ナイトメアー・ビフォア・クリスマス

Tim Burton's The Nightmare Before Christmas

1993年、アメリカ (76分)

 監督:ヘンリー・セリック

 製作:デニーズ・ディ・ノヴィ、ティム・バートン

 共同製作:キャスリン・ギャビン、ダニー・エルフマン

 脚本:キャロライン・トンプソン

 (原案:ティム・バートン、脚色:マイケル・マクドウェル)

 撮影監督 : ピート・コザチク

 美術監督:ディーン・テイラー

 ヴィジュアル・コンサルタント:リック・ヘインリックス          

 編集:スタン・ウェッブ

 コンサルティング・エディター:クリス・リーベンゾン

 音楽:ダニー・エルフマン

 声の出演:クリス・サランドン  キャサリン・オハラ

      ダニー・エルフマン  ウィリアム・ヒッキー

      ポール・ルーベンス  グレン・シャディックス

      ケン・ペイジ      エド・アイヴォリー

* ストーリー 

 ハロウィン・タウンの王ジャック・スケリントンは、毎年繰り返される代わり映えのしないハロウィンにうんざりしていた。ある日彼は、森の中でクリスマス・タウンへと通じる出入り口を発見する。彼は、初めて見る新鮮なクリスマスの光景に驚き、自分の街へと帰って、興奮しつつその様子をみんなに話す。今回のハロウィンはこれだとばかり、彼はクリスマスの風習を取り入れ、サンタクロースまで誘拐してくるが、結局失敗してしまう。

* コメント    

 バートンは製作者に回ったストップモーション・アニメ作品ですが、原題に“ティム・バートンの”という冠が付いている通り、原案もキャラクター・デザインもバートンによるもので、ほぼバートン作品と呼んで差し支えないほど深く関わっている映画です。監督は、カル・アーツ、ディズニー時代を通じてバートンの同僚だったヘンリー・セリック。

 ひとコマずつ人形を動かして撮影してゆくストップモーション・アニメは、大変に手間の掛かるもので、本作はチェコやロシアの伝統的なそれと違い、キャメラワークもハリウッド的に凝っているので、技術的にもより高度なものだと思われます。いわばバートンは、その大変な作業を他人に任せる事で自分の撮りたい映画を作り上げたようなものです(しかし彼は後年、同じ手法の『コープスブライド』を自ら監督しています)。

 バートンが言うには、「独立したアーティストであるヘンリーが、僕の望んでいる事をやらないんじゃないかという懸念もあったが、そうはならなかった。彼は素晴らしかった」。この恩返しか、バートンは次に『ジャイアント・ピーチ』という映画を製作し、自分は裏方に徹してセリックに自由に監督させました。

 しかしこのお話、バートン作品でお馴染みのシナリオ・ライターが大勢参加している割に、いまいち掴み所がなく、よく分からない脚本という印象。ハロウィン・タウンは、いわば価値観が逆転していて、恐ろしい事、ぞっとする事が歓迎される街なのですが、これが、ジャックやサリーが時折示すまっとうな正義感と矛盾するのです。これは、クリスマス・タウンのごく常識的な価値観が入ってくる事で、さらに混乱します。つまり観客の立場として、どういうルールの元にこの物語を理解すればいいのか、その立脚点が曖昧で矛盾が多い。それで、何が解決したのか分からないまま、ジャックがサリーに示す気持ちを着地点として、映画は終了してしまいます。他のバートン作品と比べても特に印象の希薄なドラマだと思います。

 ストーリーやプロットとはほぼ無関係にひたすら素晴らしいのが、アート・デザインと人形達の動き、そして音楽です。キャラクターのデザインは皆、グロテスクにデフォルメされていますが、それがどこかキュートにも感じられるのはバートン作品共通のセンス。しかも、繊細な動き、特に表情のニュアンスが信じられないほど豊かで、クリスマス・タウンの柔らかな色彩感覚やチャーミングな美術、雑貨、キャラクター達も、実に美しいものです。

 つぎはぎだらけのサリーは、バートン作品によく登場するフランケンシュタイン的なイメージとして、『フランケンウィニー』のスパーキーや『シザーハンズ』のエドワード、『バットマン・リターンズ』のキャットウーマンとの類似性をよく指摘されますが、バートンによればそうではなく、これにはバラバラになったものを繋ぎ止めるという心理的、象徴的な意味があるそうです。また、ゼロという小さな幽霊犬が登場するのもバートンらしい設定(『コープスブライド』にもやはり骨格だけの小犬が出て来ます)。

* スタッフ

 脚本は、バートンの原案を『ビートルジュース』のマイケル・マクドウェルが脚色し、『シザーハンズ』のキャロライン・トンプソンが仕上げるという豪華な布陣。これは、マクドウェルの脚本に満足できなかったバートンが、ダニー・エルフマンを引き入れてミュージカルとして構築し直し、それをキャロライン・トンプソンが最終稿にまとめるという経緯を経ているせいです。エルフマンが共同製作に名を連ねているのも、脚本段階に深く関わっていれば当然でしょう。

 エルフマンが作詞作曲したソング・ナンバーは、これも映画史に残ると言っていいくらいの名曲揃い。コード進行が複雑で転調が多く、簡単には覚えられないのに一度覚えると頭から離れない、甘い毒のような魅力を持つメロディは、現代に蘇ったクルト・ヴァイルの雰囲気(エルフマン自身、ヴァイルの影響を認めています)。是非ミュージカル歌手に歌い継いで欲しい傑作ソング“Jack's Lament”“What's This?”や、民謡風のリリカルな旋律が美しい“Sally's Song”、ダークなメロディながらテンション高く盛り上がる“This Is Halloween”“Kidnap the Sandy Claws”など、名曲目白押し。しかもエルフマン、主人公ジャックの歌声を担当している上、他のキャラクターまでちょこちょこ歌っていて、その表現力たるや並のレヴェルではありません。

 他では、この時期のバートン作品に欠かせないプロデューサー、デニーズ・ディ・ノヴィが製作を担当しているのと、実写のバートン作品を編集しているクリス・リーベンゾンがコンサルティング・エディターという肩書きでクレジットされている以外、基本的にアニメーション畑の人達。その一部は『ジャイアント・ピーチ』や『コープスブライド』にも参加しています。又、ヴィジュアル・コンサルタントとして、他のバートン作品でも陰に表に活躍しているデザイナー、リック・ヘインリックスが参加しています。

* キャスト

 ジャックの声(演技のみ)は俳優クリス・サランドンが担当しています。サリーの声と歌は、『ビートルジュース』のキャサリン・オハラで、美しい歌声を披露。特筆したいのが、サンタクロースを誘拐する悪魔っこ三人組。彼らの声と歌はエルフマンとキャサリン・オハラ、そして元ピーウィー・ハーマンのポール・ルーベンスが受け持っています。三人とも極端なアニメ声で臨んでいて、正に異色のヴォーカル・アンサンブル。市長の声を担当しているのは、『ビートルジュース』のグレン・シャディックス。

* アカデミー賞

 ◎ノミネート/視覚効果賞

 

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