ベルギーの人気絵本シリーズ『タンタンの冒険』を、スピルバーグ初のパフォーマンス・キャプチャーによる3Dアニメーションで映画化した作品。そもそもエルジェの原作は、『レイダース』公開当時からその類似点を指摘されていたもので、本作が子供版『インディ・ジョーンズ』の趣があるのも当然と言えます。ただ、意外に人が死ぬ映画なので、完全にファミリー向けとは言い難いかもしれません。 いつもと演出の勝手が違うせいか、やや画面に隙間風が吹いてスカスカする印象もなくはないですが、それを補って余りあるというか、空撮ショットの多用をはじめ、実写では困難なキャメラの動きや構図が満載。切り絵風のポップなデザイン・アニメに、ジャズっぽい軽快なテーマ曲が重なるオープニング・タイトルからして、『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』のそれを彷彿させる楽しさです。ユニコーン号で起った出来事の再現と、その記憶を語るハドックの現在を頻繁にカットバックさせたり、握手した手のアップから砂漠の映像へ、船が浮かぶ海原の映像から路面の水たまりに繋ぐなど、ユニークな編集手法も随所に見られます。 特に、奇想天外なアイデアを盛り込んだ丘状の町におけるカーチェイスは、正に実写では不可能なショットの連続で、想像力の飛翔が感じられる、もの凄いシーン構成。同様に、クライマックスにおける二台のクレーンのバトルも、アクロバティックなキャメラ・ワークが頻出し、スピルバーグらしい映像センスが横溢しています。物理的な制約なしにキャメラを自由に動かせるのなら、きっとこんな映像が撮りたかったんだろうなという、理想の追求というか、創造性の発露がエキサイティング。 この分野のパイオニアである弟分のロバート・ゼメキス監督とは違い、実写ではない事にこだわってか撮影監督を置いていませんが、現場でのスピルバーグは、手に持ったヴァーチャル・キャメラを動かし、構図やキャメラの動きを決めながら演技を付けていて、その意味では、彼自身が撮影監督を兼ねているようなものです。実写で言う、ライティングや色彩の美しさも印象的。ただ、前述のように、どこかスピルバーグらしいエキサイティングな高揚感や身体的な手応えが希薄な感じがするのは、彼があくまでアナログの人だという証拠と言えるでしょうか。 ちなみにストーリーは、原作本の『なぞのユニコーン号』から『レッド・ラッカムの宝』に至るエピソードに、『金のはさみのカニ』からハドック船長との出会いの顛末を挿入したもの。過去の因縁が新しい世代に再び巡ってくるとか、探し求めていたものが結局振り出し地点で見つかるとか、意外に古典的な構成が目立つのは、良くも悪くも原作物ゆえでしょうか。映像に趣向が凝らされているため、物語が複雑すぎない方がいいという事かもしれません。 |