過去にも様々な形で映像化されてきた、ルイス・キャロルの名作文学『不思議の国のアリス』。本作は、続編の『鏡の国のアリス』と合わせて、一つの映画版オリジナル・ストーリーに仕立てています。しかし、そのせいかどうか、映像こそカラフルでデフォルメが効いていますが、基本は正攻法で演出された典型的なハリウッド映画で、いわゆるバートンらしい要素はあまり見られません。結局、ハリウッドというのは理路整然とした筋運びを好む所であって、キャロルの名作でさえお決まりの起承転結に当てはめられてしまうのは残念。むしろ、シュールな笑いと不可解なパワーに満ち溢れ、いささか支離滅裂にも感じられるキャロルの原作の方が、よっぽどバートン作品っぽいように思えます。 しかし、この点はバートン自身の意向のようで、彼はこの原作を映画にするには明確なストーリー・ラインが必要だと考えました。ディズニーのアニメ版に対しても同じ事を言っています「ディズニー・アニメの“アリス”って、全くリアリティがないと思わないかい? 女の子がただウロウロして次々とクレイジーなキャラクターに会うだけの話だ。僕は、奇妙なイベントが続いているだけでなくて、リアルな感情とちゃんとしたストーリーを持たせようとしたんだ」。確かに、“バートンらしさ”さえ期待しなければ、充分に楽しめるファンタジー映画ではあります。 原作と大きく違うのは、主人公アリスの年齢。映画のアリスは19歳になっており、少女時代に迷い込んだワンダーランドでの事はもう忘れている。一方、ワンダーランドの住人達はアリスを覚えていて、彼女が変わってしまった事を嘆く。要するに、原作をモティーフにしたオリジナルのストーリーになっていて、原作に登場しないキャラクターも設定されています。現実世界のアリスの話で本編を入れ子構造にしているのも映画的ですが、これによって、アリスが少女から大人へと成長する過程を描く事が出来たのはメリットだと言えるでしょう。 アリスを演じた若手女優ミア・ワシコウスカが、なかなかの好演。大作に主演するのは初めてという事ですが、個性派俳優に囲まれてどことなく所在なげな彼女の佇まいは、現実世界でもワンダーランドでも自分の居場所を見つけられないアリスの置かれている状況と重なって、イメージにぴったりです。赤の女王と側近のイロソヴィッチ、白の女王、マッドハッター以外は、基本的にCGキャラクターばかりですが、声優に名だたる俳優達を集めていて、作品全体が通俗に堕ちないのはさすが。 本作は、ジェームズ・キャメロン監督の『アバター』に続いて、新生3Dシステムの本格上映に当たる映画ですが、『アバター』のように3Dの撮影技術を用いず、通常の撮影を行った後で3D変換処理を施しています。グリーンバックで俳優を撮影して背景はほとんどCG、俳優達の肉体にもCG処理が加えられたりと、半分アニメのような映画になっているのは時代の潮流として致し方のない所でしょうか。ただ、ジャングルの中で獣に襲われる場面や、怪鳥が大空を舞う場面など、『アバター』とよく似たシーンが多いのは少々気になります。 |