続・激突! カージャック!

The Sugarland Express

1974年、アメリカ (109分)

         

 監督:スティーヴン・スピルバーグ

 製作総指揮:ウィリアム・S・ギルモア,Jr

 製作:リチャード・D・ザナック、デヴィッド・ブラウン

 脚本:ハル・バーウッド&マシュー・ロビンズ

 (原案:スティーヴン・スピルバーグ、ハル・バーウッド&マシュー・ロビンズ)

 撮影監督 : ヴィルモス・ジグモンド,A.S.C.

 プロダクション・デザイナー:ジョセフ・アルヴス,Jr

 編集:エドワード・M・エイブロムス、ヴァーナ・フィールズ

 音楽:ジョン・ウィリアムズ

 出演:ゴールディー・ホーン  ウィリアム・アサートン

    ベン・ジョンソン  マイケル・サックス

  

* ストーリー 

 テキサス州立刑務所に服役中のクロヴィスに面会にやってきた妻ルー。彼女は、裁判所の命令で自分たちの子供が里親に出された事を訴え、反対する夫を説得して脱獄に手を貸す。二人はパトロール中の巡査を人質にしてパトカーをカージャック。息子が保護されているシュガーランドを目指すが、彼らの道行きはマスコミ報道によって住民や警察を巻き込む大騒動へと発展してゆく。

* コメント   *ネタバレ注意!

 実話からヒントを得た、スピルバーグの劇場映画デビュー作。『激突!』の続編を思わせる邦題が付いていますが、原題から分かる通り内容的に全く関係がありません。ただ、車による逃走劇というプロットで、カー・アクションもふんだんに挿入されるなど、類似点はなくもない感じ。テーマ自体はむしろ、後年のスピルバーグ映画を彷彿させるものだと言えます(実際、ストーリー作りにスピルバーグも参加しています)。

 主人公の計画も行動も余りに短絡的で無謀なので、子供を取り返して平和に暮らすという彼女達の目的が達成されない事は、最初から誰の目にも明らかです。要するに、悲劇的結末は最初から予想されうるものなのですが、スピルバーグの関心は別の所に向けられていて、つまり結局の所、これは母親が子供を奪還する話であって、それは犠牲を伴いつつも最後に成功する訳です。

 全体に、社会に対する不満や怒り、異議申し立てのような態度は希薄で、むしろ、徹底して人情物に傾いてゆくようにも見えます。例えば、主人公夫婦が通過する町での群衆の行動や警察側の描き方には、ユーモアや人情味がふんだんに盛り込まれていて、その辺りは時に悲壮感が漂うニューシネマの一群と視点を異にしています。前半部などはむしろ、あと一歩コメディの要素を強めたら、ほとんど『ブルース・ブラザース』になりかねないくらい。

 そもそもスピルバーグの映画には、カウンター・カルチャーの匂いがほとんどしませんね(『激突!』も娯楽としてのサスペンスを志向している作品といえます)。彼自身が中流家庭で何不自由なく育ったからでしょうか。時代の空気やロケーション撮影のせいか、アメリカン・ニューシネマの雰囲気が指摘される本作ですが、美しく抒情的なラストシーンにしても、ニューシネマ的な後味の悪さとは無縁です。演出手法や映像センスも実にシャープで、『激突!』と同様、古臭さや時代がかったタッチはほとんど感じられません。

 まあ『ジョーズ』や『未知との遭遇』以降、何かしらのギミックを使った特殊な映画を連発していた時期は、本作も地味なデビュー作と見なされる傾向がありましたが、後のスピルバーグを知っている私達には、やはり彼らしい映画に見えますね。興行的には成功しませんでしたが、評論家から高く評価され、カンヌ映画祭でも最優秀脚本賞を受賞しました。名匠ビリー・ワイルダー監督も当時、「この映画の監督ほど才能に恵まれた若者は今後しばらくは現れないだろう」とコメントしています。

* スタッフ

 製作のザナック&ブラウンは、『スティング』などを製作した名プロデューサー・コンビ。若い世代の監督とも相性が良く、前者は後年、ティム・バートン作品も数多くプロデュースしています。テレビ映画しか監督経験のないスピルバーグの才能を買った先見の明だけでなく、興行的に振るわなかった本作の後で、『ジョーズ』の監督に再び彼を抜擢する(その際にディック・リチャーズ監督を降ろしています)なんて、いかにスピルバーグの才能に信頼を寄せていたかが窺われますね。

 脚本を書いているバーウッドとロビンズのコンビはスピルバーグの旧友で、二人揃って『未知との遭遇』にチョイ役で出演している他、その後の映画でも、脚本執筆に際して様々なアドバイスを行っているそうです。又、ロビンズは『ニューヨーク東8番街の奇跡』や『アメージング・ストーリー』中の一話など、スピルバーグ製作の元で監督作もあり。

 撮影は、ロバート・アルトマン監督から紹介されたという名手ヴィルモス・ジグモンド。ハンガリー出身の彼は、光量の少ない悪条件・悪天候をものともしない腕利きで、陽が落ちる寸前の夕闇みたいな空でさえ見事に背景として取り込んでいるし、照明なしの暗がりの場面や逆光の画面も随所に見られます。彼はスピルバーグと撮影開始前に3週間もテキサスを回ってロケ地を探し、その時には監督に、構想が甘すぎるのでもっと作品に鋭さを加えた方が良いと助言までしたそうです。

 しかし、斬新なアングルを追求する傾向にあったスピルバーグはしばしばジグモンドにいさめられ、車のガラス越しの撮影を指示した時は、「誰の視点なのか説明しなければ撮影を続行できない」と言われてしまいました。「僕の、監督の視点だ」というスピルバーグに、「そいつは賢い。でも効果はないね」とジグモンド。結局スピルバーグは、ショットが常に何かを意味していなければならない事を学び、『未知との遭遇』に再びジグモンドを起用します。

 『激突!』からは助監督のジム・ファーゴ、スタント・コーディネーターのケアリー・ロフティンが参加。本作で初めてコンビを組んだジョン・ウィリアムズの音楽も、オーケストラではなくハーモニカやギターを使って、カントリー風というか、やはりニューシネマ的なムードを志向しているように感じられます。ちなみにハーモニカ演奏はオランダの名手、トゥーツ・シールマンス。

 編集のヴァーナ・フィールズは、スピルバーグの友人の作品、ジョージ・ルーカスの『アメリカン・グラフィティ』やピーター・ボグダノヴィッチの『ペーパー・ムーン』を編集した人で、次作『ジョーズ』にも参加。スタッフに食事を用意したりして母親のような雰囲気があり、“マザー・カッター”と呼ばれてとても慕われていたそうです。

* キャスト

 主演のゴールディ・ホーンは、当時既にアカデミー賞女優でしたが、今まで自分が求められた事がないような役柄に惹かれ、若い新人監督の映画に出演する事にしました。彼女が当時得意としていたコメディとは違うものの、脚本にあるユーモアは彼女のセンスによって余す所なく表現されていると思います。スピルバーグは本作の興行的失敗の原因を、映画会社が「いつも通りの楽しいゴールディー・ホーン映画」であるかのように宣伝したからだ、と発言しています。

 夫役のウィリアム・アサートンは、本作の後『イナゴの日』や『ヒンデンブルグ』等で重要な役柄にキャスティングされ、『華麗なるギャッツビー』では主題歌を歌って多彩な才能を披露しますが、後年は『ゴーストバスターズ』の憎たらしい役人を皮切りに、『ダイ・ハード』の傲慢なテレビ・レポーターなど、憎まれ役で存在感を示す事が多くなりました。

 ジョン・フォード作品で有名なベン・ジョンソンを起用しているのは、クラシック映画ファンのスピルバーグらしい所。又、本業はスタントマンながら、チョイ役で細かく出演して“隠れスピルバーグ・ファミリー”となったテッド・グロスマンが、既に本作にも出演しています。

* カンヌ国際映画祭

 ◎受賞/脚本賞    ◎ノミネート/パルム・ドール

 

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