シンドラーのリスト

Schindler's List

1993年、アメリカ (195分)

         

 監督:スティーヴン・スピルバーグ

 製作総指揮:キャスリン・ケネディ

 製作:スティーヴン・スピルバーグ

    ジェラルド・R・モーレン、ブランコ・ラスティグ

 共同製作:ボニー・カーティス、ルー・ライウィン

      ロバート・レイモンド、アーヴィング・グローヴィン

 脚本:スティーヴン・ザイリアン

 (原作:トーマス・キニーリー)

 撮影監督 : ヤヌス・カミンスキー

 プロダクション・デザイナー:アラン・スタースキー

 衣装デザイナー:アンナ・ヴィードリシュカ・シェパード

 編集:マイケル・カーン

 音楽:ジョン・ウィリアムズ

 ポスト・プロダクション総指揮:マーティン・コーエン

 出演: リーアム・ニーソン  ベン・キングズレー

     レイフ・ファインズ  キャロライン・グッドール

    エンベス・ダヴィッツ  ジョナサン・セガール

* ストーリー 

 ドイツ人実業家オスカー・シンドラーは、ナチスによるユダヤ人虐殺を目の当たりにし、密かにユダヤ人救済を行動に移す。労働力の確保という名目で多くのユダヤ人を安全な収容所に移動させてゆく彼だが、ナチスによる大量虐殺は熾烈さを増してゆく。

* コメント   *ネタバレ注意!

 ユダヤ系アメリカ人であるスピルバーグにとっては、避けて通れない民族的悲劇であるホロコーストを扱った、エポック・メイキングな作品。悲願であったアカデミー賞の受賞も達成した他、映画作家としての作風の転換点にも当たる、極めて重要なフィルムでもあります。モノクロ(一部カラー)で、しかも3時間を越える長尺のシリアスなドラマを一気に見せてしまうテンションの高さは尋常ではなく、画面に漲る鬼気迫るような集中力と緊張感も、並の映画とは一線を画します。

 モノクロの本編は、カラーで撮影された短いドキュメンタリー・シーンで挟まれ、唯一、黒澤明監督の『天国と地獄』へのオマージュだという、赤いコートの少女が戦場をさまよう場面にのみパートカラーを使用。物語は、ドイツ人実業家シンドラーがユダヤ人を組織して工場を運営し、彼らの命を救う様を描きながら、平行してアーモン・ゲート率いるナチス軍がユダヤ人達に加える、身の毛のよだつほど残虐な殺戮行為を描写してゆきます。

 それらのどの場面にも、スピルバーグが今までに培ってきた効果的なドラマ構成技法やモンタージュ、映像のテクニック、サスペンス描写が縦横無尽に生かされていますが、それをもって本作が、結局は過去のスピルバーグ映画の延長線に過ぎず、所詮スピルバーグはスピルバーグにすぎないという、シニカルな見方が一定数あるのは残念な事です。どのような映画作家であれ、新しい作品(それが自身のルーツに関わる、集大成のような特別な作品であっても)に自身のセンスや能力を総動員するのは、当然の事だと思います(むしろ、そうでなくてはなりません)。

 恐怖を呼び起こす描写が過剰に感じられるのは確かですが、ナチスの行為の恐ろしさを描こうという時、又、実際に起った出来事の苛烈さを想像する時、映画としてここからはやり過ぎというラインなど、誰であれ容易に設定できるものではありません。スピルバーグは、こういうサスペンスや残酷な描写がやりたくて本作を撮ったのだろうという人達もいて、その中にプロの映画監督までいるのは情けない限りですが、いかに外国人とはいえ、このような歴史観のパースペクティヴを欠いた脳天気な発言は、私には言語道断に思えます。スピルバーグにとって、この映画の撮影がどれほどの重圧と苦痛が伴うものであったか、想像に難くありません。

 唯一難を言えば、ナチス・ドイツ側の人間をはじめ、全員が英語でセリフを喋るのは、フィクション性を全面に押し出している事に他ならず、日本語字幕で観る私達日本人はともかく、英語圏、そして欧州の観客にとっても、リアリズムの観点でそれは大きな壁となっているかもしれません。しかし映像の迫真力は、言葉の問題も超越しているようの見受けられるし、神がかり的なジョン・ウィリアムズの音楽も、言葉を越えたメッセージを観客に送ってよこします。そしてドラマは緊密に構成され、映像は異様な迫力を伴って、スクリーンに恐るべき所行を映し出す。

 シンドラーが必ずしも慈愛に溢れた人物ではなく、むしろ最初は観客の目に、ややうさん臭い人物として映る所がポイントです。元々は博愛主義者でも人道主義者でもなく、人助けをしようと思っている訳でもない。むしろ、結果的に人の命を救った事によって、彼の中の何かが目覚めてくるようにも見えます。シュテルン達の感謝の気持ちを受けた彼が、「もっと救えたのに」と泣き崩れる場面は胸を打ちます。確かに、そうなのでしょう。彼が最初から本物の人道主義者であったなら、もっとたくさんの命を救えたのかもしれません。

 でもこの場面こそが、史実に基づいた長大な作品に寓意を与えてもいるのです。この場面がある事で本作は、「今、出来る事を、後悔しないようにやろう」という映画にも見える。逆に、多くの人が指摘する最後の場面、収容所の生存者達によるドキュメンタリー・パートは、蛇足に感じられる事も否めません。ドラマとしての凝集度を損ねてまで、こういう駄目押しのメッセージをくっつけてしまう所は、スピルバーグの弱点でもある、表現の過剰さの表れと言えそうですね。

* スタッフ

 製作陣はキャスリン・ケネディの他、『ジュラシック・パーク』からジェラルド・R・モーレンとボニー・カーティスも引き続いて参加。スピルバーグ作品初参加となるブランコ・ラスティグはポーランド人で、自身も収容所の生存者だそうです。彼はドリームワークスの第1作『ピース・メーカー』の製作を任された後、同社のヒット作『グラディエーター』でリドリー・スコット監督と出会い、その後のスコット作品も多数手掛けています。

 脚本のスティーヴン・ザイリアンは、『コードネームはファルコン』でデビューした人で、本作同様、実話を基にした『レナードの朝』でアカデミー脚本賞にノミネートされています。彼もリドリー・スコット作品を多数手掛けている他、『ミッション:インポッシブル』『ギャング・オブ・ニューヨーク』『ドラゴン・タトゥーの女』など、人気監督の話題作に次々と関わる売れっ子ライターとなりました。プロダクション・デザイナーのアラン・スタースキーもポーランド人で、アンジェイ・ワイダ監督作の美術や『ソフィーの選択』などを担当してきた人。

 撮影は、これもポーランド出身のヤヌス・カミンスキー。本作公開の時点では全くの無名で、どういう経緯で彼が起用されたのかよく分からないですが、とにもかくにも目覚ましい才能を発揮して見事オスカーを受賞。以後、全てのスピルバーグ監督作品を担当しており、公私に渡る親友になりました。ここではろくにライトも使わず、自然光を使って手持ちキャメラで撮影したそうですが、構図や光の表現はドキュメントというより、むしろクラシックなモノクロ映画のそれを思わせる格調の高さがあります。

 編集のカーン、音楽のウィリアムズはいつも通りですが、今回の音楽は過去のスピルバーグ作品とムードを一新、名ヴァイオリン奏者イツァーク・パールマン(豪華!)が、マイナー・コードの物悲しいテーマを切々と奏でます。通常なら俗っぽくなりがちな所、跳躍の多いウィリアムズ特有のメロディ・ラインの癖が、新鮮な効果を生んでいて秀逸。メイン・テーマ以外の音楽も荘厳で緊張感に溢れ、印象に残ります。作品が特別だと、関わるアーティストも特別な仕事をしてしまうという好例ですね。オーケストラはなんと、名門ボストン交響楽団のメンバーで構成されており、響きも上質。

* キャスト

 主役オスカー・シンドラーにリーアム・ニーソン、ナチスの残虐さを体現する収容所所長アーモン・ゲートにレイフ・ファインズ、会計士シュテルンにベン・キングズレーとは、文句なしのキャスティング。特にファインズは、当時あまり知られていなかった役者ですが、ぞっとするほどの恐ろしい演技で、本作の要といってもいい役目を果たしました。後に彼が、心優しい青年から正義感の強い主役、クセのある悪役まで、幅広く演じられる実力派として知名度を上げた事は、映画ファンとして嬉しい限りです。

 シンドラーの妻を演じているのは、『フック』でも素晴らしい演技で作品を引き締めたキャロライン・グッドール。過去にスピルバーグ作品の出演経験があるキャストは、彼女一人ではないかと思います。ゲートに仕えるユダヤ人女性ヘレンを演じているエンベス・ダヴィッツも、サム・ライミ監督『キャプテン・スーパーマーケット』で本格デビューという異色の経歴ながら、ロバート・アルトマン作品などで活躍する実力派(名前の発音はデイヴィッツではなく、ダヴィッツらしいです)。

* アカデミー賞

 ◎受賞/作品賞、監督賞、脚色賞、撮影賞、作曲賞、美術賞、編集賞

 ◎ノミネート/主演男優賞、助演男優賞、衣裳デザイン賞、メイクアップ賞、音響賞

 

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