アミスタッド

Amistad

1997年、アメリカ (155分)

         

 監督:スティーヴン・スピルバーグ

 製作総指揮:ウォルター・パークス、ローリー・マクドナルド

 製作:スティーヴン・スピルバーグ

    デビー・アレン、コリン・ウィルソン

 共同製作:ボニー・カーティス、ポール・ディーソン

 脚本:デヴィッド・フランゾーニ

 撮影監督 : ヤヌス・カミンスキー , A.S.C.

 プロダクション・デザイナー:リック・カーター

 衣装デザイナー:ルース・E・カーター

 編集:マイケル・カーン

 音楽:ジョン・ウィリアムズ

 第1助監督:セルジオ・ミミカ=ゲザン

       デニス・L・スチュワート(プエルトリコ・クルー)

 衣装スーパーヴァイザー:スー・ムーア

 ポスト・プロダクション総指揮:マーティン・コーエン

 出演:ジャイモン・ハンスウ  マシュー・マコノヒー

    モーガン・フリーマン  アンソニー・ホプキンス

    ピート・ポスルスウェイト  ステラン・スカルスゲールド

    ナイジェル・ホーソーン  アーリス・ハワード

    デヴィッド・ペイマー  アンナ・パキン

    キウェテル・イジョフォー  アラン・リッチ

* ストーリー 

 1839年6月26日、ポルトガル船でアフリカからハバナに連れてこられた53人の奴隷達は、スペイン人に買われてラ・アミスタッド号でプエルト・プリンシベへ向かう途中、乗組員を殺害し、船を乗っ取る。しかし二か月後、アメリカの沿岸警備船に捕らえられた彼らは、殺人と海賊行為で投獄される。

 ところが彼らを購入したルイズとモンテス、船を拿捕したアメリカ軍将校、そして船籍スペインの王室からイザベラ女王までが奴隷の所有権を主張し、裁判は注目を集めはじめる。そんな中、大富豪で奴隷制度廃止論者のタパンと、彼の資本で新聞を発行する元奴隷の黒人ジョッドソンは、野心的な若き弁護士ボールドウィンを雇い、奴隷達の弁護を請け負う。

 ボールドウィンは、奴隷達のリーダーであるシンケと話を交わしてゆく内、彼らの生い立ちと何が起ったのかを知り、元大統領ジョン・クインシー・アダムズの協力も得ながら、勝訴を勝ち取る。しかしこの裁判は、奴隷解放制度の是非をめぐって内戦も引き起こしかねない、国を二分する政治問題にまで発展していた。かくして再選を狙う現職の大統領は、裁判長を更迭したり最高裁に控訴したりと、様々な妨害手段に出る。

* コメント  *ネタバレ注意!

 実話を元にした真面目なドラマ作品。歴史的には、後に起る南北戦争を挟んで、『リンカーン』の前日譚という雰囲気もあり、この二作は内容的にも映像的にも姉妹篇という印象が強いです。ただ、作劇自体は『リンカーン』と較べても非常にシンプルで、冒頭にアミスタッド号反乱のエピソードが置かれ、船を乗っ取った黒人奴隷達がアメリカ北部の海岸で捉えられるまでが第一部。船の積み荷と見做された彼らの所有権を巡って裁判が行われ、やり手の弁護士ボールドウィンが、奴隷のリーダーであるシンケと心を通わせ、彼らを解放する戦いに身を投じてゆく過程が第二部。

 当初は所有権の争いとして始まったこの裁判ですが、スペイン王室が引渡しを主張した事から政治問題となり、奴隷制度解放の問題に抵触する事から、国全体の行方を左右する問題へと発展して、もう主人公達の手には負えなくなってゆきます。二時間半以上ある長い映画ながら、物語はほぼこの裁判と、その関係者たちの駆け引きだけに、集中して描いていてます。そこに強い牽引力と求心力が生まれるのは、単なる所有権の問題が、自由を求める人間達の戦いへとシフトしてゆくからで、その道のりが紆余曲折を経るのは、様々な立場の人間の利害関係が複雑に絡み合っているからです。題材としては、十二分にスピルバーグ的と言えるでしょう。

 にも関わらず、本作におけるスピルバーグの語り口はどこか抑揚を欠き、法廷物の醍醐味である緊迫感やスリル、勝利と同時に訪れる筈のカタルシスは、むしろ避けられているようにも見えるほどです。映像的雄弁さを意図的に禁じたという『リンカーン』と較べてさえ、本作は画面のみならず、内的感興の高まりさえ抑制された印象があります。もちろん、技術的には一級の仕事ですし、素材を分かりやすく、ヴィヴィッドに伝えるという点では充分すぎるほど成功しているのですが、スピルバーグ作品の特色はそれプラスアルファの斬新さにあった事も確かでした。

 中盤での勝訴が、後の展開から分かる通り本当の勝訴ではない事を示すためか、この場面に音楽を全く付けていないのは理解できるとして、本来のクライマックスである最高裁での勝訴に及んでも、アダムス元大統領の弁論を含めて、映画的興奮から程遠いのはなぜなのでしょう? スピルバーグが以前の作風とは一線を画すためにわざと抑制された表現を心掛けたのでしょうか、それとも、エンディングに字幕で説明される通り、シンケ達のその後を示唆して、本当の勝者など誰もいない事を主張しているのでしょうか、はたまた、単にスピルバーグの調子が冴えなかったのでしょうか。

 そんな中でも、異様な迫力を感じさせるのが、冒頭の反乱事件の場面と、シンケの回想にある奴隷船の描写です。前者は、対象がグロテスクで非人間的に見えるほど極端なクローズ・アップや仰角で撮影されており、むしろ、何らかの意図をもって、観客が彼らに感情移入するのを妨げようとしているかにも見えます。その一方で、中盤から彼らの台詞に字幕が付きはじめ、周囲の白人達を評するコメントにユーモアすら漂わせているのは、敢えてギャップを大きく取ろうという手法なのかもしれませんね。

 さらに後者、砦や船での奴隷虐待の描写は、目を背けたくなるほどに苛烈です。それはもう、撮影に携わったスタッフや俳優達の心痛すら心配したくなるほどの、正に映画人生命を賭したというほどに真剣な仕事ぶりなのですが、不思議な事にここでの奴隷達の姿は、冒頭の叛乱シーンと違って美しく、屈辱的な状況下で人間としての尊厳を感じさせてむしろ気高くさえある(赤ちゃんを抱いて海に飛び込む女性の姿!)。そして彼らは又、『インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説』の子供奴隷から、『太陽の帝国』の捕虜、『シンドラーのリスト』のユダヤ人まで、スピルバーグが繰り返し描いてきた「囚われ人」たちの姿と、驚くほどに近似して見えてくるのです。

* スタッフ

 本作は新会社ドリームワークスで製作された初のスピルバーグ監督作で、キャスリン・ケネディやジェラルド・R・モーレンといったアンブリンの重鎮達は製作に関わらず、ボニー・カーティスやコリン・ウィルソンと、スピルバーグ組で活躍してきた若手がプロデュースを担当しています。製作総指揮は、ドリームワークスの社長夫婦ウォルター・F・パークスとローリー・マクドナルドが務めるという布陣。ダンサー、振付け師でもあり、本作の企画者であるデビー・アレンも製作に名を連ね、虐待を受ける場面や勝利の舞を踊る奴隷達(ほとんどが演技経験のない素人)の身体の動きは、彼女が訓練したそうです。

 脚本のデヴィッド・フランゾーニは、歴史物のオリジナル作品が得意らしく、その後もドリームワークスの『グラディエーター』で原案、脚本を執筆していますが、経歴も全くの不明である上、非常に寡作な人で、『キング・アーサー』以後は一作も書いていません。撮影のカミンスキー、プロダクション・デザイナーのカーターは、『ロスト・ワールド』から続投。ウィリアムズの音楽は、作曲の時間が足りなかったのか、題材にインスピレーションを刺激されなかったのか、とにもかくにも存在感の薄いまま終始し、ほとんど印象に残らないのが残念です。

* キャスト

 名優がたくさん出ていますが、意外にもスピルバーグとは仕事をしてこなかった人ばかり。活動家ジョッドソンを演じるモーガン・フリーマンは、後に『宇宙戦争』でナレーションを担当しますが、スピルバーグ関連では他にドリームワークス製作の『ディープ・インパクト』でアメリカ大統領を演じたくらい。アダムズ元大統領を演じるアンソニー・ホプキンスも、アンブリン製作の『マスク・オブ・ゾロ』に出ていますが、本作の前にも後にもスピルバーグ作品への出演はありません。

 奴隷廃止論者タパンを演じるスウェーデンの名優ステラン・スカルスゲールドは、アート系作品からエンタメ超大作まで、今やハリウッドを代表する人気俳優となった感がありますが、スピルバーグ作品はこれ一作のみ。『ピアノ・レッスン』の名子役アンナ・パキンは、幼くしてスペイン女王となったイザベラ役で出演。ほとんどセリフもなく、強い存在感を発揮しないままに終始した憾みはありますが、所作や佇まいだけで人物の背景を表現する演技力はさすがといった所でしょうか。

 フォーサイス国務長官を演じるデヴィッド・ペイマーは、ロブ・ライナー監督の『アメリカン・プレジデント』でも政府関係者を演じていましたが、『クイズ・ショウ』や『ニクソン』などシリアスな作品の一方、コメディや恋愛物を中心に、ものすごい数の出演作を誇る名脇役。前作『ロスト・ワールド』でも冷徹な会長を演じたアーリス・ハワードは、南部の利害を体現するカルフーン上院議員役で続投。ふてぶてしくも大統領の面前で、スペイン大使に喋っている体で内戦の可能性まで云々する長い場面は、思わず平手で張り倒したくなる程の憎らしい演技力。又、ホラバード判事役のピート・ポスルスウェイトも、『ロスト・ワールド』に続く登板です。

 主演のジャイモン・ハンスウは、一時期ホームレスだたっというほど無名の新人でしたが、シンケ役を演じられる俳優をずっと探し続けてきた監督に「彼しかいない」と言わせた逸材です。この後、『グラディエーター』にも重要な役で起用されましたが、あまり華やかな活躍をしていないのは気になる所。ボールドウィン弁護士のマシュー・マコノヒーは、『評決のとき』が評判を取り、当時は将来が最も期待される若手の一人でした。ロバート・ゼメキス監督の『コンタクト』やロン・ハワード監督の『エドtv』にも主演しましたが、その後キャリアが低迷、『ダラス・バイヤーズクラブ』で意外な復活を遂げたのは映画ファンご存知の通りです。

 逆に、本作からブレイクしたのが、メンデ語の通訳者を演じたキウェテル・イジョフォー。『堕天使のパスポート』で一気にブレイクし、『ラブ・アクチュアリー』『それでも夜は明ける』等の話題作の他、ウディ・アレン、リドリー・スコット、スパイク・リー、アルフォンソ・キュアロン、ローランド・エメリッヒなど、錚々たる監督の作品に引っ張りだことなりました。

* アカデミー賞

 ◎ノミネート/助演男優賞(アンソニー・ホプキンス)、撮影賞、音楽賞、衣装デザイン賞

 

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