BFG:ビッグ・フレンドリー・ジャイアント

The BFG

2016年、アメリカ (118分)

 監督:スティーヴン・スピルバーグ

 製作総指揮:キャスリン・ケネディ、ジョン・マッデン

       クリスティ・マコスコ・クリーガー、マイケル・シーゲル

 製作:スティーヴン・スピルバーグ

    フランク・マーシャル、サム・マーサー

 共同製作:アダム・ソムナー、メリッサ・マティソン

      サマンサ・ベッカー

 脚本:メリッサ・マティソン

(原作:ロアルド・ダール)

 撮影監督:ヤヌス・カミンスキー

 プロダクション・デザイナー:リック・カーター

               ロバート・ストロムバーグ

 衣装デザイナー:ジョアンナ・ジョンストン

 編集:マイケル・カーン

 音楽:ジョン・ウィリアムズ

 第1助監督:アダム・ソムナー

 音響デザイン監修:ゲイリー・ライドストロム

 出演:マーク・ライランス  ルビー・バーンヒル

    ペネロープ・ウィルトン  レベッカ・ホール

    ジェマイン・クレメント  レイフ・スポール

* ストーリー 

 ロンドンの孤児院に暮らす孤独な10歳の少女ソフィー。好奇心旺盛な彼女は、真夜中に起きていたせいで恐ろしげな巨人を目撃し、“巨人の国”へと連れ去られてしまう。 しかしビッグ・フレンドリー・ジャイアント(BFG)は心優しい巨人だった。少しずつ心を通わせていくソフィーとBFGだったが、その国にはもっと大きくて、人間を食べてしまう獰猛な巨人もいっぱいいた。

* コメント  

 スピルバーグとしては、『タンタンの冒険』以来のファンタジー物。純然たる異世界のファンタジーとなると、『フック』以来かもしれません。有名な童話作家ロアルド・ダールによる原作物ですが、『E.T.』『トワイライト・ゾーン』の脚本家メリッサ・マティソンと久しぶりにタッグを組んだ事も話題を呼びました。

 冒頭の一連のシークエンスにおける、ロンドンの街の描き方(特にライティング)を観ただけで、もう現実世界の出来事ではないとひと目で分かるタッチはさすが。巨人の世界のポエジーと幻想味に満ちた描写も素晴らしく、ひとえにスピルバーグのセンスと向上心、そして、創造性溢れるプロダクション・デザイナーと撮影監督の勝利と言えるでしょう。

 本作を、別にスピルバーグでなくても撮れたのではと見做すレビューも多く見受けられますが、本当にそうかどうかは、どれもこれも既視感に満ちた、ハリウッドで量産される凡百のファンタジー映画を観れば分かる事です。シーンの一つ一つを独創的に発想し、構築する事、斬新な視点で描写する事、これは決して簡単な事ではありません。インスピレーションとはそういうもので、例えば巨人の動作がすこぶる身軽である事、これも一つの清新な視点です。

 作劇で言えば、中盤に至るまでほとんどパントマイムのような趣でシーンが造形されている事や、主人公のソフィーという名前がなかなか明かされない事、一時間以上も経過するまでセリフのある登場人物がソフィーと巨人達しか登場しない点は、極めてユニークと言えます。それと、ロアルド・ダールの原作を映像化すると誰が監督しても特有のブラック・ユーモアが加味される傾向があり、それがどこか、いつものスピルバーグらしくないテイストやシーン・デザインに結びついている点は注目されます。情感にセンティメンタルな側面がほとんどないのも、ダールらしさと言えるでしょうか。

 一方で、アクティヴな場面でのリズミカルなキャメラ・ワーク、マイム風の動作、キャラクターに寄っていく際の仰角によるクローズ・アップ、アクロバティックな戦闘シーンなど、80年代のスピルバーグを彷彿させるタッチも久々に盛り込んでいます。照明の事を考えると、一体どうやって撮影したのか見当も付かないような凄い場面もあります。『インディ・ジョーンズ』4作目や『タンタンの冒険』は、スピルバーグが老成し、変貌してしまった事を図らずも証明した映画に思えましたが、本作の初々しさは、メリッサ・マティソンとのコラボレーションが関係しているのかどうか、彼のセンスがまだまだ現在進行形である事を、如実に示す実例となりました。

* スタッフ

 製作陣はケネディ/マーシャル組に、彼らの仲間サム・マーサーがスピルバーグ作品初参加。ファースト助監督も兼任するアダム・ソムナーや、クリスティ・マコスコ・クリーガーも継続的に製作に加わっています。脚本のマティソンも、製作を兼任。原作は、ロアルド・ダールのロングセラー児童書『オ・ヤサシ巨人BFG』です。

 マティソンは、前述の通り『E.T.』と『トワイライト・ゾーン』でスピルバーグと組んだ、業界でもひときわ異彩を放つ個性派ライター。作品数は多くないものの、マーティン・スコセッシ監督の『クンドゥン』など、瞠目すべき仕事を残しています。長年に渡って多くの脚本家が手こずってきたこの難しい原作を、マティソンは見事な手腕で脚本に仕上げたといいます。彼女は撮影現場にも顔を出し続け、作品に大きな影響を与えましたが、残念ながら完成を待たずに早世してしまいました。

 撮影、美術、衣装、音楽、編集と、スピルバーグ組勢揃いですが、みんな本作ではキラキラするような素敵な仕事をしていて、特別な一作だった事がよく分かります。カミンスキーの撮影は、全く独創性に溢れた美しいもので、池の中の世界など、目も眩むような幻想的な世界に観客を誘います。衣装のジョンストンも、デジタル処理で描く巨人の衣装までデザインするという徹底ぶり。『アリス・イン・ワンダーランド』のロバート・ストロムバーグと共同で臨んだ、リック・カーターのプロダクション・デザインも見事。とりわけ、各場面の性格的な描き分けに才を発揮しています。ジョン・ウィリアムズの音楽も、口ずさめるテーマ曲を久しぶりに設定しているのが嬉しい所。

 巨人達は、『タンタンの冒険』で一度試みたパフォーマンス・キャプチャーを使って表現されていますが、主人公の顔がちゃんとマーク・ライランス風になっている所がいいですね。背景が巨大にならざるを得ない映画ながら、CGに頼りすぎず、出来るだけ等倍の巨大セットを用意しているのも、アナログ志向のスピルバーグらしいやり方です。ちなみに特殊効果を担当しているのは、ピーター・ジャクソン作品で名を挙げたWETAデジタル社。

* キャスト

 映画の半分以上がソフィーと巨人の二人芝居という特殊なドラマ構成ですが、前作『ブリッジ・オブ・スパイ』に続く主演となるマーク・ライランスと、ほぼ映画初出演のルビー・バーンヒルのやり取りは、生き生きとして素晴らしい見もの。特に後者は、ルックスがイレーヌ・ジャコブのように見える瞬間もあるせいか、時折大女優のような風格すら感じさせる、含蓄に溢れた演技ぶりです。スピルバーグはどの場面も6、7テイク撮った後、いつも彼女に自由に演じてみてもらったそうですが、結果として完成作には、ほとんどこの最後のテイクを使用したと語っています。

 脇役に手堅い配役を施しているのはスピルバーグらしいですが、レベッカ・ホールのような人気女優をこんな小さな役に起用しているのは贅沢。英国女王を演じるのはベテラン、ペネロープ・ウィルトンで、彼女の持ち味が映画を重厚にしすぎず、物語中の女王という存在の説得力を増しているのは、キャスティングの勝利です。ティモシー・スポールの息子レイフ・スポールも、独特のユーモラスな芝居で参加。

 

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