宇宙戦争

War Of The Worlds

2005年、アメリカ (117分)

 監督:スティーヴン・スピルバーグ

 製作総指揮:ポーラ・ワグナー

 製作:キャスリン・ケネディ、コリン・ウィルソン

 脚本:ジョシュ・フリードマン、デヴィッド・コープ

 (原作:H.G.ウェルズ)

 撮影監督 : ヤヌス・カミンスキー , A.S.C.

 プロダクション・デザイナー:リック・カーター

 衣装デザイナー:ジョアンナ・ジョンストン

 編集:マイケル・カーン

 音楽:ジョン・ウィリアムズ

 コンセプチュアル・アーティスト:ダグ・チャン

 第1助監督:アダム・ソムナー

 スピルバーグ助手:クリスティ・マコスコ

 ポスト・プロダクション総指揮:マーティン・コーエン

 シニア視覚効果スーパーヴァイザー:デニス・ミューレン

 出演:トム・クルーズ  ダコタ・ファニング

    ティム・ロビンス  ミランダ・オットー

    ジャスティン・チャットウィン

 ナレーション:モーガン・フリーマン

* ストーリー 

 ニュージャージーに暮らす港湾労働者レイには、別れた妻との間に息子のロビーと娘レイチェルがいた。子どもたちとの面会の日、その異変は唐突に訪れた。空が突如不気味な黒い雲に覆われると、激しい稲光が地上に達し、地面に巨大な穴を空ける。地中では何かが激しくうごめき始め、巨大な三本足のポッドが出現したかと思うと、見物人達を襲いはじめた。町が破壊され、人々がパニックに陥る中、レイは子どもたちと逃走する。

* コメント 

 スピルバーグが何度も描いてきた、異星生命体と人類の接近遭遇がテーマ。友好的、感動的だった過去作品のエイリアンとは真逆で、本作では人類を食料としか考えておらず、それはどこか、人類が他の動植物に相対する姿勢と重なり合うようにも見えます。監督自ら本作を「SFホラー」と呼び、アメリカ同時多発テロの恐怖を反映している事も認めています。

 襲撃シーンは正に地獄絵図で、その恐ろしさ、容赦のなさは苛烈を極めます。こういう映画におけるスピルバーグの演出手腕には他の追随を許さぬセンスがあり、正に水を得た魚のよう。五叉路におけるトライポッドの登場シーンや、フェリーボートの襲撃場面など、音楽的リズムに裏付けられた編集と場面構成は相変わらず健在だし、地面に転がったビデオカメラの液晶画面に惨劇が映し出されるというユニークなアイデアなども卓抜です。

「もしアメリカ人が難民になったとしたら」という裏テーマもあり、アメリカ人難民なら一体どういう姿になるかという点から、衣装デザインや小道具などが考察されています。そうやって実現した難民避難場面のルックは、米国の観客にとってはとりわけショッキングに感じられたかもしれません。一方で、偵察用の触手が地下室に伸びて来る場面は、『ジュラシック・パーク』におけるラプトルと子供達の攻防シーンの自己模倣的な焼き直しに見えてしまって、少々残念でもあります。

 脚本のデヴィッド・コープが言及している通り、異星人侵略物によく出て来るありきたりな描写は注意深く外されています。例えば、有名な建物や観光名所が破壊される場面や、大きな地図を司令官達が取り囲む場面、テレビの取材班が撮影する場面などは、本作にありません。今、世界で何が起っているかという情報は、あくまで口コミの噂だけで伝えられ、徹底して主人公の目線から出来事を描く事で、閉所恐怖症的な不安感を煽るのに成功しています(原作も一人称で綴られており、他所の情報はシャットアウトしています)。

 人体を蒸発させる殺人光線がトム・クルーズにだけ当たらないので、「エイリアンは主人公を特別扱いしている」と実に表面的な解釈をする人がありますが、それは見当違いです。こういう物語は、たまたま生き延びた人間の目線で語られているのであって、災害の現場においてはそれも常に起っている事なのです。又、本作では異星人もトライポッドも、異様さを強調するために3本足のデザインが採択されていますが、これをムービーキャメラのメタファーだとする某評論家の解釈は、自分に都合の良い論理に引き寄せたこじつけとしか感じられません。

 ただトム・クルーズが逃げ惑うだけの作品だという人もいますが、中心となるストーリーラインがそれだけシンプルで強力という事であって、実際には様々な観点からこの非常事態が考察されています。ティム・ロビンス扮する、悲哀と正義感が暴走して狂気に近付いた男性も登場すれば、一台の車を奪い合って人間同士が殺し合いにまで発展するエゴの描写もあるし、主人公が子供と逃避行を続ける内に父性を育んでゆくという成長物語もある。映像描写的にも観念的にも、本作はスピルバーグにとって、ひいてはアメリカ映画にとって重要な作品であり、黒沢清監督が内外の様々なメディアでこの年のベスト10に本作を入れていたのは、象徴的な行動だという気がします。

 本作は大規模な内容にも関わらず、準備に3か月、撮影期間70日、ポスト・プロダクション3か月という、異例の短期間で製作されていますが、こういう際のスピルバーグの態度は見事という他ありません。彼は製作のキャスリン・ケネディにこう言い放ったそうです。「別に心配する事はない。中心的な人物が3人ほどいて、あとは背景で1000人くらいの人々が時々走り回るだけだ」。

 ケネディによると、スピルバーグはいつも大掛かりな撮影からスケジュールをスタートさせますが、それが俳優やスタッフの士気を高め、映像に現れると考えているそう。本作の場合、東海岸では交差点のシーン、西海岸では墜落した旅客機のシーンから撮影を開始しています。後者は、現実には見られない映像だからどうしても撮りたかったとの事ですが、これは全て本物のオープン・セット。彼がいつも実物大のセットを用意する理由に関しては、メイキング映像にある以下の言葉を引用しておきたいです。

「実際にセットを作るハリウッド伝統の手法を、一生使い続けたい。ブルー・スクリーンはイメージが湧かず、味気ない。舞台を作り出す人々を尊敬してるんだ。セットを歩き回っているとアイデアが湧いてきて、自分が何をすべきかを教えてくれる。セットが全てだよ」。

* スタッフ

 クルーズの主演映画ですから、彼の会社のポーラ・ワグナーが製作総指揮を担当しているのはスピルバーグ監督作でも同様。製作はスピルバーグの右腕、キャスリン・ケネディとコリン・ウィルソンが担っています。これほどの大規模な作品としては、少人数のプロデューサー陣という印象。脚本は『ジュラシック・パーク』シリーズでスピルバーグと組んだデヴィッド・コープと、『ブラック・ダリア』のジュシュ・フリードマンが執筆。

 撮影監督のヤヌス・カミンスキーは、B級映画風のマゼンタとわざとらしい深緑を外し、白色ライトの中に緑を一個灯して、この世ならぬムードを醸し出しています。曰く、「スティーヴンと組んだ他の映画とは、かなり違った事をやった。映像的にはとても詩的で洗練されていると思う。非常に綺麗なカラー・パレットで、青っぽい色から始まり、だんだんとカラフルになってゆく。リアルに見せるという制限の中で、様式化に挑戦した」。

 プロダクション・デザイナーも『ジュラシック・パーク』シリーズのリック・カーター。五叉路の場面は、なんとニュージャージーでのロケハン初日に見つかった場所で、エイリアンとの遭遇にはぴったりとも言える、インパクトの強い風景。その次に考えたのがフェリー・ボートの場面だそうで、この港もロケ地には打ってつけでしたが、問題が起きたせいで結局スタジオにセットを建設しています。本作はムードが大事な映画でもありますが、出来上がった作品を観るとどの場面もプロダクション・デザインが秀逸で、彼の功績は大きいと感じます。

 特殊効果はILMのベテラン、デニス・ミューレンが担当。またコンセプチュアル・アーティストとして、『スター・ウォーズ/エピソード1』のダグ・チャンを起用しています。曰く、「3本足に3つの目、全て3を元にしているから、人間とは動きが違ってくる。正にエイリアンの象徴だ。トライポッドも同じ。優美な動きだが、実際は強力な兵器なんだ」。トライポッドが地中から登場するのは、スピルバーグのアイデアとの事。エイリアンは空からやってくるのが定番なので、観客の裏をかいて地中から出してやれというわけです。

 ポスト・プロダクションの期間の短さについては本文でも触れましたが、編集のマイケル・カーンは撮影現場にも顔を出して日々作業を進めてゆくタイプの人なので、粗編集は撮影終了時に大方出来上がっているのかもしれません。ただし音楽のジョン・ウィリアムズは、結局1時間分のフィルムしか観ずに作曲を終えました。彼が映画全部を観ずに作曲をしたのは、スピルバーグ作品では本作が初めてとのことです。

* キャスト

 トム・クルーズは、「スピルバーグ映画をずっと研究していた。彼自身より詳しいかもしれない」というほどの映画好きであり、その意味では自分が出演する作品のチョイスにも、非常に慎重な人です。『マイノリティ・レポート』で初タッグを組んだ際、次の企画を話し合っていた時にスピルバーグが挙げたのが本作でした。タイトルを聞いた途端にお互いピンと来て、その日のうちにはもう考えをまとめ、一緒に撮る事になったそうです。

 彼は脚本家のコープ、スピルバーグと3人で脚本を練り、父親や労働者を演じてみたいという願望、ニュージャージーに住んでいた時の経験を取り入れてもらったとの事ですが、確かに彼には、港湾労働者のような役を演じられる素地のようなものが感じられます。その意味で、他のスター俳優とは少し持ち味が違うかもしれませんね。危険なスタントを自分でこなしたがる性質も、その辺りに立脚するのでしょうか。

 娘役には、『I am Sam アイ・アム・サム』で人気子役となったダコタ・ファニングをキャスティング。『E.T.』のドリュー・バリモアと対を成すかのように、堂に入った絶叫演技を披露しています。長男役では新進のジャスティン・チャットウィンがナイーヴな芝居で好印象を残す他、妻役にミランダ・オットー、途中で出会う狂気の男にティム・ロビンスと、演技派が脇を固めているのも見応えがあります(二人ともスピルバーグ作品初出演)。

 冒頭とラストのナレーションはいかにも硬派な感じで、作品全体の緊張感を高めていて、往年のハリウッド映画を思わせる古風な雰囲気の醸造にひと役買っていますが、これを『アミスタッド』に出演していた名優モーガン・フリーマンが担当しているのも贅沢。ちなみに最後の場面には、オリジナル版の主演を務めたアニー・ロビンソンとジーン・バリーがカメオ出演しています。

* アカデミー賞

◎ノミネート 視覚効果賞、音響編集賞、音響調整賞

 

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