インディ・ジョーンズ/クリスタル・スカルの王国

Indiana Jones And The Kingdom Of The Crystal Skull

2008年、アメリカ (122分)

 監督:スティーヴン・スピルバーグ

 製作総指揮 : ジョージ・ルーカス、キャスリン・ケネディ

 製作 : フランク・マーシャル

 共同製作:デニス・L・スチュワート、クリスティ・マコスコ・クリーガー

 脚本:デヴィッド・コープ

 (原案:ジョージ・ルーカス&ジェフ・ネイサンソン)

 撮影監督 : ヤヌス・カミンスキー , A.S.C.

 プロダクション・デザイナー:リック・カーター

 衣装デザイナー:メアリー・ゾフレス

 編集:マイケル・カーン

 音楽:ジョン・ウィリアムズ

 第1助監督:アダム・ソムナー

 ポスト・プロダクション総指揮:マーティン・コーエン

 音響デザイナー:ベン・バート

 出演:ハリソン・フォード  ケイト・ブランシェット

    カレン・アレン  レイ・ウィンストン

    シャイア・ラブーフ  ジョン・ハート

    ジム・ブロードベント  イゴール・ジジキン

* ストーリー 

 1957年、米兵に扮した諜報員スパルコ率いるソ連兵の一団が米軍基地を襲撃。彼らは、宇宙の神秘を解き明かす力を秘めているというク リスタル・スカルを探し求め、その手掛かりを辿っていた。そこではインディ・ジョーンズが捕らえられ、クリスタル・スカルの捜索を強要されていた。脱出を図り、スパルコの手を逃れたインディは考古学教授として大学へ戻るが、彼の前に、一 通の手紙を携えたマットという青年が現われる。

* コメント  *ネタバレ注意!

 シリーズ3部作の終結から19年振りに発表された、4本目にあたる新作。時代設定も『レイダース』からそれくらい経った頃で、50年代が舞台。1作目の登場人物だったマリオンが復活し、彼女とその息子がストーリーに絡んでくる点は、ファンを意識したお祭り的な内容にもなっています。現実に存在する伝説や史実を元にストーリーが作られている当シリーズですが、本作もナスカの地上絵やエル・ドラドの伝説、クリスタルの頭蓋骨と、謎めいたモティーフを散りばめ、それがシリーズ中最も荒唐無稽なSF的展開に向かいます。

 残念ながら、演出と演技にどことなく運動神経の低下が感じられる点は否めません。特にハリソン本人が担当していると思われるスタントは、動きの重さも感じられ、演出にもかつての軽快なリズムやシャープな切れ味が不足するように感じます。又、過去作では原住民が無闇やたらと殺される点が批判を受けましたが、世評の悪さを反映してか、直接的な描写も被害人数も減っていて、加害者もほぼ敵側となっています(ただし敵側の脇役はたくさん殺されますけど)。

 ただ、脚本家は変わっても、カー・チェイスの場面などアイデア満載でやはり飽きさせませんし、地図の上を飛行機が飛んでゆく移動場面や、謎とき、冒険の楽しさもちゃんと盛り込まれています。冒頭でパラマウントの山のマークからオープニングに突入するのもお約束で、今回はそのマークがプレーリードッグの巣に重ね合わせられるのがユーモラス。主人公達と敵一味が同じ物を追い、時に戦いを交えながらも主人公達が到達した目的地に、結局敵が合流するという作劇は、今回も踏襲されています。

 舞台設定が50年代なので、音楽や若者達のファッションにオールディーズのスタイルが描かれるのは、前3作とムードを異にする所。一方で、核実験の場面など、本当に必要なのかどうか分からない、マンガみたいな描写もあります。本作ではマリオンの息子が登場するとあって、シリーズ中でも特に主人公のプライベートな人間ドラマが前に出た作品ですが、その意味では、過去三作よりもドラマ的にバランスは良いかもしれません。ジュニアが率先して動き出し、自ら推理を働かせはじめる姿は頼もしくもあります。

 スピルバーグの演出に関していえば、描写力は相変わらず健在。特に前半の、ロシア人達とインディが登場する前後の場面は、様式化された振付けやキャメラワークが80年代の彼を思い出させます。火薬や弾薬で磁気の反応を見て目当ての箱を探す場面も、こういう、物理的現象をデフォルメする事で何が起っているのかを暗示するテクニックは、スピルバーグの独壇場と言っていいでしょう。クライマックスも、ホラー的な要素は後退する一方、神秘的な美しさや雄大なスケール感が勝り、『未知との遭遇』の世界に近接しています。

* スタッフ

 旧シリーズの復活とあって、生みの親の一人であるジョージ・ルーカスだけでなく、しばらくスピルバーグ作品を離れていたフランク・マーシャルもプロデューサーを担当しているのが嬉しい所。一方で共同製作者には、スピルバーグの助手や助監督経験者のデニス・L・スチュワート、クリスティ・マコスコ・クリーガーを配置するという、新旧取り混ぜた布陣。

 脚本も、『ターミナル』『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』のジェフ・ネイサンソンとルーカスが作った原案を、『ジュラシック・パーク』シリーズ、『宇宙戦争』のデヴィッド・コープがシナリオ化するという、スピルバーグ作品経験者で固めたような体裁です。かなりぶっとんだ展開ながら、東西冷戦時代の背景をうまく反映してロシア人の陣営を敵に配し、緩急巧みに様々なアクションを盛り込んだ脚本で、なかなか優れた仕上がりだと言えます。

 撮影監督のヤヌス・カミンスキーはシリーズ初参加。冒頭のネヴァダ砂漠の場面なんて、少し彼のテイストと違うのではとも思いましたが、彼は後に『戦火の馬』でも往年の西部劇風の映像を挿入しているので、本作はいいテストになったのかも。一方で、美しい光の筋が射す南米のジャングルなどは、彼が初めて担当したカラーのスピルバーグ作品『ロスト・ワールド』を想起させます。人物の顔や目の周りをライトで強調するスタイルは、過去三作を担当したベテラン、ダグラス・スローカムの手法なので、これはオマージュなのかもしれません。

 プロダクション・デザインのガイ・ヘンドリックス・ディアスも、シリーズ初参加。『ブラザーズ・グリム』や『エリザベス:ゴールデンエイジ』から『X-MEN2』まで幅広い作風を誇り、見た目こそ今風の若者っぽいですが、ロンドンの王立美術大学を卒業しているほどの人。ここでも見事にシリーズの世界観を継承、発展させていて、その手腕には舌を巻きますし、クライマックスでは大規模で仕掛けの多い巨大セットで観客を圧倒します。

 音楽のジョン・ウィリアムズ、編集のマイケル・カーンも、当シリーズのみならず、スピルバーグ作品を知り尽くした仕事ぶりが嬉しい所。音響効果は、当シリーズや『スター・ウォーズ』シリーズで活躍し、『宇宙戦争』でも久々に起用されたベテラン、ベン・バートが担当しています。

* キャスト  *ネタバレ注意!

 主演のハリソン・フォードは、やや動きが重いとはいえ、年齢を考えると驚異的なほどアクション・シーンをこなしているし、ルックスや演技の佇まいが過去作品とあまり変わっておらず、ファンには嬉しい復帰。相手役のカレン・アレンも、1作目の時と較べると見た目は貫禄十分の中年女性になりましたが、相変わらず過酷な環境で楽しそうにアクション演技をしているのが何よりです。

 マリオンの息子マット役で活躍するのが、『トランスフォーマー』『ディスタービア』のシャイア・ラブーフ。『イーグル・アイ』にも起用され、当時はスピルバーグお気に入りの若手という感じでした。当初は自意識の強いちゃらちゃらした若者として登場しますが、父親の遺伝子を引き継いでインディ張りの行動や推理を行うようになってゆく様を、見事に表現しています。バイクやナイフを駆使して、アクションに才能を発揮しているのも頼もしい所。

 悪役スパルコを演じるのは、スピルバーグ作品初参加となる演技派ケイト・ブランシェット。前髪を切りそろえたおかっぱ頭は持ち前の鋭い目つきと相まって強烈な外見的インパクトがありますが、ロシア語訛りの英語で切れ味鋭い言葉と動きを見せる演技も、アニメチックに陥る一歩手前の見事なデフォルメ。同じく悪役のドフチェンコを演じるイゴール・ジジキンは本当にロシア人で、実はシルク・ドゥ・ソレイユ出身。俳優としてはあまり出演作がありませんが、風貌も演技も独特の迫力があって、強い存在感を発揮しています。

 脇役陣も豪華。名優ジム・ブロードベントとジョン・ハートをそれぞれ学部長、オックスリー教授に配役し、これも実力派のレイ・ウィンストンを、狡猾に立ち回るインディの友人マック役に起用していて、アンサンブルの安定感も抜群です。ちなみにスタントのクレジットの中には、かつて『レイダース』でポーターを演じ、スタントマンからスピルバーグ映画常連俳優となったテッド・グロスマンの名前も。

 

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