フランケンウィニー

Frankenweenie

1984年、アメリカ (モノクロ、27分)

 監督:ティム・バートン

 製作:ジェリー・ヒックソン

 共同製作:リック・ヘインリックス

 脚本:レニー・リップス

 (原案:ティム・バートン)

 撮影監督 : トーマス・アッカーマン

 美術監督:ジョン・B・マンスブリッジ

 衣装デザイナー:ジョン・サンディーン

 編集:アーネスト・ミラノ

 音楽:マイケル・コンヴァーチノ、デヴィッド・ニューマン

 出演:シェリー・デュヴァル  ダニエル・スターン

    バレット・オリヴァー  ポール・バーテル

    ソフィア・コッポラ

* ストーリー 

 少年ヴィクター・フランケンシュタインは、学校の授業でカエルの死体が電気で動くのを見て、車に轢かれて死んだ愛犬スパーキーを生き返らせる事を思いつく。奇跡的に蘇生に成功した彼だが、スパーキーは付近の住民から恐れられ、敵意の視線を向けられはじめる。

* コメント    

 本作もディズニー在籍時代に製作した、モノクロの短編映画。こちらは16ミリで撮影されたアニメの『ヴィンセント』と違って、れっきとした35ミリ・フィルム、27分の実写映画です。バートンは、本作がなぜ製作されたのか、誰がどんな理由で製作にゴーサインを出したのか、さっぱり分からなかったと語っています。実際、本作は『ピノキオ』のリバイバル上映で併映が予定されていたにも関わらず、PGのレーティングを受けた事でお蔵入りになってしまいました。しかし、バートン自身が語るように、本作の一体どこに暴力的な場面があるというのか、このレートは全く不可解ですね。

 内容は非常に完成度が高く、後年のバートン作品だと言われても分からないかもしれません。映像は美しく、コントラストの強さは『エド・ウッド』に通ずるものですが、構図の作り方や演出のスタイルは、どこかスピルバーグの演出技法を想起させる所があります。スパーキーが轢死する場面や、ヴィクターが授業中にスパーキー蘇生のアイデアを得る場面などは正にそうです。俳優陣も、基本的にリアリズムの芝居をしているので、極端にデフォルメされたキャラクターが多い初期バートン作品の中では、特に落ち着いた、自然な映画に見えるかもしれません。

 加えて、本作には後のバートン作品に通じるモティーフが溢れ返っています。何よりもまず、主人公一家の名字にもなっているフランケンシュタインは、『シザーハンズ』の原点。言ってみれば本作は、犬版『フランケンシュタイン』であり、『エド・ウッド』のスタイルで撮られた『シザーハンズ』だとも言えるでしょう。人工的に命を与えられたキャラクターが、郊外の保守的なコミュニティで疎外され、誤解が誤解を呼んで追いつめられてゆく点は正に『シザーハンズ』です。冒頭の場面でヴィクターが上映する稚拙な8ミリ怪獣映画も、そのまま『エド・ウッド』に通じます。

 さらに、継ぎはぎだらけのスパーキーは、キャットウーマンや『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』のサリーとも繋がるイメージ。スパーキーが行き着く先は、ミニゴルフ場のミニ風車なのですが、この風車炎上シーンというのも『フランケンシュタイン』のクライマックス、そしてディズニーの『風車小屋のシンフォニー』に出てくる設定で、バートン作品としては『スリーピー・ホロウ』にも繋がるモティーフです。ライターを持った住民が転んで風車に火が付くという、かなり強引な展開ですが、風車を炎上させるためにはどうしても必要だった訳ですね。

 『シザーハンズ』のラストは悲劇的で、あまりに切なかったですが、本作は住民達の改心によって、ロマンティックで気の利いたエンディングを迎えます。本作も後にソフト化され、『ヴィンセント』と一緒に『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』等の特典映像によく入っているので、少しでもバートンに興味のある方には是非観て欲しい映画です。

* スタッフ

 水を飲んでも体中の継ぎ目から噴出させてしまうという、ユーモラスながら物悲しいスパーキーですが、後のバートン作品でも活躍する同僚のアニメーター、リック・ヘインリックスが共同製作に名を連ねていて、美術面ではやはりバートンらしい作品と言わざるをえません。彼はロケ地やインテリア、セットのデザインも担当したそうです。ペット墓地の場面も、墓石に書かれた絵がいちいち可愛いのが目を惹きます。

 撮影のトーマス・アッカーマンは、『ビートルジュース』でも続投。音楽は、マイケル・コンヴァーチノとデヴィッド・ニューマンのコンビ作で、彼らはバートンのテレビ作品『アラジンと魔法のランプ』にも続いて参加しています。前者は『愛は静けさの中に』や『ドクター』などランダ・ヘインズ監督作品に起用されている人ですが、バートン作品が好きな人であれば異色ホラー『ヒドゥン』のとんがった音楽に、より親近感を覚えるかもしれません。後者は映画音楽一家ニューマン・ファミリーの一人で、バートン作品によく出演しているダニー・デヴィートの監督作品でよく音楽を手掛けています。何かとバートンに関係してくる『ヘザース/ベロニカの熱い日』の音楽もニューマンの作品。

* キャスト

 主人公の母親を演じるシェリー・デュヴァルは、『シャイニング』の怯える妻や『ポパイ』のオリーブなど、画面に強いインパクトを残す事が多い女優さんですが、ここでは知的で優しい母親を演じています。彼女はこの時期、ディズニーのテレビ・シリーズで製作総指揮を担っていて、バートンを『アラジンと魔法のランプ』の監督に抜擢しました。

 その夫を演じるダニエル・スターンも好演。彼はウディ・アレン作品などの他、『ホーム・アローン』でジョー・ペシと演じた空き巣コンビで人気を博しました。主演のバレット・オリヴァー君もこの後大成し、『ネバー・エンディング・ストーリー』『ダリル』『コクーン』と話題作に次々出演。駆け出し監督のモノクロ短編としては、結果的に豪華キャストの映画となりました。

 脇役では、『ザ・ジャー』にも出ている映画監督ポール・バーテルが出演している他、ヴィクターのガールフレンド役で、少女時代のソフィア・コッポラが悲鳴を披露している所も注目。

 

Home  Back