スピルバーグがユニヴァーサルと契約して最初の仕事。人気テレビ・シリーズ『ミステリー・ゾーン(トワイライト・ゾーン)』のロッド・サーリングが再び脚本とホストを務めた新シリーズのパイロット版である。彼が担当したのは第2話で、他の監督は第1話『復讐の絵画』がボリス・セイガル、第3話『絵になった男』がバリー・シアー。 共同製作にクレジットされているジョン・バダムは、同姓同名の別人でなければ後に『サタデー・ナイト・フィーバー』や『ウォー・ゲーム』でヒットを飛ばした監督。編集のエドワード・M・エイブロムスは、スピルバーグの劇場用映画デビュー作『続・激突!カージャック』も担当。音楽を、『LA2017』『刑事コロンボ/構想の死角』『激突!』でも組んでいるビリー・ゴールデンバーグが作曲している。 スタジオで初めて監督をまかされた作品だが、スピルバーグはひどい仕事だったと認めており、我が国で72年にNET(現・テレビ朝日)の土曜映画劇場で放送(タイトルは『怪奇!真夏の夜の夢』)された時も、このエピソードだけカットされたそう。監督の知名度がまだなかったせいもあるが、他の2話の出来がなかなか良い上、『アイズ』は超自然的要素のない話なので、尺が決まっていればカットされてしまうのも仕方がないかもしれない。 DVD化されて幸運にも陽の目を見たが、監督本人が言うほど悪い作品ではなく、意欲的な演出ぶり。演技がしっかりしていてドラマとして見応えがあるし、ダイアローグもクオリティが高い。スピルバーグは奇抜なカットを撮ろうとしてスタッフに説明し、苦笑いされながらも様々な表現を試みた。しかし、編集室でラッシュを見た製作者のサックハイムは、視覚的に凝り過ぎたカットが出て来るたびに難色を示し、自分が選んだカットと入れ替えていったという。 本作は研究家の間でも興味深く捉えられていて、広角レンズやクレーンの使用、ドラマティックなライティングなど、後年のスピルバーグのスタイルが多く指摘されている。ズームを使わずにレールを敷いてドリーを走らせる複雑な移動撮影、キューブリック流の素早い編集やジャンプ・カット、オーバーラップ映像の多用、斬新なアングル、主人公のみに照明を当てて周囲を黒で表現した停電のアニメチックな描写など、いずれも早熟な才能と言える。 開巻早々、エレベーターが閉まる直前で交わされる会話など、場面に緊張感を与える工夫が随所に見られるし、逆さに像が映るシャンデリアのクリスタルから始まるショットなど、たとえ後付けでも何か象徴的な意味を付与すれば、これだって立派な映像表現である。角膜の提供者が債権者とやり取りをする場面も、回転する公園の遊具を使っていて、好意的にさえ見れば実にユニークなシーン造形。 主演に往年の名女優ジョーン・クロフォードが起用されているが、スピルバーグはこれを「デビュー戦でハンク・アーロン相手に投げるようなものだった」と述懐。かつてのオスカー女優は英国のホラー映画でモンスターの脇役をやるまで落ちぶれていたが、テレビ映画への出演はこれが初めてだった。彼女は21歳の新人監督に演出される事を快く思っていなかったようである。しかしスピルバーグは持ち前の策士ぶりを発揮し、次第に彼女は一番のスピルバーグ・ファンになってゆく。 デトロイト・フリー・プレス誌のベテラン記者シャーリー・イーダーは、『フック』の報道関係者パーティーに出席した時、自分は『アイズ』の撮影現場に居て、クロフォードから「あの子にインタビューなさい。いつか古今最大の監督になるわ」と勧められたとスピルバーグに明かした。彼は「その話はすでに聞いています。当時の僕にインタビューするなんて、あなたはおかしいんじゃないかと思ってました」と返答している。 この経験に疲弊しきったスピルバーグは、ユニヴァーサルに「もうテレビの仕事はできません。辞めさせて下さい」と申し出るが、シャインバーグはこれを受け付けず、1年間の休職を勧める。スピルバーグは、ユニヴァーサルを出て独立しようと色々試みるが、これもうまく行かず、結局4ヶ月後に復職を願い出た。この休職期間は決して無意味な空白ではなく、彼はこの時に作曲家ジョン・ウィリアムズと出会い、『続・激突!カージャック』の脚本も書いた。 |