個人的には、特に好きなバートン作品の一つです。感傷的ではあるけれど、決してベタなストーリー展開ではないし、構成もよく考えられていて素晴らしい映画だと思います。世間ではそれほど高く評価されている印象は受けませんが、私が映画館で観た時は、エンド・クレジットが終わって劇場に照明が灯ると、客席の大半の人が目を真っ赤にしていて、そんな光景は初めてだったので強い感銘を受けたのを覚えています。 本作の大きな特徴は、過去のバートン作品が、『エド・ウッド』を除いてみんなファンタジー世界を舞台にしていたのに対し、本作では現実の世界とファンタジー(エドワードのホラ話)の世界が平行して別々に描かれている所。バートン自身、リアルな世界を描く事はチャレンジだったと語っています。 この企画に着手する直前に彼の身に起きた事は、作品に大きな影響を与えました。一つは、かねがね関係の希薄さを公言してきた父親との死別、もう一つは恋人ヘレナ・ボナム=カーターとの間に子供が生まれた事です。父との確執と死別、息子の誕生は、主人公ウィルが映画の中で直面している現実そのものですね。バートンは、仲も悪くて冷えきった父子関係だったにも関わらず、父の死には大きなショックを受けたと語っています。そんな時に、この企画が飛び込んできました。 エドワードのほら話が、エドワード自身の口からだけではなく、ウィルや他の登場人物の視点で語られたりするのも、この脚本の秀逸な点です。現実パートは、バートンの新境地とも言える、落ち着いたシリアスなトーンで語られる一方、ホラ話のパートはユーモラスにデフォルメされて強いコントラストを形成。ただし、そのファンタジー部分もいつになくソフィスティケートされた柔らかい雰囲気で、いつものシニカルでダークな調子は影を潜めています。エドワードがサンドラを見初める場面は、全てが静止したサーカスの舞台の上で、彼だけが動いてサンドラに歩み寄ってゆくという、特殊効果を最大限ロマンティックな演出に生かした名場面で、バートンの新たな一面を見る思いです。 俳優陣の好演も見もので、ウィルの両親を演じた名優アルバート・フィニーとジェシカ・ラングは、味わい深い演技で心に沁み入るよう。彼ら二人が一緒に出演している場面は、実はほとんどないのですが、バスタブで抱き合う切ないシーンは、それだけでも夫婦の深い愛がひしひしと伝わってきて、私はこの場面が一番泣けました。そして、とてもマジカルで感動的なラスト。これはバートン作品の中では、『コープスブライド』と双璧を成す美しいラスト・シーンだと思います。ちなみに本作は、アカデミー賞は作曲賞のノミネートだけですが、ゴールデングローブ賞と英国アカデミー賞では作品賞にノミネートされています。 |