スピルバーグとしては、『タンタンの冒険』以来のファンタジー物。純然たる異世界のファンタジーとなると、『フック』以来かもしれません。有名な童話作家ロアルド・ダールによる原作物ですが、『E.T.』『トワイライト・ゾーン』の脚本家メリッサ・マティソンと久しぶりにタッグを組んだ事も話題を呼びました。 冒頭の一連のシークエンスにおける、ロンドンの街の描き方(特にライティング)を観ただけで、もう現実世界の出来事ではないとひと目で分かるタッチはさすが。巨人の世界のポエジーと幻想味に満ちた描写も素晴らしく、ひとえにスピルバーグのセンスと向上心、そして、創造性溢れるプロダクション・デザイナーと撮影監督の勝利と言えるでしょう。 本作を、別にスピルバーグでなくても撮れたのではと見做すレビューも多く見受けられますが、本当にそうかどうかは、どれもこれも既視感に満ちた、ハリウッドで量産される凡百のファンタジー映画を観れば分かる事です。シーンの一つ一つを独創的に発想し、構築する事、斬新な視点で描写する事、これは決して簡単な事ではありません。インスピレーションとはそういうもので、例えば巨人の動作がすこぶる身軽である事、これも一つの清新な視点です。 作劇で言えば、中盤に至るまでほとんどパントマイムのような趣でシーンが造形されている事や、主人公のソフィーという名前がなかなか明かされない事、一時間以上も経過するまでセリフのある登場人物がソフィーと巨人達しか登場しない点は、極めてユニークと言えます。それと、ロアルド・ダールの原作を映像化すると誰が監督しても特有のブラック・ユーモアが加味される傾向があり、それがどこか、いつものスピルバーグらしくないテイストやシーン・デザインに結びついている点は注目されます。情感にセンティメンタルな側面がほとんどないのも、ダールらしさと言えるでしょうか。 一方で、アクティヴな場面でのリズミカルなキャメラ・ワーク、マイム風の動作、キャラクターに寄っていく際の仰角によるクローズ・アップ、アクロバティックな戦闘シーンなど、80年代のスピルバーグを彷彿させるタッチも久々に盛り込んでいます。照明の事を考えると、一体どうやって撮影したのか見当も付かないような凄い場面もあります。『インディ・ジョーンズ』4作目や『タンタンの冒険』は、スピルバーグが老成し、変貌してしまった事を図らずも証明した映画に思えましたが、本作の初々しさは、メリッサ・マティソンとのコラボレーションが関係しているのかどうか、彼のセンスがまだまだ現在進行形である事を、如実に示す実例となりました。 |