アリス・イン・ワンダーランド

Alice In Wonderland

2010年、アメリカ (109分)

         

 監督:ティム・バートン

 製作総指揮:クリス・リーベンゾン、ピーター・トビヤンセン

 製作:リチャード・D・ザナック、ジョー・ロス

    スザンヌ・トッド&ジェニファー・トッド

 共同製作:カッターリ・フラウエンフェルダー、トム・ペイツマン

 脚本:リンダ・ウールヴァートン

 (原作:ルイス・キャロル)

 撮影監督 : ダリウス・ウォルスキー, A.S.C.

 プロダクション・デザイナー:ロバート・ストロムバーグ

 衣装デザイナー:コリーン・アトウッド

 編集:クリス・リーベンゾン

 音楽:ダニー・エルフマン

 出演:ジョニー・デップ   ミア・ワシコウスカ

     アン・ハサウェイ  ヘレナ・ボナム=カーター

    マット・ルーカス   クリスピン・グローヴァー  

    アラン・リックマン  ティモシー・スポール

    マイケル・シーン  スティーヴン・フライ

    マイケル・ガフ    クリストファー・リー 

* ストーリー 

 親が決めた相手からのプロポーズに戸惑い、その場から立ち去った19歳のアリスは、庭園で白ウサギを追いかける内、深い穴へと落ちてしまう。穴の底は、少女時代のアリスも一度来た事がある、奇妙な住人達のワンダーランドだった。しかしアリスはその記憶を失っていて、住人達は彼女が本当のアリスなのかと疑いの目を向けはじめる。そんなアリスも、この世界の争いごとに巻き込まれる内、自分の役割を徐々に自覚してゆく。

* コメント    

 過去にも様々な形で映像化されてきた、ルイス・キャロルの名作文学『不思議の国のアリス』。本作は、続編の『鏡の国のアリス』と合わせて、一つの映画版オリジナル・ストーリーに仕立てています。しかし、そのせいかどうか、映像こそカラフルでデフォルメが効いていますが、基本は正攻法で演出された典型的なハリウッド映画で、いわゆるバートンらしい要素はあまり見られません。結局、ハリウッドというのは理路整然とした筋運びを好む所であって、キャロルの名作でさえお決まりの起承転結に当てはめられてしまうのは残念。むしろ、シュールな笑いと不可解なパワーに満ち溢れ、いささか支離滅裂にも感じられるキャロルの原作の方が、よっぽどバートン作品っぽいように思えます。

 しかし、この点はバートン自身の意向のようで、彼はこの原作を映画にするには明確なストーリー・ラインが必要だと考えました。ディズニーのアニメ版に対しても同じ事を言っています「ディズニー・アニメの“アリス”って、全くリアリティがないと思わないかい? 女の子がただウロウロして次々とクレイジーなキャラクターに会うだけの話だ。僕は、奇妙なイベントが続いているだけでなくて、リアルな感情とちゃんとしたストーリーを持たせようとしたんだ」。確かに、“バートンらしさ”さえ期待しなければ、充分に楽しめるファンタジー映画ではあります。

 原作と大きく違うのは、主人公アリスの年齢。映画のアリスは19歳になっており、少女時代に迷い込んだワンダーランドでの事はもう忘れている。一方、ワンダーランドの住人達はアリスを覚えていて、彼女が変わってしまった事を嘆く。要するに、原作をモティーフにしたオリジナルのストーリーになっていて、原作に登場しないキャラクターも設定されています。現実世界のアリスの話で本編を入れ子構造にしているのも映画的ですが、これによって、アリスが少女から大人へと成長する過程を描く事が出来たのはメリットだと言えるでしょう。

 アリスを演じた若手女優ミア・ワシコウスカが、なかなかの好演。大作に主演するのは初めてという事ですが、個性派俳優に囲まれてどことなく所在なげな彼女の佇まいは、現実世界でもワンダーランドでも自分の居場所を見つけられないアリスの置かれている状況と重なって、イメージにぴったりです。赤の女王と側近のイロソヴィッチ、白の女王、マッドハッター以外は、基本的にCGキャラクターばかりですが、声優に名だたる俳優達を集めていて、作品全体が通俗に堕ちないのはさすが。

 本作は、ジェームズ・キャメロン監督の『アバター』に続いて、新生3Dシステムの本格上映に当たる映画ですが、『アバター』のように3Dの撮影技術を用いず、通常の撮影を行った後で3D変換処理を施しています。グリーンバックで俳優を撮影して背景はほとんどCG、俳優達の肉体にもCG処理が加えられたりと、半分アニメのような映画になっているのは時代の潮流として致し方のない所でしょうか。ただ、ジャングルの中で獣に襲われる場面や、怪鳥が大空を舞う場面など、『アバター』とよく似たシーンが多いのは少々気になります。

* スタッフ

 プロデューサーにリチャード・D・ザナック、共同製作にカッターリ・フラウエンフェルダーはここ数作のバートン作品の製作体勢ですが、編集担当のクリス・リーベンゾンが製作総指揮にも名を連ねているのが目を惹きます。脚本は、アニメ『美女と野獣』『ライオン・キング』『ムーラン』、ブロードウェイ・ミュージカル『アイーダ』を手掛けたリンダ・ウールヴァートン。ディズニーお抱え的なライターだけあって、ソツのないシナリオ構成です。

 撮影は、『スウィーニー・トッド』に続いてダリウス・ウォルスキー。彼は『パイレーツ・オブ・カリビアン』のシリーズを成功させているので、ディズニーにとっても安心感があるだろうし、ジョニー・デップとも気心が知れているのでしょう。音楽のダニー・エルフマンは、少々控えめな仕事ぶり。もっと弾けた雰囲気でも良かったのではないかと思いますが、デップのダンスの所だけは突発的に生き生きしていて、すぐに終わってしまうのが悔やまれます。

* キャスト

 主演のミア・ワシコウスカは、ロシアか東欧の人かと思いきやオーストラリア出身。ハリウッドの大作は初めてですが、繊細な演技で見事にアリスを体現してみせました。映画版で大きくクローズアップされた帽子屋はジョニー・デップ。又もや派手なメイクで登場し、演技自体は抑制が効いているものの、最後にはファッターワッケンなる奇抜なダンスまで披露します(しつこいようですが、このダンスはもっと長くても良かったと思うのですが)。

 赤の女王はヘレナ・ボナム=カーター。ここ数作はやっとバートン作品にも自然な姿で出演するようになったと思ったら、白塗りに奇抜なメイクを施し、頭部が巨大に膨らんだいびつな体型にされてしまいました。常に「首を刎ねよ!」と叫んでいる、原作のハートの女王に該当するキャラクターです。ただ、原作では口癖のように叫ぶだけなので不条理ギャグ的なおかしさがありましたが、映画では残酷で子供っぽいキャラクターに変わっています(生首がプカプカ浮かぶ池まで登場)。

 その側近イロソヴィッチは映画版オリジナルのキャラ。『バック・トゥ・ザ・フューチャー』で主人公の父親を演じたクリスピン・グローヴァーが独特の空気を漂わせますが、彼とバートンは古くからの知り合いだそうです。白の女王は、アン・ハサウェイ。しばらくこういう役は断っていたとの事ですが、彼女によればバートン作品は例外。「なぜなら私は、バートン映画に出演したくてこの世界に入ったのだから」。赤の女王と対比されていて、一見善良さ、純粋な優しさを象徴したキャラクターに見えますが、そこはバートンの事、一筋縄ではいかない多面的な人物像に造型されています。

 声優陣はすこぶる豪華。『スウィーニー・トッド』のアラン・リックマンとティモシー・スポールがそれぞれ芋虫アブソレムと犬のベイヤード、『フロスト×ニクソン』のフロストや『クイーン』のブレア首相を演じたマイケル・シーンが白うさぎ、『ピーターズ・フレンズ』の個性派スティーヴン・フライがシェシャ猫、『バットマン』の執事マイケル・ガフがドードー鳥、そしてバートン作品ではもうお馴染みとなった往年のドラキュラ役者クリストファー・リーが怪物ジャバウォッキーと、実写での競演も見てみたいほどユニークなキャスティング。

* アカデミー賞

 ◎受賞/美術賞、衣装デザイン賞    ◎ノミネート/視覚効果賞

 

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