ダーク・シャドウ

Dark Shadows

202年、アメリカ (113分)

         

 監督:ティム・バートン

 製作総指揮:クリス・リーベンゾン

       ティム・ヘディントン、ブルース・バーマン

 製作:リチャード・D・ザナック

    グラハム・キング、ジョニー・デップ

    クリスティ・デンブロウスキ−、デヴィッド・ケネディ

 共同製作:カッターリ・フラウエンフェルダー、デレク・フレイ

 脚本:セス・グラハム=スミス

 (原案:ジョン・オーガスト、セス・グラハム=スミス

 (オリジナル版テレビ・シリーズ:ダン・カーティス)

 撮影監督 : ブリュノ・デルボネル, A.F.C.,A.S.C.

 プロダクション・デザイナー:リック・ヘインリックス

 衣装デザイナー:コリーン・アトウッド

 編集:クリス・リーベンゾン

 音楽:ダニー・エルフマン

 出演:ジョニー・デップ     ミシェル・ファイファー

     エヴァ・グリーン     クロエ・グレース・モレッツ

    ジョニー・リー・ミラー  ヘレナ・ボナム=カーター

    ベラ・ヒースコート    ガリー・マクグラス

    ジャッキー・アール・ヘイリー  クリストファー・リー 

    アリス・クーパー

* ストーリー 

 1972年、魔女アンジェリークの呪いによってヴァンパイアに変えられ、地中に埋められたバーナバス・コリンズが200年ぶりに甦った。しかし時代は変わっており、名家だったコリンズ家は没落。代わって街を支配していたのがアンジェリークだった。一族を復興させ、アンジェリークに復讐するため、バーナバスは様々な手を打つものの、時代錯誤な言動はあちこちでズレを生み、コリンズ家は再びアンジェリークに追いつめられてゆく。

* コメント   *ネタバレ注意!

 かつての人気テレビ・シリーズを映画化。シリアス調のオリジナル版にはなかったユーモアを追加したとバートンは述べていますが、時代のギャップを描いたコメディかと思いきや、蓋を開けてみれば重厚なゴシック・ホラーの雰囲気。勿論、現代に甦った吸血鬼が文化の相違に驚くというユーモアの要素はあるのですが、あくまで副次的というか、味付け程度に留められており、主軸は魔女に呪いを掛けられた男の悲恋を描く復讐譚です。

 特に冒頭部分、主人公が吸血鬼となった経緯を描くエピソードは、正にバートン好みのクラシカルな怪奇映画のタッチで語られていて、その風格に圧倒されます。又、それと同じ場所、同じ状況の場面をクライマックスに持ってくる辺り、非常に古典的な物語構造を踏襲した印象。

 私はテレビ版を全く知らないので、ストーリーの細部がどの程度オリジナルに忠実なのかはよく分かりませんが、道徳観念の基本ルールが混乱している所はいかにもバートン作品です。人間の犠牲を必要とする主人公がその人間の社会で生きていくには、通常は何らかのモラルかルールを前提にしなければ物語に不都合が出て来る訳ですが、本作ではバーナバスが人間を襲う行為が、ホラー描写なりユーモアなりで半ば強引に曖昧化されていて、私などはそこに違和感を覚えます。

 平たく言えば、バートンの態度は「ホラーだからいいじゃん、ギャグだからいいじゃん」という感覚的なもので、論理的整合性を一切無視しているように見えるという事です。そういう、倫理観が破綻している所がバートン作品の魅力でもありますから、それがうまく行けば面白い映画になるのですが、脚本に僅かでも筋の通ったモラルへの意識があると、逆に全体のコンセプトがおかしくなってしまうというのは、諸刃の剣という他ありません。

 ホフマン博士に対する態度も、展開としては唐突で理解し難い面があります(バートンは『スウィーニー・トッド』でも、ジョニー・デップがヘレナ・ボナム=カーターに不条理な殺意を示す場面を設けていますが、深層心理的に何かあるのでしょうか)。そもそもこの役柄自体が強い存在感に乏しいですが、その一方で、ベラ・ヒースコート演じるジョゼット/ヴィクトリアや、エヴァ・グリーンが演じる魔女に鮮烈なイメージを与えているのは気になる所。

 いずれにしても、物語がさほど強い求心力を持たず、どことなく全体に生気を欠く点は否めません。『スリーピー・ホロウ』や『猿の惑星』など、バートン作品に時々ある不完全燃焼の感じ、煮え切らない感じというのでしょうか。バートンは本作を「家族の物語」だと言いますが、どうも私には、そういう要素さえ希薄に思えます。クライマックスで長女キャロリンが正体を明かす場面も、それがストーリーの展開に影響を与える事がなく、単なる余興に終わってしまっているのは残念。

 これは、ホフマン博士やのエリザベスの弟ロジャーの描き方にも当てはまります。物語の枝葉として独立していて、切り落としても影響がない。映画全体に、有機的に絡んでこない。こういう所は、ロジックを無視した妙な勢いのある映画なら気にならない筈なのです。ティム・バートンという人は、『マーズ・アタック!』や『チャーリーとチョコレート工場』など、因習打破的で異常なハイテンションを維持した映画の方が、突き抜けた面白さが出るように思います。

* スタッフ

 プロデューサーにリチャード・D・ザナック、共同製作にカッターリ・フラウエンフェルダーといういつもの製作体勢に、前作から続いて編集担当のクリス・リーベンゾンが製作総指揮にも参加。さらに主演のジョニー・デップもプロデューサーに名を連ねています。

 『ビッグ・フィッシュ』以降、バートンとのコラボが続いているジョン・オーガストが原案に参加していますが、撮影用脚本はセス・グラハム=スミスという変わり種が執筆。『高慢と偏見とゾンビ』や『ヴァンパイアハンター・リンカーン』など、タイトルだけ見ればふざけているとしか思えない作品が多いベストセラー作家で、監督・製作・脚本まで務めたMTV学園コメディが『HARD TIMES〜僕のナニがアレなんで〜』という変な人。そのおかしさが脚本に出れば良かったのですが、意外に真面目なシナリオに仕上がったのは残念です。

 撮影監督はバートン組初参加、『アメリ』『ロング・エンゲージメント』などジャン・ピエール=ジュネ監督作でお馴染みのブリュノ・デルボネル。近年は『ハリー・ポッター』シリーズなど大作も担当している、フランスのシネマトグラファーです。バートンのように強い映像的好みを持つ監督の映画は、誰が撮影しても似たルックの映画になりがちですが、本作の微妙な色彩感覚と光の効果、柔らかくも美しいタッチはやはり魅力的。

 バートンのファンにとって嬉しいニュースは、ディズニー時代からの同士リック・ヘインリックスが、『猿の惑星』以来11年ぶりにプロダクション・デザインを担当している事。バートン作品特有のヴィジュアル・スタイルを担ってきたアーティストですから、ここに来てのコラボ復活は歓迎されます。衣装のデザインも、バートンとは気心が知れたコリーン・アトウッドが担当。

 音楽のダニー・エルフマンは、お得意のゴシック・ホラー調の音楽を生き生きと展開していますが、本作は70年代が舞台とあって、カーペンターズやカーティス・メイフィールド、エルトン・ジョン、ドノヴァンなど当時を彷彿させるヒット曲が多数流れ、いつものバートン作品とは少し雰囲気を異にします。又、パーティーの場面でアリス・クーパーが実名出演。自身のヒット曲を歌って、パフォーマンスだけでなく演技まで披露しています。

* キャスト

 ジョニー・デップ、ヘレナ・ボナム=カーターはもはやバートン作品の常連組。ただ、毎回違ったスタイルで登場する所は凄いですね。引き出しが多いというか。コリンズ家の当主エリザベスを演じるミシェル・ファイファーは、『バットマン・リターンズ』以来の出演。オリジナル版の大ファンだった彼女は、バートンとデップがこの企画に関わっていると聞いて居ても立ってもいられず、自らは売り込みをしないという平素のルールを今回だけは破ってしまったそうです。

 バーナバスの敵となる魔女アンジェリークは、ベルナルド・ベルトルッチ監督の『ドリーマーズ』で衝撃的デビューを果たし、ハリウッド・デビュー作『キングダム・オブ・ヘブン』でもエルサレム王女役で強いインパクトを残したエヴァ・グリーン。何か普通じゃない役柄が似合う、独特のオーラを放つ女優さんです。

 コリンズ家の長女キャロリンを演じたクロエ・グレース・モレッツも、『キック・アス』『モールス』『ヒューゴの不思議な発明』など、常に人目を惹く若手女優。5歳から業界に入っただけあって、年齢に似合わず貫禄十分ですが、役柄としては『マーズ・アタック!』のナタリー・ポートマンと同様、傍観者的な立場に終始してしまった印象。こちらも個性的な風貌が目を惹くガリー・マクグラス少年は、後に『リンカーン』にも出演。

 さほど名前が知られていない割に、異様な存在感を示すのがヴィクトリアとジョゼットの二役を演じたベラ・ヒースコート。クラシカルな美貌が作品の雰囲気に合っているせいもありますが、バートンの元恋人リサ・マリーに似ていたりもして、このスポットライトの当たり方は少し気になります。少なくとも、バートン好みの女性である事は確かじゃないでしょうか。脇の常連としては、元祖ドラキュラ俳優クリストファー・リーが、バーナバスと取引をする漁師役で出演。又、テレビ版の出演者も、パーティの場面で揃ってカメオ出演しています。

 

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