フランケンウィニー

Frankenweenie

202年、アメリカ (モノクロ、87分)

         

 監督:ティム・バートン

 製作総指揮:ドン・ハーン

 製作:ティム・バートン、アリソン・アベイト

 共同製作:デレク・フレイ、コニー・ナルトニス・トンプソン

 脚本:ジョン・オーガスト

 (原案:ティムバートン、レニーリップ

 撮影監督 : ピータ・ソーグ

 プロダクション・デザイナー:リック・ヘインリックス

 編集:クリス・リーベンゾン、マーク・ソロモン

 音楽:ダニー・エルフマン

 出演:チャーリー・ターハン  キャサリン・オハラ

     マーティン・ショート  マーティン・ランドー

    ウィノナ・ライダー  アッティカス・シェイファー

* ストーリー 

 少年ヴィクター・フランケンシュタインは、学校の授業でカエルの死体が電気で動くのを見て、車に轢かれて死んだ愛犬を生き返らせる事を思いつく。奇跡的に蘇生に成功した彼だが、そのアイデアが科学展のライバルであるクラスメイト達に盗まれ、彼らが復活させたモンスターが町をパニックに陥れいれる。

* コメント   

 1984年製作の実写モノクロ短篇を、全く同じタイトルでモノクロのまま長編化したリメイク版。ただし今回はストップ・モーション・アニメで、なおかつ3D仕様。もしかすると初のモノクロ3D映画かもしれません。ストーリーは、枠組みこそオリジナルと変わりませんが、登場人物が増えて枝葉のエピソードも追加され、さらに見応えのある劇映画となりました。科学展をめぐる子供達の競い合いのエピソードを導入した事により、山場をよりスケール・アップして盛り上げる事にも成功しています。

 具体的には、パニック・ホラー的な見せ場が用意されている訳ですが、それら一連の場面や、死体を甦らせる実験の高揚感溢れるシーン構成も迫力満点。又、古くはハマー・フィルム辺りの怪奇映画(主人公の両親がテレビで『吸血鬼ドラキュラ』を観ており、この画面だけは実写になっています)から、日本の怪獣映画(このクリーチャーを甦らせるのは日本人の子ですが、バートンは「意図的じゃない」と供述しています)、さらに『グレムリン』や『ジュラシック・パーク』など、古今東西のモンスター映画の記憶に満ち満ちているのも嬉しい所。

 ストーリーは拡張され、画面も実写から人形アニメに変わりましたが、それでも冒頭の自主映画上映の場面(こちらも3Dという設定で、主人公達も専用メガネで観ています)から、スパーキー復活場面の二対の円盤や3体のシカのオブジェ、墓地の丘や、クライマックスの風車、円形に配置された車など、オリジナルの画面をそのまま再現している箇所も少なくありません。又、人形アニメになった事でデザイン性が増し、キャラクターもバートン&ヘインリックスらしいグロテスクさとキュートさが同居する、独特の造形になっているのは、ファンにとって嬉しい所でしょう。

 一口にストップ・モーション・アニメといっても、新作が出る度に技術の進化は著しく、本作でも、キャラクターの動きの滑らかさ、自然さは驚異的といっていいほどです。しかも、セットや小道具、背景に至るまでディティールの描写が緻密を極め、正に製作総指揮のハーンが言う所の「正気とは思えないほど徹底していて、観客が現実に引き戻される事はない筈だ」というのも、決して嘘ではありません。

 モノクロ映像の効果も絶大で、息を飲むほどの美しさ。バートンがずっと描いてきたアメリカ郊外住宅地のイメージや中流家庭の生活感、そして、光と影のコントラストのが強い表現主義的な色彩と構図、さらには古風な怪奇映画を彷彿させるゴシック的な造形感覚が、全く自然に渾然一体となった世界が展開。これはもう自分のブランドと世界観を確立したバートンにしかできない離れ業という感じがします。映像自体も非常に美しく、格調の高いもので、一つ一つの画面の芸術性の高さも特筆大書したい所。

* スタッフ

 製作総指揮は『美女と野獣』『ライオン・キング』など復活後のディズニー作品を数多く手掛けたドン・ハーン、製作はバートン自身と、彼のストップ・モーション・アニメ作品には欠かせない存在であるアリソン・アベイト。脚本は短篇作品だったオリジナルを元に、近年のバートン作品を一手に引き受けるジョン・オーガストが脚色しています。

 撮影のピーター・ソーグは、CMや短篇映画出身で『コープス・ブライド』にライティング・キャメラマンとして参加。ストップ・モーション・アニメ特有の技術が買われて、『コララインとボタンの魔女』にも起用されています。長編の撮影監督としては、本作がデビューとの事ですが、各場面の映像の美しさ、構図の見事さは全く非の打ち所がなく、既にして一級のセンスの持ち主と感じられます。

 本作は、何といってもバートンの盟友リック・ヘインリックスのプロダクション・デザインが見どころ。各キャラクターのデザインだけでなく、背景や小道具など、映画の世界観全体に独特のセンスが横溢していて、その仕事をつぶさに追うだけでも、繰り返しの鑑賞に値します。彼は短篇のオリジナル版にも共同製作者としてクレジットされていますが、その時もロケ地選びやセットのデザインまで広く担当したそうで、この人を得た事が本作の成功の鍵ではなかったかと推測します。

 編集は、バートン組のクリス・リーベンゾン。習作っぽい旧作を、いかにも劇映画らしい起承転結のある長編へ成長させた業績は、彼の力が大きいです。得意のスリリングなアクション・シークエンスから、ホラー映画風、SF映画風のシーン構成まで、どの場面にも見事な編集センスを発揮。音楽のダニー・エルフマンは、今回もちょっと存在感薄めで、これという、耳に残るテーマが欲しい所。

* キャスト

 本作では、長らくバートンと仕事をしていなかった俳優達が何人も声優にキャスティングされているのが、ファンには楽しみの一つです。町長の姪エルザ(姓はドラキュラ映画でお馴染みヴァン・ヘルシング)を演じるのは、『シザー・ハンズ』以来の登板となるウィノナ・ライダー。沈んだ調子と掠れた声で彼女とはなかなか分かりませんが、劇中では歌声も披露しています。

 キャサリン・オハラも、『ナイトメア・ビフォア・クリスマス』以来の配役。ここでも3役を演じ分けていて、主人公の優しい母親、高圧的な体育の先生、風変わりな女の子フシギちゃんと、全くタイプの異なる役で多芸多才ぶりを発揮。同じく3役を器用に演じ分けたマーティン・ショートも、『マーズ・アタック!』以来の登板。彼も主人公の父親、しわがれた悪役声のブルゲマイスター町長、変わり者の子供ナソルと、全く声色の違う3つのキャラクターで大活躍。

 科学のジクルスキ先生は、『スリーピー・ホロウ』以来のバートン作品となるマーティン・ランドー。授業の場面などは圧倒的な表現力で、アニメである事を忘れさせるほどの迫力。主人公の声を演じるチャーリー・ターハンはウィル・スミス主演の『アイ・アム・レジェンド』で注目され、ドラマ『FRINGE』でブレイクした子役俳優。エドガーの声を担当したアッティカス・シェイファーも声優ではなく、『ハンコック』などに出演している子役俳優です。

* アカデミー賞

 ◎ノミネート/長編アニメ賞

 

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