ウエスト・サイド・ストーリー

West Side Story

2021年、アメリカ (157分)

 監督:スティーヴン・スピルバーグ

 製作総指揮:リタ・モレノ、ダニエル・ルピ

       アダム・ソムナー、トニー・クシュナー

 製作:スティーヴン・スピルバーグ

    クリスティ・マコスコ・クリーガー、ケヴィン・マッカラム

 共同製作:デヴィッド・セイント、カルラ・ライジ

 脚本:トニー・クシュナー

(原案:アーサー・ローレンツ、作詞:スティーヴン・ソンドハイム)

 撮影監督:ヤヌス・カミンスキー

 プロダクション・デザイナー:アダム・ストックハウゼン

 衣装デザイナー:ポール・タズウェル

 編集:マイケル・カーン、サラ・ブロシャー

 作詞:スティーヴン・ソンドハイム

 作曲:レナード・バーンスタイン

 振付:ジャスティン・ペック (オリジナル振付:ジェローム・ロビンス)

 ユニット・プロダクション・マネジャー:カルラ・ライジ、ダニエル・ルピ

 第1助監督:アダム・ソムナー

 第2助監督:ジェレミー・マークス

 音楽編曲:デヴィッド・ニューマン

 音楽監修:ジョン・ウィリアムズ

 指揮:グスターヴォ・ドゥダメル

 演奏:ニューヨーク・フィルハーモニック

 追加演奏:ロスアンジェルス・フィルハーモニック

 音響デザイン/リ・レコーディング・ミキサー、音響編集監修

           :ゲイリー・ライドストロム

 共同編集:パトリック・クレーン

* ストーリー

 50年代後半のニューヨーク。マンハッタンのウエスト・サイドに暮らす移民の若者達は、ヨーロッパ系移民のジェッツとプエルトリコ系のシャークスに分かれて対立していた。シャークスのリーダー、ベルナルドの妹マリアは、ダンス・パーティでトニーという青年と出会って惹かれ合う。しかしトニーは、ジェッツの元リーダーだった。

* コメント

 意外にもスピルバーグ初のミュージカル映画。ジェローム・ロビンス振付、ロバート・ワイズ監督の61年作『ウェスト・サイド物語』が名作として有名だが、スピルバーグはこの映画のリメイクではなく、あくまでオリジナルの舞台版を独自の解釈で映画化したものだと言っている。完成作を観ても、その意図はよく理解できる。

 この企画は長年の夢だったそう。映画監督はよくそういう事を言うので、ついついリップ・サーヴィスかなと疑ってしまうが、スピルバーグにとってはこのミュージカルのサントラが初めて聴いたポピュラー音楽で、随分前から映画化は念願だったそうである。今こそ実現すべきだと背中を押したのは、妻のケイト・キャプショーとの事。

 スピルバーグの資質がミュージカルの演出に向いている事は、まず疑いがない。キャメラ・ワークや編集、俳優の所作に音楽的なリズムが横溢している事はこのコーナーでしつこく指摘してきたし、『1941』でも『フック』でも、全編中もっとも画面が生き生きしていたのはミュージカル調の場面だった(『1941』でジルバ・コンテストの場面を演出したのが撮影期間で最高の3日間だったと本人も述懐している)。

 本作もその点は素晴らしい。前半こそ、特にマンボの場面で、恐らくはドゥダメル指揮のオーケストラが意外にも慎重、冷静にすぎるせいで、感情的な高揚にブレーキがかかる感じはあるものの、街角のロケーションと人海戦術が功を奏した“アメリカ”で最初のクライマックスを迎え、息を飲むほどスリリングな“クール”を経て、“クインテット”で圧巻の白熱に達する。

 叙情的な表現は、名曲“トゥナイト”も“サムウェア”も美しく、見事に演出されている。ワイズ監督の映画版は、スピルバーグも指摘する通り、舞台と映画のミックスみたいな仕上がりだった。背景はニューヨークのロケーションだが、ドラマ部分も、例えば男達が激昂して一斉に立ち上がる動作をぴたっと合わせるなど、様式的に振り付けられていた。

 本作はより現代的なスタイルで、会話部分は普通の映画として進行し、ソング・ナンバーで自然にミュージカルへと移行する。オリジナルと違う点はあり、特に設定やドラマの背景は、脚本のクシュナーがより時代に即した、自然な流れで観客が受け入れられるように工夫している。

 例えば“アメリカ”は舞台版も61年作も夜の屋上が舞台だったが、本作は街角のロケ映像を組み合わせた大規模なモブ・シーンになっている。“クール”は順序が決闘の前に移され、旧作ではダンスに参加していなかったトニーがリフと対等にやり合って、息詰まるような緊張関係を歌とダンスで表現する。プエルトリコ系の若い女性達が白人文化に憧れる不自然さに説得力を持たせるため、マリアの職業もデパートの清掃員に変更されている。“サムウェア”をバレンティーナが歌うという重大な変更点もある。

 映像の天才が監督しているだけあって、どのナンバーも流れるように華麗なキャメラ・ワークに圧倒される。各ショットの構図や編集のリズムも素晴らしい。撮影のカミンスキーが指摘しているように、旧作撮影当時のキャメラは固定するしかなく、ダンサーがキャメラに煽られているような演出は望めなかった。現代の若手俳優たちも、重力を感じさせない身軽なステップが特色である。

 唯一贅沢を言えば、若い頃のスピルバーグであったら、よりケレン味のある奇抜な演出も色々試しただろうし、そのアプローチはミュージカル映画に合っていただろうと思わなくもない。全体に遊び心はあまり無く、正攻法に徹したきらいはある。

 良くも悪くも本作は、『インディ・ジョーンズ/クリスタル・スカルの王国』や『B.F.G.』でさえそうであったように、ゼロ年代以降の重く暗いスピルバーグ映画の系譜に属してはいる。『ミュンヘン』『リンカーン』の脚本家が執筆しているだけの事はあるだろう。

* スタッフ

 製作はスピルバーグ自身と脚本のクシュナー、クリスティ・マコスコ・クリーガー、アダム・ソムナー、ダニエル・ルピというスピルバーグ組。さらに旧作と本作の出演者でもあるリタ・モレノ、次作『フェイブルマンズ』にも関わっているカルラ・ライジ。

 脚本のトニー・クシュナーは『ミュンヘン』『リンカーン』でスピルバーグと組んでいるが、ユダヤ人としての誇りの強さによってスピルバーグと意気投合。次作『フェイブルマンズ』では、脚本を共同執筆している。メイン・スタッフは撮影のヤヌス・カミンスキー、編集のマイケル・カーン、サラ・ブロシャーと常連組の他、プロダクション・デザイナーに『ブリッジ・オブ・スパイ』『レディ・プレイヤー1』で組んだアダム・ストックハウゼンを起用。

 作曲はアメリカを代表する名指揮者でもあったレナード・バーンスタイン、作詞を『スウィーニー・トッド』等のスティーヴィン・ソンドハイム。売れっ子作曲家でもあるデヴィッド・ニューマンが編曲にクレジットされているが、必要に応じて一部アレンジしただけで、実際にはスーパーヴァイザーのような立場だったと本人は語っている。実際に音楽監修としてクレジットされているのは、監督の盟友ジョン・ウィリアムズ。

 オーケストラの指揮は、グスターヴォ・ドゥダメルが担当。ヴェネズエラの貧困層を対象に行われた社会実験プログラム、エル・システマが生んだ初の世界的アーティストで、今やウィーン・フィルハーモニー管弦楽団の伝統行事ニューイヤー・コンサートの指揮者にも抜擢された名指揮者である。演奏はバーンスタインが数十年に渡って音楽監督を務めたニューヨーク・フィルハーモニック。追加録音はコロナ禍のため、ドゥダメルが音楽監督を務めるロスアンジェルス・フィルハーモニックが演奏したという豪華サウンドトラック。

* キャスト

 キャスティングはフレッシュな若手中心で、ブロードウェイで活躍している人も多い。『シカゴ』や『レ・ミゼラブル』のようなスター中心のミュージカル映画を観たい人には向かないが、スピルバーグ作品にはよくあるキャスティングのパターンである。

 注目は、61年版でアニータを演じたリタ・モレノが製作に参加し、雑貨店主バレンティーナという新しいキャラクターを演じている事。彼女が“サムウェア”を歌うという趣向もあり、往年の映画ファンには嬉しい起用だろう。ちなみに本作でアニータを演じたアリアナ・デボーズは、アカデミー助演女優賞に輝いた。

* アカデミー賞

 ◎受賞/助演女優賞(アリアナ・デボーズ)

 ◎ノミネート/作品賞、監督賞、撮影賞、美術賞、衣装デザイン賞、音響賞

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