの年には、スピルバーグの『シンドラーのリスト』というモノクロ大作が公開されていますが、たまたま重なっただけで、特にブームには至りませんでした。きっかけは、ベラ・ルゴシのメイクを作ったリック・ベイカーから「ベラの目は何色だった?」と訊かれたのに始まり、バートンは題材にふさわしい手法としてモノクロで撮ろうと考えます。彼にとって、題材が求めるならモノクロ撮影はごく自然な事であり、実際に『ヴィンセント』や『フランケンウィニー』をモノクロで撮っています。

 特筆したいのはオープニング。傑作が多いバートン作品のオープニング・タイトルの中でも、出色の出来映えです。まず、ハワード・ショアの音楽が、図抜けて素晴らしいです。ゾクゾクするようなテーマ曲に乗って、キャメラは墓地の上を漂い、墓石に書かれたスタッフ、キャスト名を次々と映し出した後、沼に水没。ストップモーション・アニメのタコ足が画面を横切ったかと思うと、今度は宇宙に飛び出して円盤の艦隊が登場(『マーズ・アタック!』のオープニング・タイトルとそっくり!)、正にエド・ウッドとティム・バートン双方を象徴する要素が詰め込まれたタイトルだと言えるでしょう。

 モノクロ映像で、成功とは無縁の主人公を描いてとなると、いかにも陰気で暗い映画みたいですが、実際の映画は前向きなパワーに溢れ、時にコミカルでさえあります。ウッドが自信作『プラン・9・フロム・アウタースペース』を完成させた所で終わる、何か希望を感じさせるようなラストの印象もあるのでしょうが、不思議と明るい気持ちで鑑賞できる映画です(その後のウッドの人生は最後に字幕で紹介されます)。バートンがいう、ウッドの「現実を否認するほど極端な楽天主義者」の側面が強く出ているせいでしょうか。私の周囲でも、バートン作品の中で特に好きという人が多い映画です。

* スタッフ

 撮影監督は、『シザーハンズ』『バットマン・リターンズ』に続いてステファン・チャプスキー。モノクロながらクラシックな雰囲気ではなく、人物をピンスポットで浮かび上がらせたり、下から強いライトを当てたりと、極端なコントラストを付けた表現主義的なタッチが目立ちます。

 プロダクション・デザイナーのトム・ダッフィールドも、『シザーハンズ』と『バットマン・リターンズ』で美術監督に就いていた人です。注目はエド・ウッド作品の撮影現場を再現したセット。彼によれば「エドのセットは安物で簡単に作られていたが、皮肉な事に、安っぽいセットを再現するには費用が掛かった。私達のセットは手作りの特注品で、安いどころの話ではなかった」。編集は『バットマン・リターンズ』のクリス・リーベンゾンが続投し、この後もずっとバートンとのコンビが続いてゆきます。

 音楽のハワード・ショアは、ファンならご存知の通り、ダニー・エルフマンとバートンが仲違いをしてしまったために登板した人で、今でこそ『ロード・オブ・ザ・リング』三部作やスコセッシ作品など華々しく活躍していますが、当時はデヴィッド・クローネンバーグ監督とのコンビで知られた異色作曲家でした。

 バートンとエルフマンはすぐに仲直りをしたので、ショアが担当したバートン作品はこれ一作となってしまいましたが、これはちょっと、信じられない程の傑作サントラだと思います。南洋風の軽快なリズムにテルミンの音色をあしらい、激しい不協和音で全編を彩った、いかがわしいB級テイスト満載のメイン・タイトルに始まり、レトロチックでコミカルなBGM、民謡風の朗らかなメロディからドラマティックな盛り上がりを見せる愛のテーマなど、名曲が目白押し。これは映画音楽史上に残る、優れた仕事だと思います。

 ベラ・ルゴシの特殊メイクは、業界のパイオニアとも言える名手リック・ベイカーが担当し、見事オスカーに輝きました。彼は『猿の惑星』にも参加。500体に渡る猿人間の特殊メイクとデザインを担当しています。

* キャスト

 主演のジョニー・デップは、エド・ウッドの光と影を余す所なく描き出し、魔法のような演技で観る者を魅了しますが、バートン作品への登場は『シザーハンズ』に続いてまだ二本目でした。その後の何作にも渡る幸福なコラボレーションは、皆様ご存知の通り。ベラ・ルゴシを哀愁たっぷりに演じたマーティン・ランドーは、自身もハリウッドで活躍してきた名優。80年代以降もコッポラやウディ・アレンの映画でアカデミー賞他各賞にノミネートされていましたが、本作の演技でオスカーに輝きました。

 ウッドを献身的に支え続ける妻キャシーを演じたのは、パトリシア・アークエット。出会いの場面など、何とも言えない暖かさが漂う、絶妙の佇まい。名女優ロザンナ・アークエットの妹さんですが、デヴィッド・リンチ作品ではおどろおどろしい風貌で登場したり、『ヒューマン・ネイチュア』では類人猿になって木から木へと逃げまくるなど、相当なカメレオン女優と言えそうです。本作撮影後、ニコラス・ケイジと結婚。

 ウッドの最初の恋人を演じるのは、サラ・ジェシカ・パーカー。舞台の新聞評に「馬面」と書かれ、ウッドの奇行に愛想を尽かして出てゆくイメージの悪い役ですが、続く『マーズ・アタック!』でも、火星人によって首から下を犬と交換されるなど、何かと損な役回りの多い人です。後にテレビ・シリーズ『セックス・アンド・ザ・シティ』でブレイクしたので、そちらの印象が強いかも。

 インチキ予言者クリズウェルを演じているのは、ジェフリー・ジョーンズ。ウィノナ・ライダーの父親を演じた『ビートルジュース』に続くバートン作品ですが、猛禽類のような容貌を生かした個性的な役柄が多く、シリアス、コミカルを問わず様々な悪役から、『アマデウス』のヨーゼフ二世まで、実に幅広く活躍しています。本作は、クリズウェルから始まってクリズウェルで終わる映画でもあります。

 バートンの恋人リサ・マリーは本作が映画デビュー。ヴァンパイラという、これ又アクの強いキャラクターを演じています。『マーズ・アタック!』『スリーピー・ホロウ』にも続けて出演していますが、どちらも強烈な視覚的インパクトを伴いながら、セリフのない短い場面の役で、結局バートン作品ではこのヴァンパイラが一番大きな役となりました。

 オカマのバニーは、『ゴーストバスターズ』のビル・マーレイ。サタデー・ナイト・ライヴ出身のコメディアンですが、この人は目がどこか物悲しくて、どの映画を観ても哀愁を感じさせるのが不思議です。これも短いシーンで、天才オーソン・ウェルズ監督を演じているのは、『フル・メタル・ジャケット』の怪優ヴィンセント・ドノフリオ。マーティン・ランドーの娘ジュリエットも、出演したいがためにウッドの映画に出資するロレッタ・キングの役で出ています。

* アカデミー賞

 ◎受賞/助演男優賞(マーティン・ランドー)、メイクアップ賞

* カンヌ国際映画祭

 ◎ノミネート/パルムドール

 

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