ヴィンセント

Vincent

1982年、アメリカ (16ミリ、モノクロ、6分)

 監督:ティム・バートン

 製作:ティム・バートン、リック・ヘインリックス

 脚本:ティム・バートン

 撮影監督 : ヴィクター・アブダロフ

 デザイナー:ティム・バートン

 音楽:ケン・ヒルトン

 造形、追加デザイン:リック・ヘインリックス

 アニメ・テクニカル監督:スティーヴン・チオド

 ナレーション:ヴィンセント・プライス

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 ディズニー・スタジオ在社中、バートンは全く会社の体質と合わなかった訳ですが、それでも彼の才能を支援する人は一部にいて、彼は創作開発課から6万ドルの資金を得て、短編ストップモーション・アニメを製作します。これは前例のない事で、バートン自身「とてもありがたい事だ」と感謝の気持ちを語っています。彼が、その後の映画作りにおいても製作者やスタジオの立場をちゃんと考慮し、ディズニーともまた仕事をしているのは、この時の恩を忘れないせいかもしれませんね。

 内容は、ヴィンセント・プライスに憧れ、空想癖が度を越して母親からも愛想を尽かされる少年を描いた、6分間のモノクロ短編。ナレーションのみで進行し、そのナレーターを当のヴィンセント・プライス自身が担当しています。主人公ヴィンセントは正にバートンそのものに見えますが、彼自身もプライスの大ファンで、本作のナレーターの他、『シザーハンズ』でも彼に出演を依頼しています。プライスは、ロジャー・コーマンが作った一連のエドガー・アラン・ポー原作の映画でもお馴染みで、主人公がポーの本を愛読しているのも筋が通った話です。

 作品の完成度は高く、冒頭の物悲しい笛のメロディからして、独特の世界に引き込まれます。コントラストを強調した照明と美しいモノクロ撮影は表現主義的な雰囲気を強く打ち出し、それをテンポの速い編集でユーモラスに見せている所、後年のバートン作品と比べても遜色のない出来映えと言えるでしょう。現実世界の象徴たる母親の姿を足だけで表現し、上半身を一切映さないのも、ヴィンセントの妄想の世界に説得力を与えています。デザインをバートン自身と、後のバートン作品で活躍するリック・ヘインリックスが手掛けているので、主人公や動物などの造型が後年の作品と共通していて、習作的な未熟さもほとんど感じさせません。

 本作は結局、マット・ディロン主演の青春映画『テックス』の併映としてロスアンジェルスの映画館で二週間公開されましたが、短編アニメ映画のマーケットがあまりなかった上、ディズニー自体が内部的に混乱していた時期でもあり、ビデオ化されるまでしばらく忘れられてしまいます。しかし、その前にはロンドンとシカゴ、シアトルの映画祭で上映されて批評家から賞賛され、シカゴで二つの賞と、フランスのアヌシー映画祭で批評家賞を獲得しました。後にソフト化され、『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』等の特典映像に収録されたりしているので、是非ご覧になって頂きたい逸品です。

 

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