マーズ・アタック!

Mars Attacks!

1996年、アメリカ (105分)

 監督:ティム・バートン

 製作:ラリー・フランコ、ティム・バートン

 共同製作:ポール・ディーソン、マーク・S・ミラー

 脚本:ジョナサン・ジェムス

 撮影監督 : ピーター・サシッツキー

 プロダクション・デザイナー:ウィン・トーマス 

 衣装デザイナー:コリーン・アトウッド

 編集:クリス・リーベンゾン

 音楽:ダニー・エルフマン

 出演:ジャック・ニコルソン    グレン・クローズ

    アネット・ベニング     ピアーズ・ブロスナン

    マイケル・J・フォックス  サラ・ジェシカ・パーカー

    ルーカス・ハース     ナタリー・ポートマン

    ダニー・デヴィート     マーティン・ショート

    パム・グリアー       ポール・ウィンフィールド

    ジム・ブラウン       シルヴィア・シドニー

    ロッド・スタイガー     リサ・マリー 

* ストーリー 

 アメリカ。デイル大統領は、火星からUFOの大艦隊が向かってくるとの報告を受ける。将軍のデッカーは核攻撃すべきだと主張、宇宙生物学者のケスラー教授は友好的な対話を主張、タカ派ハト派真っ二つに意見が割れるが、大統領は友好的に迎える事に決め、国民に情報開示する。しかし、世界が見守る中、地球に降り立った火星人達は殺人光線を乱射、会見は大惨場と化す。彼らは地球侵略のためにやってきたのだった。

* コメント    

 バートン作品としては、『ビートルジュース』以来久しぶりに原色の派手な色彩感覚を爆発させたもの。原作はなんと、1962年に発売されたTopps社のトレーディング・カードで、現在ではマニアの垂涎の的となっている幻のシリーズです。これは、一枚ずつ集めてゆくとストーリーが繋がるようになっていて、健全なスポーツ物などに混ざって売られていた『マーズ・アタック!』のシリーズは、残酷な内容のためにPTAから非難され、結局発売中止の憂き目を見たものです。

 トレーディング・カードから映画を作るなんて、ちょっとバートン以外にはやりそうもないアイデアですが、内容は火星人の襲撃と地球人の攻防という、本当にそれだけのもの。しかも主人公すらはっきりしない、完全な群像劇です。キャスティングは、にわかには信じ難いほど豪華で、大統領夫人のグレン・クローズやその娘のナタリー・ポートマンですら、大した演技もしないまま数シーン出ただけで終わってしまいます。全体のタッチは、軽妙かつシニカルで、ほとんどの登場人物が無惨な最期を遂げる残酷な映画にも関わらず、終始テンションが高く、ポップに弾けた画面です。

 バートンのルーツでもある、ホラーやSF映画のB級テイストは存分に生かされていて、円盤や火星人のデザイン、動きなど、業界トップクラスの技術集団ILMにCGを依頼しながら、敢えてチープな味わいとギクシャクした動きを追求するなど、バートン節全開といった趣。いわば彼の趣味性に共感する人のための映画というか、『バットマン』シリーズや『シザーハンズ』に惹かれ、アウトサイダーの鬱屈した心情をスクリーンに投影させる映画作りを評価してきた映画ファンにとっては、裏切られたような印象を受けかもしれません。逆に、『ピーウィーの大冒険』以来のバートン・ファンなら、狂喜するような映画でしょう。

 しかし、学校行事でホワイトハウス見学に来ていた二人の黒人少年が、火星人の攻撃から大統領を守ろうとするくだりや、家族からダメ人間扱いされていた心優しい青年が火星人撃退の鍵を握るなど、近年のバートンに顕著なマイノリティに対する偏愛はきっちり盛り込まれています。又、火星人が操縦する巨大なロボットなど、本人も認める日本アニメの影響も見られますし、またもやゴジラの映像(『ゴジラ対ビオランテ』のワンシーン)が使用されています。

 全体としては、やはり痛烈な風刺の精神が支配的で、悪趣味なブラック・ユーモアをそれはそれとして素直に笑える人にしか向かない映画だと思います。個人的に大興奮したのが、オープニング・タイトル。形状的には王道ともベタベタとも言えるクラシカル・タイプの円盤が画面を埋め尽くし、B級テイスト溢れるダニー・エルフマンの音楽が鳴り響く、ゾクゾクするような高揚感に満ちたクレジット・タイトルは秀逸。

* スタッフ

 製作のラリー・フランコは『バットマン・リターンズ』に続いて二本目のバートン作品。バートン自身もプロデューサーに名を連ねています。脚本のジョナサン・ジェムズは、母国イギリスで戯曲を上演しているほどの人。映画シナリオも『1984』をはじめ硬派な物が多く、なぜこの作品に起用されたのか不思議な感じです。彼が書いたからといって別に文学的な要素は全然ないですが、スピーディな場面転換と多彩なキャラクター描写で観客を飽きさせない点はさすがと言えるでしょうか。

 撮影のピーター・サシッツキーは、ケン・ラッセルやデヴィッド・クローネンバーグなど、やたらにアクの強い監督と組んできた英国のベテラン。彼も又、過去の作品で見せた陰鬱な映像感覚とは全く対照的な、原色だらけのアニメチックな映像作りを行っています。プロダクション・デザイナーのウィン・トーマスは、スパイク・リー作品の美術を担当してきた人。宇宙船内部のデザインなどに、どこかレトロチックで子供心をくすぐるようなセンスを発揮しています。編集は、本作もクリス・リーベンゾン。

 音楽のダニー・エルフマンは、バートンと仲違いをして前作『エド・ウッド』には参加しませんでしたが、本人達も言うように、また一緒に仕事ができて良かったです。彼が書いたメインテーマは、もうこれ以上ないというくらい映画にぴったりで、ブランクなど微塵も感じさせません。テルミンを使ったB級SF的なサウンドは、ハワード・ショアが作曲した『エド・ウッド』の音楽とも共通する雰囲気ですが、これは当てつけか、それとも敬意の表れか。リサ・マリーがホワイトハウスに侵入する場面での、エスニックなリズムに多彩な音素材をミックスした不思議な曲は絶品。

* キャスト

 バートンの映画ならとにかく出たいという俳優が増えてきたのか、B級SFには似つかわしくないほどのオールスター・キャスト。しかも、各自の出演時間が非常に短く、ほとんど演技らしい演技も披露しないまま次のシーン、次のシーンへと移ってゆく憾みがあります。アメリカ大統領と怪しげな成金不動産屋の二役を演じたジャック・ニコルソンは『バットマン』に続いて二作目、サラ・ジェシカ・パーカーは『エド・ウッド』、ダニー・デヴィートは『バットマン・リターンズ』、シルヴィア・シドニーは『ビートルジュース』に続いてそれぞれ二作目のバートン作品。

 人間に化け、クラゲのごとくユラユラ歩く火星人の異様なパフォーマンスで強烈なインパクトを残すリサ・マリーも、『エド・ウッド』に続いて二作目。アル中のニューエイジ・オタクを演じているアネット・ベニングは、『バットマン・リターンズ』でキャットウーマンを妊娠のため降板しましたが、本作で出演が叶いました。

 変わった所では、歌手トム・ジョーンズが本人役で歌も披露している他、映画監督バーベット・シュローダーがフランス大統領の役でワンシーンだけ登場。ピーター・ジャクソン版『キングコング』の個性派ジャック・ブラックも、軍隊に志願する青年の役で出演しています。

 

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