チャーリーとチョコレート工場

Charlie And The Chocolate Factory

2005年、アメリカ (115分)

         

 監督:ティム・バートン

 製作総指揮:パトリック・マコーミック、フェリシティ・ダール

       マイケル・シーゲル、グラハム・バーク、ブルース・バーグマン

 製作:ブラッド・グレイ、リチャード・D・ザナック

 共同製作:カッターリ・フラウエンフェルダー

 脚本:ジョン・オーガスト

 (原作:ロアルド・ダール)

 撮影監督 : フィリップ・ルースロ, A.F.C., A.S.C.

 プロダクション・デザイナー:アレックス・マクドウェル

 衣装デザイナー:ガブリエラ・ペスクッチ

 編集:クリス・リーベンゾン

 音楽:ダニー・エルフマン

 出演:ジョニー・デップ   フレディ・ハイモア

     デヴィッド・ケリー  ヘレナ・ボナム=カーター

    ノア・テイラー    ジェームズ・フォックス

    ミッシー・パイル   クリストファー・リー

    ディープ・ロイ    アダム・ゴドリー

* ストーリー 

 失業中の父を含む7人の家族と暮らすチャーリー少年。今にも倒壊しそうな家で貧しく暮らす彼は、ウォンカのチョコレート工場見学チケットを引き当てる。世界中で売れ続けるチョコレート・メーカーの社長ウォンカは、かつて社員に製造法を盗み出された事件で社員を全員解雇し、閉ざされた工場の中で秘密裏にチョコを製造し続けていた。しかし彼は、15年間ずっと謎だった工場の中に子供達を招待すると発表し、ウォンカ社のチョコレートの中に5枚だけ金のチケットを封入したのだった。

* コメント    

 ロアルド・ダール原作で、過去に映画化されたミュージカルをバートンがリメイク。ロアルド・ダールの原作物は、バートンとしては製作者として関わったストップモーション・アニメ『ジャイアント・ピーチ』以来二作目となります。とにかくユニークな映画で、視覚的にも感情的にもちょっと独特というか、ナンセンス・コメディ風の乾いたユーモアやパロディなど、過去のバートン作品と少し感触が違うのも面白い所です。

 全体としてはコミカルなタッチですが、痛烈な風刺精神に満ちた工場見学の場面と、その前後のハートウォーミングな場面は、まるで別の映画のように雰囲気が違います。これは恐らく、原作にはないウォンカの過去と、父親との再会シーンが加えられているせいかもしれません。いかにもほのぼのとしたチャーリーの家庭の描写は、今までのバートン作品には無かったくらい暖かくて優しいもの。ところが、ジョニー・デップ演じるウォンカが登場した途端、映画は全くあさっての方向へ進み始めます。

 工場の中は、それまでの淡い色彩と対照的に、目の覚めるようにカラフルでポップな世界となっていますが、私が強く感じるのは、メルヘンチックな見た目とは裏腹の、強い怪奇色です。謎めいた屋敷に招待された人々が、悪意を隠し持つ主人の手で次々に消されてゆくという図式は、正にホラー映画の典型的な枠組みだと言えるでしょう。

 工場に招待された子供と親達が横一列に並んで歩いてゆく時、陽の当たる場所から暗い影の部分へと足を踏み入れた彼らの姿は、逆光撮影によって黒く塗り潰されて見えます。通常、映画のライティングにおいて、このような場面で人物に光を当てず暗く撮る事はないだろうから、これは明らかに意図的な効果だと言えます。その後、人形達のショーが始まる訳ですが、機械仕掛けは途中で発火し、人形達は動きながら見るも無惨な姿へと変貌します。ファンタジーの雰囲気が一気に崩れる、ゾッとするような場面です。バートンの頭の中では、人形というと“蝋人形の館”と結びつくのかもしれません。

 唖然とする一同の側には、いつ現れたのかウォンカが立っていて、この結果を大はしゃぎで自画自賛します。その異様な風貌、死人のような、蝋人形のような顔色にも、見ていて思わずたじろいでしまう不気味さがあります。工場の内部は、子供も大人もエキサイトさせるような楽しい仕掛けが満載ですが、ウォンカの確信犯的な悪意によって一人ずつお仕置きされてゆく子供達の描写は、あと一歩過激になればもう完全にホラーだと言っていいでしょう。

 本作が、恐怖映画の一歩手前で踏みとどまっているのは、ひとえにウンパ・ルンパの歌と踊りが映画をコメディ側に持ってゆくからです。原作でも子供達が脱落する度に詩が挿入されていて、本作のミュージカル・ナンバーもこの詩を歌詞としてアレンジしたものですが、このくだりが又、テレビのお笑い番組のようなコメディ・センスで演出されていて、これも他の部分とタッチが全然違います。

 この、ディープ・ロイが全てのウンパ・ルンパを演じた、どこまでもギャグとしか思えないミュージカル・シークエンスは、一曲ずつ違うスタイルで作曲されていて、バスビー・バークレイの水泳ミュージカルから2001年宇宙の旅、サイコなど、バートン作品には珍しいパロディまで盛り込んで、賑やかに展開します。セットや衣装のデザインにはSF的なセンスも感じられるかと思うと、編集のスタイルはMTV風だったりする。実に不思議な映画です。

 ウォンカが生意気な子供達とその親達に向ける激しい悪意が一体どこから来るのか、まるで説明はされていませんが、チョコレートに執着するようになったきっかけは、時折挿入される幼少時代のエピソードで描かれています。これが伏線となって、バートン版オリジナルのウォンカと父親の再会シーンへ繋がる仕組みになっています。よく考えられてはいますが、映画全体の流れはいかにもちくはぐです。しかし、ここには『ビッグ・フィッシュ』で一応の決着がついた、バートン自身の父子関係に対する見方の変化が現れていて、興味深いですね。

 要するに、人間に対する深い愛情と激しい憎悪が両方同じくらい入っていて、その意味ではやはり複雑に屈折している映画なのですが、そのどちらか一方に偏った映画こそが嘘っぱちなのだとすると、バートンの支離滅裂さは、実は人間としてすこぶる正直で、理に叶っているとも言える訳です。それに、単なるショーとして割り切れば、こんなに愉快な映画もそうそうありません。何やかんや言って、私もこの映画が大好きだったりしますから。

* スタッフ

 プロデューサーは、これでバートンと三作目の仕事になるリチャード・D・ザナックの他、原作者の妻フェリシティ・ダールも名を連ねています。脚本は、『ビッグ・フィッシュ』に続いてジョン・オーガストが執筆。原作にないほのぼのした場面に資質を発揮しています。彼は同時製作された『コープスブライド』の脚本にも参加し、感動的な作劇術で才気を感じさせました。

 撮影監督のフィリップ・ルースロも、バートンとはこれで連続三作目。プロダクション・デザイナーのアレックス・マクドウェルは、『ファイト・クラブ』や『マイノリティ・レポート』など、デジタル技術を多用したモダンな映画が得意な人。まず、街のデザインが秀逸です。大聖堂を思わせるウォンカの工場が街はずれにそびえ立ち、街の反対側には絵本の中に出てくるような、極端に傾いて今にも潰れそうな主人公の家が建っている。その間を埋めるのは、どれも同じに見える夥しい数の無個性な家々。誠に印象的な空間デザインです。又、一軒だけ取り残されて寂しく建っているウォンカの実家も独特。

 音楽のダニー・エルフマンは、ミュージカル・ナンバーも作曲した上、全てのヴォーカル・パートを自ら担当して多重録音。彼は、クイーン風だとかブラコン風だとか、バートンから注文される曲のスタイルを冗談半分に受け取っていたそうで、どうせNGだろうと思って曲を持ってゆくと「そう!これだよ!」と即OKされるという繰り返し。それも2、3曲続くともう慣れてきたといいます。それでも、作曲中には思わず笑い出してしまった事があり、さすがに奥さんが驚いて飛んできたそうです。

* キャスト

 バートン組では、奇抜な特殊メイクでの出演が続いたヘレナ・ボナム=カーターが、ナチュラルな姿で心優しい母親を演じていて、お馴染みジョニー・デップと初共演を果たしているのが見もの。二人は、同時に製作された『コープスブライド』にも揃って声優として参加している他、次作『スウィーニー・トッド』以降も共演を重ねています。

 主演のフレディ・ハイモア君は、やはり天才的な演技で観客を魅了。『ネバーランド』で注目された子ですが、デビュー作でもヘレナ・ボナム=カーターの息子を演じているそうです。彼の父親を演じたノア・テイラーも役柄にぴったり。キャメロン・クロウ作品等に出ていて、いつも印象に残る人です。工場に招待される他の子供達も、ルックス・演技共に全てがデフォルメされた本作の演出スタイルに見事合致したもので、才気を感じさせます。

 招待された親子達の中では、『ビッグ・フィッシュ』に続く出演となるミッシー・パイルが出色。鋭く尖った目とアゴの強烈な風貌を生かし、コメディや悪役で活躍している人(女性だけのコント集団ビッチズ・ファニーにも所属)ですが、本作では似たルックスの子を娘役に起用し、インパクト倍増です。又、往年のドラキュラ俳優クリストファー・リーは『スリーピー・ホロウ』に続く出演。厳格な歯科医ながら、何年も家出したままのウォンカを案じ続ける父親を演じて感動的です。

 多重合成で何十人ものウンパ・ルンパを演じたディープ・ロイは、『猿の惑星』『ビッグ・フィッシュ』に続く三本目のバートン作品で、同時に『コープスブライド』の声優にも参加。いわば、本作は彼のパフォーマンスを鑑賞する作品でもありますが、とてつもない仕事量をこなしただけあって、爆笑必至の面白すぎるカットの連続。それにしても彼の出演作リストは凄いです。『スター・ウォーズ』シリーズ、『ネバーエンディング・ストーリー』『ダーク・クリスタル』『グリンチ』『フック』『ホーンテッド・マンション』などなど、正にファンタジー映画の生き字引みたいな人ですね。

* アカデミー賞

 ◎ノミネート/衣装デザイン賞

 

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