マイノリティ・リポート

Minoroty Report

2002年、アメリカ (145分)

 監督:スティーヴン・スピルバーグ

 製作総指揮:ゲイリー・ゴールドマン、ロナルド・シャセット

 製作:ジェラルド・R・モーレン、ボニー・カーティス

    ウォルター・F・パークス、ヤン・デ・ボン

 共同製作:セルジオ・ミミカ=ゲザン、マイケル・ドーヴェン

 脚本:スコット・フランク&ジョン・コーエン

 (原作:フィリップ・K・ディック)

 撮影監督 : ヤヌス・カミンスキー , A.S.C.

 プロダクション・デザイナー:アレックス・マクドウェル

 衣装デザイナー:デボラ・L・スコット

 編集:マイケル・カーン

 音楽:ジョン・ウィリアムズ

 第1助監督:セルジオ・ミミカ=ゲザン

 スピルバーグ助手:クリスティ・マコスコ

 ポスト・プロダクション総指揮:マーティン・コーエン

 音響デザイン:ゲイリー・ライドストロム

 特殊効果スーパーヴァイザー:マイケル・ランティエリ

 出演トム・クルーズ  コリン・ファレル

    サマンサ・モートン  マックス・フォン・シドー

    ロイス・スミス  ピーター・ストーメア

    キャスリン・モリス  ティム・ブレイク・ネルソン

    ジェシカ・ハーパー  スティーヴ・ハリス

    パトリック・キルパトリック  ダニエル・ロンドン

    ニール・マクドノー

* ストーリー 

 西暦2054年のワシントンDC。政府は度重なる凶悪犯罪を防ぐ策として、ある画期的な方法を採用し、大きな成果をあげていた。それは、プリコグと呼ばれる3人の予知能力者によって未来に起こる犯罪を事前に察知し、事件が実際に起きる前に犯人となる人物を捕まえてしまうというもの。しかし犯罪予防局のチーフ、ジョン・アンダート ンは、このシステムによって、自分が36時間以内に見ず知らずの他人を殺害すると予知される。一転 して追われる立場になった彼は、容疑を晴らそうと奔走するが・・・。

* コメント 

 前作に続き、近未来SFに挑んだ意欲作。未来に起る事が確実に予知できたらどうなるか、というのがテーマで、犯人探しや謎解きの要素もあって、スピルバーグ作品としてはかなり複雑な部類に入ります。ダイアローグとロジックで真相に迫ってゆく展開は、かつてのスピルバーグ作品にあまり見られなかったものですが、物事を分かりやすく見せる手腕は冴え渡っていて、サービス精神旺盛な力強い演出で最後まで飽きさせません。ちなみにスピルバーグは、後に本作をテレビ・シリーズ化しています。

 例えば、会話の場面とアクションの場面、シリアスな場面と気楽な場面という風に、シーンの配置もよく考えられているし、映像センスを駆使したストーリー・テリングにおいて、まだまだスピルバーグの才能は抜きん出ている印象があります。逃亡中のアンダートンとアガサが、小さな予言を利用して見事に追っ手をかわしてゆく場面など、思わず快哉を叫びたくなるほどの映画的興奮が満載。原作にある場面なのかどうかは分かりませんが、これはもう脚本の勝利というか、伏線とオチを短いスパンで繰り返す手法は、正に映画の醍醐味ですね。

 網膜スキャンで個人認識する社会というのが、ストーリーの重要な前提になっているので、映像的にも眼球のアップが多い上、セリフにも目に関する言葉が大量に盛り込まれて、半分冗談みたいな体裁。目に関するダジャレを連発するソロモン医師のセリフに至ってはほとんど落語みたいですが、他の登場人物も意外に地味な所で、目に関する慣用句や格言を使ったりしています。

 公開時には、「暗すぎる」「怖い」というコメントが飛び交い、実際に銃声やプリコグの反応など、観客を飛び上がらせるショッカー演出も随所に挟まれていますが、それと同じくらいユーモラスな場面も多いのは好印象です。格闘の最中にアパートの窓を突き破り、ヨガ教室や一般家庭に侵入して大騒ぎになる所などは、往年の007シリーズにも通じる懐かしいセンス。ジェット噴射の炎でハンバーグが焼けたり、手術で取り替えた眼球を誤って袋から落とし、坂道を転がる自分の眼球を慌てて追いかけるという、ドタバタ・コメディみたいな場面もあります。

 見応え抜群なのが、スピルバーグお得意の斬新なアクション・シークエンス。自動車工場での激闘シーンでは、生産ラインに落ちた主人公に組み立てロボットのアームが四方から襲いかかってくるなど、凡百のアクション映画ではなかなか見る事のないユニークなアイデアです。ジェット噴射で宙を飛ぶ警官達とのアクションも、実際にワイヤーで吊って撮影されていて、実に個性的なルックのシーンに仕上がりました。

 撮影監督のカミンスキーは、この路地裏でのアクションを、「ワイヤーを後から消しただけで、他は現場そのままの映像だ。実際に人間が空を飛びながら戦ったり、何メートルも引きずられたりしている」と語っています。これは、『プライベート・ライアン』でトム・ハンクスが語った、「上陸シーンをどうやって撮ったのかと訊かれるが、答えはこうだ。“俳優達が上陸艇から海に飛び込み、銃で撃たれた”」という、スピルバーグの現場アナログ主義を見事に言い表した言葉と呼応します。

 本作では、2054年の世界を描くに当たり、作家や発明家から国防総省、玩具メーカー、都市計画や環境問題、犯罪防止、医療、社会学の専門家ら、16人のフューチャリストからなるシンク・タンクを結成(『ジェネレーションX』の著者ダグラス・クープランドも入っています)。これにプロダクション・デザイナーのアレックス・マクドウェルや製作陣が加わり、未来の社会について、医薬の進歩から歯の磨き方、交通手段、建築や芸術まで、多岐に渡って様々なアイデアが討議されました。プライバシーが次第に失われるという予測は、ほぼ全員一致だったそうです。

 今やスマートフォンや商業施設のフロアマップにまで応用されている、スクリーン映像を指でスクロールする技術は、スピルバーグがよくあるボタン入力を嫌ったため、マサチューセッツ工科大出身のジョン・アンダーコフラーが提案したもの。他にも、網膜IDスキャンで個人を認識して呼びかける街頭広告や、家庭用ホログラム・ディスプレイ、昆虫型のスパイ・ロボット、垂直にも走る浮上式のリニア・モーターカーなど、このシンク・タンクのアイデアは映画にたくさん応用されており、それらのガジェットは実際の企業や研究家にも影響を与えて、続々と実用化されています。

* スタッフ

 製作総指揮に名前が残っているように、本作は最初ヤン・デ・ボンの監督作として準備が進んでいて、共同脚本にクレジットされているジョン・コーエンは、その時のライターです。プロダクション・デザイナーのアレックス・マクドウェルによれば、この段階では50年代のようなルックスの未来で、もっとファンタジーっぽい作品だったとの事。しかしスピルバーグはより真実味のある未来のヴィジョンを求め、『アウト・オブ・サイト』の脚本家スコット・フランクと「SFではなく、フューチャー・リアリティ映画」を合い言葉に、作業が進められました。

 ドリームワークスの社長で、製作総指揮を務めるウォルター・パークスは脚本家出身でもありますが、やたらと脚本に口を出すことで知られ、本作でも彼が最終調整を担当しています。製作陣には他に、近年のスピルバーグ作品を支え続けているボニー・カーティスやジェラルド・R・モーレン、助監督から昇格したセルジオ・ミミカ=ゲザンらが参加。

 撮影のヤヌス・カミンスキーはフィルム・ノワール風の硬派な絵作りを意識し、アングルに極端な高低差を付けたり、ブリーチ・バイパスという現像段階の脱色技術で彩度を落としたりしています。監督も今までで一番暗く、汚い映像を目指したといいますが、私にはそれでも、十分に洗練された美麗な映像に見えます。気鋭のデザイナー、アレックス・マクドウェルがプロダクション・デザインを担当していて、近未来の推測というだけでなく、スタイリッシュな造形感覚やモダンな色彩、映画的興奮を煽る舞台設定など、誠に素晴らしい仕事っぷり。

 近年のスピルバーグ作品で大掛かりな特殊効果を一手に引き受けているマイケル・ランティエリは、プリコグが浸かるプールやバックパック風のジェット噴射装置など、本作でも大活躍。CGもそうですが、特殊効果が三流の映画ではやはり三流の仕上がりに見えるのは、監督のセンスが大きいようです。視覚効果スーパーヴァイザー、スコット・ファーラーも言います「(スピルバーグは)うまくいったと思えるショットでも、神業のように問題点を発見する。彼がミスに気付かないことは100%ない」。

 ジョン・ウィリアムズの音楽は、映画に合わせてノワール風だったり、サスペンスを煽る無機的なアクション・ミュージックだったり、派手に主張するメロディなどはなく、あくまで裏方に徹した印象。ただ、背景にシューベルトの未完成交響曲や、チャイコフスキーの悲愴交響曲がかすかに流れていたりするのは、現場に流れているBGMという設定なのでしょうか。

* キャスト

 トム・クルーズとスピルバーグも、トム・ハンクスと同様、実はかなり古い友人同士なのですが、実はこれが初仕事でした。クルーズは、ハイクオリティで映画の愉しさもふんだんに備えるスピルバーグ作品に、自分と近いセンスを感じていたものの、お互いプロ意識が高く、優秀なプロデューサーでもあるので、やりたい作品が一致するまで時間がかかったようです。本作はアクション場面の多い映画なので、クルーズは適役だったといえますね。彼はスピルバーグの美点として、「仕事が早いのに人柄が穏やかなのがいい」と語っています。

 クルーズの身体能力の高さはよく知られるものの、敵役のコリン・ファレルも相当にハードなアクションを行っているのが驚き。廊下を全力疾走して高所に飛び乗ったりする姿など、アスリート並みに機敏で美しい動きをしています。撮影風景をみると、移動するコンテナに乗りながらワイヤーを使って宙を舞い、相手に飛び蹴りを食らわすなど、実際に画面の通りの動きで戦っている事がよく分かります。

 プリコグの一人を演じるサマンサ・モートンは、当時ウディ・アレンの『ギター弾きの恋』で注目されたばかりの女優さんで、本作でもダイナミックな演技力に圧倒されますが、その後、思ったほど活躍しなかったのは残念。ちなみに彼女の母親役で、何度も繰り返されるイメージ映像の中に登場するのは、『サスペリア』『ファントム・オブ・ザ・パラダイス』でホラー・クイーンとしてカルト的人気を博したジェシカ・ハーパーです。

 北欧スウェーデンからは、同郷の名匠イングマル・ベルイマン監督と関係の深い二人の俳優が参加。一人は『ロスト・ワールド』に続くスピルバーグ作品となるピーター・ストーメアで、今回は得意の悪役ではなく、主人公の眼球を取り替えるモグリの医者をハイテンションで演じています。もう一人は、ベルイマン作品や『エクソシスト』の神父役で世界的に知られる名優マックス・フォン・シドー。犯罪予防局の局長ラマー・バージェスを、老練な表現力で演じていて見事。

 主人公の妻を演じるのは、『ザ・コンテンダー』がきっかけでスピルバーグの目に留まり、『A.I.』で端役にキャスティングされたキャスリン・モリス。前作で大きな役に起用できなかったのが心残りで、今回の出演に繋がったとのことです。犯罪者収容所の管理人を演じるのは、舞台でも活躍するティム・ブレイク・ネルソン。ハイネマン博士を演じるロイス・スミスは、『エデンの東』などの古典にも出ているベテランで、『ツイスター』『キルトに綴る愛』などアンブリン作品への出演も幾つかあります。思わず息を飲むほどにクールで知的な彼女の芝居は、アクション中心の本作にあって、演技面での白眉といえるかもしれません。

 尚、『バニラ・スカイ』でトム・クルーズと組んだキャメロン・クロウ監督とキャメロン・ディアズが、その関係か本作にカメオ出演しているそうですが、どこに出ていたのか、私にはちょっと分かりませんでした。脚本を書いたスコット・フランクは、何か賞を受賞してチヤホヤされるという妄想映像を楽しむ作家の役でチラっと出演しています。

* アカデミー賞

◎ノミネート/音響賞

 

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