ディズニー・スタジオ在社中、バートンは全く会社の体質と合わなかったが、それでも彼の才能を支援する人はいた。彼は創作開発課から6万ドルの資金を得て、短編ストップモーション・アニメを製作。これは前例のない事で、バートン自身「とてもありがたい事だ」と語っている。彼がその後の映画作りにおいても製作者やスタジオの立場を考慮し、ディズニーともまた仕事をしているのは、この時の恩を忘れないせいかもしれない。 本作はマット・ディロン主演の青春映画『テックス』の併映としてロスの映画館で2週間公開されたが、短編アニメのマーケットがまだなかった上、ディズニーが内部的に混乱していた時期で、ビデオ化されるまでしばらく忘れられていた。 とはいえ、その前にはロンドンとシカゴ、シアトルの映画祭で上映されて批評家から賞賛され、シカゴで2つの賞と、フランスのアヌシー映画祭で批評家賞を獲得した。後にソフト化され、『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』等の特典映像に収録されたりもしている。 内容は、ヴィンセント・プライスに憧れ、空想癖が度を越して母親からも愛想を尽かされる少年を描いた、6分間のモノクロ短編。当のプライス自身が担当したナレーションで進行する。主人公ヴィンセントは正にバートンそのものに見えるが、彼はプライスの大ファンで、本作の他、『シザーハンズ』でも出演を依頼している。プライスは、ロジャー・コーマンによる一連のエドガー・アラン・ポー原作の映画でお馴染みで、主人公がポーの本を愛読しているのはそのオマージュなのだろう。 作品の完成度は高く、冒頭の物悲しい笛のメロディからして、独特の世界に引き込まれる。コントラストを強調した照明と美しいモノクロ撮影は表現主義的な雰囲気を強く打ち出し、それをテンポの速い編集でユーモラスに見せている所、後年のバートン作品と比べても遜色のない出来映え。現実世界の象徴たる母親の姿を足だけで表現し、上半身を一切映さないのも、ヴィンセントの妄想の世界に説得力を与えている。 デザインをバートン自身と、後のバートン作品で活躍するリック・ヘインリックスが手掛けているので、主人公や動物などの造型が後年の作品と共通していて、習作的な未熟さもほとんど感じさせない。 |