ロスト・ワールド/ジュラシック・パーク

The Lost World : Jurassic Park

1997年、アメリカ (129分)

         

 監督:スティーヴン・スピルバーグ

 製作総指揮:キャスリン・ケネディ

 製作:ジェラルド・R・モーレン、コリン・ウィルソン

 共同製作:ボニー・カーティス

 脚本:デヴィッド・コープ

 (原作:マイケル・クライトン)

 撮影監督 : ヤヌス・カミンスキー , A.S.C.

 プロダクション・デザイナー:リック・カーター

 衣装スーパーヴァイザー:スー・ムーア

 編集:マイケル・カーン

 音楽:ジョン・ウィリアムズ

 第1助監督:セルジオ・ミミカ=ゲザン

 セカンド・ユニット監督: デヴィッド・コープ

 ユニット・プロダクション・マネージャー:D・スコット・イーストン

 ポスト・プロダクション総指揮:マーティン・コーエン

 音響デザイン: ゲイリー・ライドストロム

 フル・モーション・ダイナソー:デニス・ミューレン

 ライヴ・アクション・ダイナソー:スタン・ウィンストン

 特殊効果:マイケル・ランティエリ

 出演:ジェフ・ゴールドブラム  ジュリアン・ムーア

    ピート・ポスルスウェイト  リチャード・アッテンボロー

    アーリス・ハワード  ヴィンス・ヴォーン

    ピーター・ストーメア  リチャード・シフ

    ヴァネッサ・リー・チェスター  ハーヴェイ・ジェイソン

* ストーリー 

 前作の悲劇から4年後。コスタリカ沖に浮かび小島、イスラ・ソルナに上陸したある富裕な家族が、浜辺で恐竜に襲撃される。その島は“サイトB”と呼ばれる、ジュラシック・パーク計画による恐竜クローン再生の拠点だった。しかし、インジェン社の経営者ハモンドは、カオス理論の学者マルコムを呼んで、島を人間社会から隔離し、自然に繁殖した恐竜達を保護するため、探検隊への参加を要請する。「これは新たな過ちだ」と断るマルコムだが、恋人でもあるサラが既に依頼を受け、マルコムに黙って島へ渡ったと聞き、彼女を連れ戻すため島へ行く事になる。

 島で恐竜の写真を撮るサラを発見したマルコム一行は、同時に、インジェン社のヘリやトラックが大挙して島へやってくるのを目にする。ハモンドの会社は度重なる事故のため、損害や遺族への補償で倒産寸前、彼の甥ルドローはCEOのハモンドの解雇を役員会で決定し、社の資産である恐竜を生け捕りにして、街で見せ物にする計画を発表したのだった。

* コメント  *ネタバレ注意!

 当初から作る予定だったという、スピルバーグ自身による続編。スピルバーグ映画における純粋な続編は、これが初めてかつ唯一です(『インディ・ジョーンズ』は続編ではなく、シリーズだそうです)。かつてILMのスタッフだったジョー・ジョンストン監督から直々に監督したい旨の要望を受けていたスピルバーグは、この時点で三作目なら任せてもいいと返答し、実際にその約束は守られました。本作は、サブ・キャラクターだったカオス理論学者マルコムを主役に据え、クセ物俳優を多数集めて製作。前作で主役だったグラント博士とは登場せず(三作目では再び主演に返り咲きますけど)、ハモンドと彼の子供達が少しだけ出てきます。

 前作と違うのは、テーマパークではなく自然環境の中に恐竜がいる点と、恐竜が都会に上陸するという、『ゴジラ』や『キングコング』へのオマージュ精神に満ちた第三幕がある点。スピルバーグは、自分の中にいる恐竜好きの子供だけでなく、観客の要望に応える形で映画を作っているといい、いみじくも語る「観客と私のコラボレーション」という表現は、正にスピルバーグという人の本質を言い得て妙だと思います。又、科学的な説明場面が少なく、最初からドラマへ入ってゆける上、群像劇ながら人物の描写も増えている点が前作と違います。恐竜を保護する立場、狩る立場の二つのグループが、対立しながら逃避行を続けるというのは、なかなかユニークなアイデアですね。

 シニカルな変人だったマルコムが、本作では別人になってしまったという批判が公開当初目立ちましたが、このような極限状態に置かれてもシニカルな態度のままいられる事の方が不自然ですし、前作でも実はマルコム、ちゃんと子供達を助けつつ、必死で逃げ惑っておりました。今回も、単身で危険な島に渡った恋人を追って行く訳だし、自分の娘までこっそりついて来たとあっては、とても皮肉な調子でやり過ごせる状況ではありません。大真面目で当たり前です。

 とはいえ、こういう作品では純粋に娯楽性を追求出来るのか、アクション演出やスペクタクル効果に満ちたシーン構成の才を遺憾なく発揮しているのが何より。私達観客も、それらの傑出した描写力の妙を、心置きなく堪能すればよいのだと思います。冒頭のエピソードでは恐竜の姿をあまり見せず、本編に入ってから大見得を切って恐竜を登場させるケレン味は、半ば様式美のごとく前作をそのまま踏襲。その恐竜が、前作には出て来なかったステゴサウルスというのもサービス精神を感じさせます。多くのスタッフが証言するように、スピルバーグはアクション演出に関してはアイデアの宝庫みたいな人だそうで、この場面のアクション演出も、多彩なアイデアを盛り込んで迫力満点。

 冒頭エピソードを締めくくる女性の悲鳴が、地下鉄の騒音に繋がる編集や、小屋から脱出しようと地面を掘る人間達と、小屋へ侵入しようと地面を掘るラプトルの手を交互に見せるカットバックなど、緊迫した状況の中にもユーモアを忘れないのはスピルバーグらしい所。日本風の瓦屋根の上に避難したサラが、瓦と共にずり落ちながらラプトルとやり合うシークエンスも、実に奇抜でユーモラスなアイデアです。滝の裏に隠れた一行がTレックスの攻撃を一旦かわし、また戻って来たぞと悲鳴を上げたら、今度は人間が入ってきたというフェイントも、スピルバーグお得意の手法(劇場では笑いが起っておりました)。

 人物の顔を映すのに、仰角のクローズアップを多用しているのは前作から(というより過去のスピルバーグ映画全てから)継承したスタイルですが、崖から半分が落ちかけているトレーラーの中を抜けて、宙づりになった主人公を上から覗き見るまで、ワンカットの長回しで撮った仰天シーンもあります。又、前作には、コップの水がTレックスの足音に振動するという印象的な演出がありましたが、これも本作では、水たまりを使って継承されています。

 或いは、『ハタリ!』を下敷きにした躍動感溢れる恐竜ハンティングの場面や、オスとメスの2体に増やしたTレックスとの攻防の数々、第二次世界大戦時の潜水艦の映像に触発されたという、夜の草原で軌跡を描きながら突進するラプトルの場面など、凡百の映画作家にはとても思いつきそうもない斬新なアイデアの数々は、枚挙に暇がありません。又、サラがガラス板の上に落ち、徐々にひびが入ってゆくくだりなど、敢えて恐竜以外の部分でスリルを倍増させる手腕は、スピルバーグの面目躍如たる所です。

 特に注目したいのは、夜、サンディエゴの港にタンカーが到着するシーン。警告に応えず、減速しないまま桟橋に突進して来る巨大タンカーが、港に集まった人々が呆気に取られてじっと見ている、その“静”の構図の中へ、濃い霧の中から突然凄まじいパワーで突入してくる、このシュールなまでの映像的破壊力の凄さ。前作では、Tレックス襲撃シーンで一切の音楽を省いたスピルバーグですが、彼はこの港の場面にも、一切音楽を付けていません。それでいて、この映像が奏でる不協和音の、何と衝撃的な音楽性の高さ。

 一方では、悪い意味でスピルバーグらしいというか、「そういう事さえやらなきゃいいのに」と残念に思ってしまう類いの場面も、やっぱりあります。ラプトルの決死の攻防を描いたアクション・シークエンスにおいて、マルコムの娘が建物の梁で体操選手ばりのアクロバットを披露し、ラプトルを撃退するくだりは、やり過ぎショットで興冷め。こういう過剰なサービス精神で一気に通俗へ堕ちてしまうのが、まあスピルバーグの性なのですけれど、これさえなきゃ作品のクオリティを一段上に保っていられるのではないでしょうか。

 恐竜自体は、種類が前作より飛躍的に増えた訳ではありませんが、アイデアでカバーしたといった所。翼竜プテラノドンは、当初の脚本ではパラグライダーやヘリコプターとの派手な攻防場面がありましたが、Tレックスのアメリカ上陸場面に変更されたため実現せず、ワンカットだけの登場に留まりました。翼竜の出演は観客からの要望も多かったようで、第3作では大々的に描かれましたが、当初予定されていたヘリとの攻防場面は、メイキング映像で披露されたストーリーボードで見るだけでも迫力満点で、実現されなかったのは残念至極です。

 さて、この二作の成功を受け、ユニヴァーサル・スタジオにもアトラクションが作られました。スピルバーグはこれを二か月かけて設計し、最後の滑り落ちる所以外は全て彼のアイデアで作り上げたそうです。ただし、彼は絶叫マシンは苦手なので、試乗の際は最後に落ちる直前で降ろしてもらったとのこと。ジョン・ウィリアムズのテーマ音楽は、施設の外にまで聴こえていたそうで、第3作も担当したプロデューサーのキャスリン・ケネディは、毎日この曲が聴こえてくる環境で新作の準備をするのが、とても不思議だったと語っています。

* スタッフ

 メイン・スタッフは、脚本のデヴィッド・コープも含めて前作からそのまま引き継がれていますが、唯一、交替したのが撮影監督。間に挟んだ『シンドラーのリスト』で初起用され、その後のスピルバーグ作品を一手に担っている人ですが、この時点ではまだ二作目のコラボでした。当時は、あの沈鬱なモノクロ映像を撮ったキャメラマンが『ジュラシック・パーク』の続編なんて、と不安を覚えたものでしたが、本作の映像美はまったく見事なものでした。つまり私は、彼の他の作品を観た事がなかったので、勝手に地味なカラー・パレットを使う人だと思い込んでいたのです。

 オレンジ色の光に彩られたハモンドの邸宅、逆光で撮られた恐竜ハンティングのシーン、緑や青みがかった冷たいトーンのジャングル、まるで夢の中の風景みたいに幻想的な夜の草原、どのシーンもリアルである事より美的感覚が優先していて、シャープなリアリズムの中に繊細な色彩美を盛り込む前任者のディーン・カンディとは、まるで逆のアプローチといえます。暗い場面が多いですが、前作で十分恐竜を見せたため、本作ではフィルム・ノワールのような質感で違いを出したかったと、監督もカミンスキーも説明しています。

 リック・カーターのプロダクション・デザインも素晴らしく、廃墟と化した通信センターを除けばほとんどが自然の背景であるにも関わらず、野外(今回は主にユーレカ郊外の州立公園で撮影)のロケーションとセット美術を組み合わせて、イメージ喚起力の豊かな舞台を用意しています。トレーラーが崖から落ちるアイデアは彼の提案だそうで、これは何と、スタジオの立体駐車場の壁面に崖のセットを貼付けて撮影しています。又、ラプトルが潜む草原の場面のために何か月もかけて草を育てたそうで、改めてプロダクション・デザイナーという仕事の守備範囲の広さに驚きます。

 特殊効果は、本作もスタン・ウィンストンがデザインと動き、マイケル・ランティエリが特殊装置を担当した等身大のアニマトロクスと、デニス・ミューレンのチームによるCGを繋ぎ合わせており、この分野を代表する重鎮達の芸術的アンサンブルが見事に功を奏しています。技術的も前作より遥かに改善されているそうですが、2体のTレックスは動かすのがあまりに困難だったため、逆にセットの方を動かして撮影したとのこと。つまり、この二匹が登場する場面は全て、固定されたロボットの周りにセットだけ組み直して撮影されている訳です。面白いですね。

 それでも、CGを使った場面は大幅に増加していて、スピルバーグは全部で数百ショットあると説明しています。「観客は信じないかもしれないが、前作ではCGのショットは62か63くらいだったんだ」。恐竜のデザインは、今回も学究的リアリズムを追求。古生物学社のジャック・ホーナー博士が、コンサルタントとして続投していますが、彼はこの映画の恐竜に感激して、「本物の恐竜の様子が知りたければ、この映画を観ればいい。博物館よりも情報に溢れている」と絶賛したそうです。

 ジョン・ウィリアムズの音楽は、俗っぽいハリウッド調が鼻についた前作と比べると、幾分か落ち着いた印象。変拍子と土俗的なリズムを使ったアドヴェンチャー・ムード満点のテーマなどは、ゾクゾクするような高揚感が好印象。アクション場面においても、エキゾティックなパーカッションのリズムをフィーチャーしていて、テンポの速い、躍動的なスコアが効果的にスリルを煽ります。前作同様、ゲイリー・ライドストロムの音響デザインも秀逸。

* キャスト

 第1作からはジェフ・ゴールドブラムとリチャード・アッテンボローだけが続投組ですが、ハモンド家の短いシーンでは前作の子供達、アリアナ・リチャーズとジョセフ・マゼロが顔を見せます。後者曰く、「これはスティーヴンからの贈り物。セットにはたった2時間しかいなかったのに、この映画に出たおかげで大学に行く事ができたよ」。又、当時から演技派として注目されていたジュリアン・ムーアがヒロインを務め、全編に渡って激しいアクションを披露しているのも見どころです。又、当時注目株の若手の一人だったヴィンス・ヴォーンがキャスティングされていますが、本作ではどこか影が薄く、その後もあまり大成しなかったのは残念。

 ユニークなのは脇役陣で、ハンターのテンボに『父に祈りを』のピート・ポスルスウェイト、ルドロー会長にアーリス・ハワード(ちなみに彼の奥さんは名女優デブラ・ウィンガーです)、技術者エディ・カーにはドリームワークス諸作にも顔を出しているリチャード・シフと、名バイプレイヤー達をキャスティング。ポスルスウェイトとハワードは、そのまま次作『アミスタッド』にも登用されています。又、CNNのニュース・レポーターには、本人役でバーナード・ショーが登場。

 さらには、『ファーゴ』の冷徹な殺し屋で観客を震撼させたピータ・ストーメアを、ハンターのディーター役に起用しています。実は彼、ハリウッドの大作佳作に引っ張りだこの売れっ子であるだけでなく、名匠ベルイマン率いるスウェーデン王立劇場に長年在籍し、東京グローブ座ではベルイマン演出の『ハムレット』に主演したのみならず、翌年には演出家として携わったほどの人(奥様は日本人です)。スピルバーグは『ファーゴ』のイメージのせいで、会うのが心から恐かったそうですが、実際に会ってみると実に穏やかな紳士で安心し、後に『マイノリティ・レポート』でもスピルバーグと組んでいます。そんなストーメアにスピルバーグは、ポスルスウェイトが恐竜の足跡を辿るシーンをモニターで見ながら、「素晴らしい役者だ。君もあんな俳優になるんだぞ」と呟いたそうです。

 ちなみに、サンディエゴで恐竜から逃げ惑う群衆の場面では、製作のケネディや撮影のカミンスキーら、メインスタッフがエキストラとして出演した映像をワンショットだけ撮影したそうで、注意深い観客なら彼らの顔を見つけられるかもしれません。また脚本を執筆したデヴィッド・コープが、本屋に逃げ込もうとしてTレックスの餌食になる不幸な男役で、結構大胆なカメオ出演を果たしています(自らこの役をやりたいと監督に申し出たそうです)。

* アカデミー賞

 ◎ノミネート/視覚効果賞

 

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