ミス・ペレグリンと奇妙なこどもたち

Miss Peregrine's Home for Peculiar Children

2016年、アメリカ (127分)

 監督:ティム・バートン

 製作総指揮:デレク・フレイ、カッターリ・フラウエンフェルダー

       ナイジェル・ゴステロウ、イヴァナ・ロンバルディ

 製作:ピーター・チャーニン、ジェノ・トッピング

 脚本:ジェーン・ゴールドマン

 (原作:ランサム・リグズ)

 撮影監督 : ブリュノ・デルボネル, A.F.C.,A.S.C.

 衣装デザイナー:コリーン・アトウッド

 編集:クリス・リーベンゾン

 音楽:マイク・ハイアム、マシュー・マージェソン

 出演:エヴァ・グリーン  エイサ・バターフィールド

    エラ・パーネル  サミュエル・L・ジャクソン

    クリス・オダウド  アリソン・ジャニー

    ジュディ・デンチ  テレンス・スタンプ

    ルパート・エヴェレット  ローレン・マクロスティ

* ストーリー 

 フロリダに暮らす孤独な高校生ジェイクは、幼い頃から祖父の語る荒唐無稽な冒険譚を聞くのが大好きだった。ある日、その祖父が謎めいた死を遂げる。ジェイクは祖父が遺したメッセージに導かれ、英国ウェールズの小さな島を訪れる。そこで、大きな屋敷の廃墟に迷い込んだジェイクは、女主人ミス・ペレグリンと、奇妙な能力のために外の世界では生きられない子どもたちと出会う。

* コメント   

 ランサム・リグズのロングセラー小説『ハヤブサが守る家』の映画化。バートンは元来、感情やモラルの表現に頓着しないというか、既成概念を切り離して因習打破的な態度を取る傾向にあると思うのですが、本作は『ビッグ・フィッシュ』以来と言ってもいいほど、感情の色調がはっきりした作品になっています。これは原作に明快なストーリー・ラインがあるせいかもしれませんが、脚本も演出も、謎解き、脅威との戦い、恋の行方にはっきりと照準を絞っていて、バートン作品としては珍しく分かりやすい作風になっています。

 もっとも、バートンが興味を持った題材だけあって、奇抜なテイストは十分。ストーリーも骨格こそオーソドックスですが、映画を観た方ならご存知の通り、随所にユニークなアイデアが盛り込まれています。映画としては、ディティールに過去のバートン作品を彷彿させるイメージを満載しているのも見逃せない所。例えば、恐竜の形の植え木、骸骨の兵士、ストップ・モーション・アニメの人形、異形のモンスター、祖父が語る冒険談、古い屋敷、隠れ里のようなユートピア、特殊能力同士のバトル、窓の外から襲撃される年配者など、バートン・ファンが嬉しくなるようなシーンをあちこちに挟み込んでいます。

 一方で、劇映画の基本的な演出スキルが卓越しているのはバートンの強みで、役者が普通の芝居をするドラマ部分も安定感があるし、巨大船が浮かび上がる場面や、遊園地での複雑なアクション、戦闘機による爆撃、スケールの大きな空撮など、大規模なスペクタクルにも手腕を発揮しています。前半を中心に、ホラーの要素が強いのもバートン好みですが、その意味ではやや刺激が強く、子供向けの映画としてはお薦めできません。

 特殊能力を持った子供達の描写に大きく時間を割いているのも、バートンらしい所。空爆の時間が迫り、窓から避難するシーンなんて、普通なら全員の描写を入れる必要なんてないように思いますが、一人一人ちゃんと丁寧に描いてゆく所に、バートンがキャラクターへ注ぐ愛情が表れています。又、本作では珍しく音楽のダニー・エルフマンが不参加で、それが幸か不幸か、アクション系のリアルなテイストもある作風にひと役買っているようです。

* スタッフ

 製作はバートン組のデレク・フレイ、カッターリ・フラウエンフェルダーの他、ザ・チャーニン・グループの会長、社長でもあるピーター・チャーニン、ジェノ・トッピングが担当。彼らはリドリー・スコット監督の『エクソダス:神と王』なども製作しています。

 原作のランサム・リグズは古い写真を収集していて、本作もそれらの写真から発想した物語ですが、同じく古い写真を集めているバートンはそこに共感。ヴィジュアル的にも、基になった写真を再現するような映像化を行っています。脚本のジェーン・ゴールドマンは、『キック・アス』や『X-MEN』シリーズなどアクション大作で活躍しているライターで、彼女の資質も本作の明快さに繋がっているかもしれません。結末の展開は原作と大きく異なっており、エマの特殊能力もオリーヴのそれと設定を入れ替えています。

 撮影は前2作に続き、『アメリ』『ハリー・ポッターと謎のプリンス』等で4度のオスカーに輝くブリュノ・デルボネル。舞台があちこち変わって変化に富む映画ですが、テイストを巧みに変化させながらも、常に美的センス溢れる画作りで観客を魅了します。

 プロダクション・デザインは『スター・ウォーズ』新シリーズのギャヴィン・ボケット。同じく舞台の変化を巧妙に演出してバートン作品との相性の良さも窺わせます。舞台となる城はベルギー、アントワープにある小さな城で撮影。空き家だったのをたまたま見つけたとの事ですが、庭や内部など大半をここで、室内シーンの半分をロンドンのセットで撮影しています。クライマックスの埠頭の遊園地は英国のブラックプールという、古いリゾート地でロケ。あまり映画には使用されない土地ですが、それが作品にユニークなルックを提供しています。

 衣装デザインのコリーン・アトウッド、編集のクリス・リーベンゾンはバートン組、音楽は常連ダニー・エルフマンから若手二人に交替しています。その一人マイク・ハイアムは『コープス・ブライド』『チャーリーとチョコレート工場』以降の音楽編集を手掛け、『ビッグ・アイズ』に追加スコアを提供した人。マシュー・マージェソンはゼロ年代以降に活躍している新進で、過去の担当作には『キングスマン』『スカイライン/征服』『キック・アス/ジャスティス・フォーエバー』等があります。エルフマンのような型破りの個性はありませんが、よりリアリスティックなアクション・スコアという感じの手堅い音楽。

* キャスト

 タイトル・ロール役のエヴァ・グリーンは、『ダーク・シャドウ』に続くバートン作品。ここでは抑制の効いた芝居で、個性豊かな子供達の存在を引き立てていて、撮影現場に顔を出していた原作者リグズも、「彼女は優しくて、控えめで、素敵な人だった」と語っています。

 主人公ジェイクを演じるエイサ・バターフィールドと、エマを演じるエラ・パーネルは元々友人同士で、オーディションで会って驚いたとの事。前者は『ヒューゴの不思議な発明』『エンダーのゲーム』で高く評価され、『僕と世界の方程式』で数学の天才少年を演じるなど英国の実力派。パーネルも英国出身で、『わたしを離さないで』でキーラ・ナイトレイの少女時代、ディズニー大作『マレフィセント』で若き日のマレフィセントを演じるなど、既に引っ張りだこの人気女優。水中シーンやアクションをはじめ、スタントも彼ら自身が行っています。

 子供達の多くは本作で映画デビューを飾る新人が多い一方、大人には重厚なベテランを多くキャスティング。ミス・アヴォセットを大女優ジュディ・デンチ、祖父エイブを個性派テレンス・スタンプが演じているのも豪華ですが、悪の親玉バロン役でサミュエル・L・ジャクソンがバートン作品初出演。特殊メイクも辞さない癖の強い役を生き生きと演じる一方、ワイヤーを使ったスタントなども自ら行っています。

 又、『アナザー・カントリー』『ベスト・フレンズ・ウェディング』のルパート・エヴェレットが鳥類学者の役で出ていますが、かつての面影を残さないほど年を取っていて、ちょっとショック。他では、ジェイクの父親を演じるクリス・オダウドが独特のニュアンスで好演。出演作に『ブライズメイズ/史上最悪のウェディングプラン』『マイティ・ソー/ダーク・ワールド』などがありますが、コメディ番組でブレイクした人との事で、劇中の飄々とした風情も納得です。

 

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