ミュージカル界の巨匠スティーヴン・ソンドハイムの代表作をバートンが映像化。彼は学生の時にロンドンで舞台を観たそうですが、グラン・ギニョール(フランスの残酷劇)ばりに大量の血が流れるのを観て、「この場面、本当に必要なの?」と顔をしかめる周囲と反対に「絶対に必要だ!」と思ったといいます。実際にバートンは、映画化にあたってスタジオに「殺人シーンはリアリティではなく感情の爆発だから、大袈裟に演出する必要がある」と要望しています。 バートンに対しては色々な見方があって、これだけダークな作品を数多く撮っていても、どこかキュートなファンタジー映画のイメージを持っている人が多いようですが、彼は基本的に「ホラーの人」だと私は思います。残酷なシーンはバートンの映画では別に珍しくはないし、むしろ彼のルーツとして脈々と作品の中に流れている。私は残酷な場面は苦手ですが、作り手が嬉々として演出している点は認めない訳にはいきません。 トッドが歌いながら次々に殺人を犯してゆく場面は何ともシュールで、凄みがあります。ミュージカルのホラーとは不思議なもので、登場人物が歌っている時点で全然リアリズムではないのですが、カミソリで喉を切り裂くというのはやはり相当に凄惨な行為だから、加害者が歌っている事は度外視して、普通のホラーと同じリアルな恐怖を感じてしまいます。大体、喉とカミソリというのは最悪の組合せの一つで、ホラーには比較的慣れている私でも正視できません(『カラー・パープル』のひげ剃りシーンでさえ無理です)。映像の色調が暗く、彩度が低いのがせめてもの救いでしょうか。 それと、ソンドハイムの歌の数々が、どうも私にはしっくり来ません。和声的にも旋律的にもこの複雑さはクルト・ヴァイルに通じるものだと思うのですが、ヴァイルのメロディのような甘い蜜と毒を併せ持つ魅力はなく、もっと即物的でドライな音楽に聴こえます。そして、覚えにくい。やはり、バートン作品にダニー・エルフマンの音楽は不可欠、という事でしょうか。 ラストもなかなか後味の悪いものですが、彼らの所業が所業だけに、こうなって当然と言えなくもないでしょうか。まあ、ホラーと言えばホラーらしい、凄みのある映画です。現実世界を舞台にしていて、ファンタジーやスーパーナチュラルの要素が一切ない所は、バートンの新境地とも言えます。ただ、批判を恐れずやり切った点は偉大だと思いますが、個人的にあまり好きな作品ではありません。 |