JAWS ジョーズ

JAWS

1975年、アメリカ (124分)

         

 監督:スティーヴン・スピルバーグ

 製作総指揮:ウィリアム・S・ギルモア,Jr

 製作:リチャード・D・ザナック、デヴィッド・ブラウン

 脚本:ピーター・ベンチリー 、カール・ゴッドリーブ

 (原作:ピーター・ベンチリー)

 撮影監督 : ビル・バトラー, A.S.C.

 プロダクション・デザイナー:ジョセフ・アルヴス,Jr

 編集:ヴァーナ・フィールズ

 音楽:ジョン・ウィリアムズ

 出演:ロイ・シャイダー  ロバート・ショー

    リチャード・ドレイファス  ロレイン・ゲイリー

    マーレイ・ハミルトン

   

* ストーリー 

 平和な海水浴場アミティに突如出現した巨大な人喰い鮫。観光シーズンの利益を求める市当局によって対応が遅れ、犠牲者の数は次第に増してゆく中、警察署長のブロディは、賞金稼ぎの漁師クイント、海洋学者フーパーと共に、ボートで鮫退治に乗り出す。

* コメント    

 スピルバーグの名を一躍有名にし、印象的なポスターと共に、動物パニック映画の新しい時代を切り開いた記念碑的作品。本作は当時の映画史上の興行記録を塗り替えた他、社会現象を巻き起こし、本来“顎”を意味する“ジョーズ”という単語は、本作以来“サメ”そのものを表す言い方として流布。サメの視点で撮られた一人称映像と、弦のザッザッザッというテーマ曲は数々のパロディを生み、コメディ映画からテレビ番組に至るまで、モンスターの襲撃表現として完全に定着しました。

 既に指摘されているように、この映画の凄さは、サメそのものより水が恐いと観客に思わせた事にあります。本作の大ヒットによってその夏、各地の海水浴客が減ったとまで言われましたが、あながち大袈裟なニュースでもないかもしれません。実際にサメの姿が登場するカットは少なく、創意工夫に富んだユニークな映像表現によって、その脅威が見事に表現されます。例えば、賞金稼ぎの二人組が襲撃を受ける桟橋の場面では、破壊された桟橋のロープがサメに絡み付き、沖に向かって離れていった桟橋の残骸が、向きを変えて再び陸に向かってくるという表現で、サメの姿を見せずして恐ろしいシーンを作り上げています。

 監督自身述べているように、本作と『激突!』には多くの共通点があり、演出もその前衛性とモダンな感覚を踏襲。後半の船の場面など、詩的で斬新な映像を盛り込んでリズミカルなモンタージュを行うなど、意欲的な映像構成が目立ちます。導入部などは、ホラー映画としては定番というか、王道を行く場面展開ですが、今の目で観ても、場面全体に漂う詩情の豊かさ、サスペンス演出の腕など全てが一級レベルで、いわゆるB級映画とは一線を画します。

 役者の芝居も、細かいニュアンスまでよく計算されたもの。ダイアローグが優れている上、演技のバランスも周到に練られており、ブロディが珍しく激昂した所でフーパーが冷静にサメの到来を告げるといった、まるで音楽のような緩急が随所に付けられています。登場人物全員が一斉に喋るという混乱した場面もある一方、一人で悶々と悩むブロディのポーズを、子供が横で真似してゆくという、可愛らしくも暖かな場面もあるなど、とにかく構成が見事。

 スリラー演出はやはりヒッチコックの影響が強く、音楽の使用を控え、ドキュメンタリックな映像のカットバックで不穏なムードを煽る手法を前半部の軸としています。これは『激突!』でも顕著にみられたアプローチで、その後も『未知との遭遇』や『1941』、プロデュース作の『ポルターガイスト』で映画の前半部分に応用しています。又、我先にと逃げ惑う群衆の描写で、子供の浮き輪を奪い取る人や転んだ人の背中を踏み越えてゆく人がいたりと、恐怖の中に皮肉とユーモアを織り交ぜるセンスもヒッチ風。ダイアローグにもふんだんにユーモアを盛り込んでいます。映像表現にも、例えば視界を横切る通行人を編集点に使ってカットバックしたり、ズームしながらキャメラを後退させるヒッチコックの手法等を導入。

 脚本の構成は前半がスリラー、後半は海洋冒険物として作られています。ブロディ署長が心理的、物理的に孤立し、追いつめられてゆくという典型的なサスペンス劇の前半に対し、後半は脅威の対象が明らかになり、男達が海の上で繰り広げる冒険記といった所。音楽も、後半でがらっと雰囲気が変わり、勇壮で快活な、アドベンチャーの雰囲気が強く打ち出されています。

 前半部の息詰るようなムードは、ブロディが町に赴任してきたばかりの他所者である事にも起因しています。ビーチでは彼の耳に、「この島で生まれた者しか島の人間とは認められない」旨の会話も入ってきます。さらに彼は、サメの脅威のせいで町の経済的利害と対立する措置を取らなければならない。観光産業はこの町の命綱であり、シーズン中の海岸封鎖などもってのほかという訳です。砂漠の中、一人ぼっちでトラックと戦った『激突!』の主人公と状況は近似しており、サスペンスのお膳立てとしては、心憎いばかりに巧妙な設定と言えるでしょう。

 ちなみに最後にも、『激突!』との共通点を敢えて強調している箇所があります。サメが海底に沈んでゆく場面で、『激突!』のラストでトラックが崖を落ちてゆく所にダビングされた恐竜の声(昔の映画から採録したもの)が、再び重ね合わせているのです。これは隠し味というより、意識して聴くとはっきり分かる演出なので、興味のある人はぜひ較べてみて下さい。

* スタッフ

 撮影が難航した事はよく知られています。そもそも海上での撮影というのは大変に困難で、天候が変わりやすいためカットの繋がりがとれないし、潮風や海水が機材やセットをダメにしてしまうし、足場が安機械仕掛けのサメを扱う訳ですから簡単に行く筈がありません。サメは思い通りに動かないばかりか故障を繰り返し、撮影は遅れる一方だったと言われています。

 脚本の段階で紆余曲折があり、様々なライターが関わってくるのはスピルバーグ作品の常ですが、デビュー2作目の本作も例外ではありません。まず、原作者ベンチリーが第1稿を完成させますが、スピルバーグはこれを気に入らず、偶然にもスキューバ・ダイビングをしにロケ地に来ていた劇作家ハワード・サックラーにリライトを依頼。サックラーは名前を出さない条件でこれを引き受け、4週間ホテルにこもって執筆しました。スピルバーグによれば、原作にない要素はほとんどがここで出たとの事。

 次にスピルバーグは、ユーモアのセンスが必要だという事で、人気の即興コメディ・グループ“ザ・コミッティ”の俳優/作家カール・ゴットリーブに脚本を送ります。スピルバーグが監督した『恐怖の館』にも端役で出ていた彼とはロングビーチ時代からの友人で、小さな役での出演を依頼。実は最初から、脚本をリライトさせる目的でキャスティングしたようです。ゴットリーブは、主に群衆シーンやアドリブ的なセリフを書き加え、サメよりも水に対する恐怖を喚起するよう心掛けたと語っています。

 もっとも、スピルバーグのように次々アイデアが湧いてくる監督は、現場での即席演出が増える傾向にあり、脚本はあくまで叩き台に過ぎないようです。前作の脚本を書いたマシュー・ロビンズとハル・バーウッドも改良を手伝ったそうですし、ロバート・ショーがインディアナポリス号のエピソードを語るシークエンスは、監督デビュー作『デリンジャー』の準備中だったジョン・ミリアスが書き上げたもの(調査報告書にざっと目を通しただけでたった15分で仕上げたという話)。

 撮影監督のビル・バトラーは、テレビ映画『恐怖の館』『死を呼ぶスキャンダル』で既にスピルバーグと仕事をしています。彼は水面すれすれの映像を撮るために独自の箱を開発し、映画全体のゆうに25%で使用しているとの事。これは正に、海に浮かぶ人間の目線で、観客が実際に海に放り込まれたような恐怖を感じるよう、巧妙に設計された映像です。ちなみにキャメラのオペレーターは、後に撮影監督として売れっ子となるマイケル・チャップマン。

 音楽は、前作から続投したジョン・ウィリアムズですが、本作のヒットは彼の音楽にも不動の名声を与えました。スピルバーグによれば、音楽というのははめ込み方が重要で、ウィリアムズはそれが抜群に上手いとの事。最初にピアノでサメのテーマを聴かされた時は冗談かと思ったそうですが、これがあの低い弦の音で一人称キャメラの映像に乗ってくると、そのインパクトたるや絶大と言わざるをえません。又、同じ一人称の映像でも、実はサメではないというフェイントの時は、敢えて音楽を付けていないのが愉快です。彼は、過去にミュージカルのアレンジでオスカーを受賞した経験はありましたが、本作で初めて、自作曲でアカデミー賞に輝きました。

 プロダクション・デザインと編集は、それぞれ前作から引き続いてジョー・アルヴェス、ヴァーナ・フィールズが担当。『激突!』『続・激突!』でスタントのコーディネーターだったジム・ファーゴも、ユニット・プロダクション・マネージャ−として参加しています。

* キャスト

 主要キャストは、『フレンチ・コネクション』で名を挙げたロイ・シャイダー、『アメリカン・グラフィティ』でデビューしたばかりながら、早くも若き演技派と目されていたリチャード・ドレイファス、『スティング』をはじめ多彩な役柄で知られていたロバート・ショー(彼は小説や戯曲を多数発表している作家でもあり、件のインディアナポリス号のエピソードは、かなりアドリブも入っているようです)。この3人の饒舌なやりとりには、どことなく演劇的なムードが漂うのも面白い所です。

 ブロディの妻を演じるロレイン・ゲイリーは、『アンブリン』でスピルバーグの才能を見いだしたユニヴァーサルの重役、シド・シャインバーグの妻で、今まで大きな役に恵まれなかった彼女を起用した事にシャインバーグは多大な感謝の念を表明したといいます。この辺り、策士スピルバーグの面目躍如というか、学生時代、いじめっ子グループのボスを敢えて自主映画の主人公に起用したというエピソードを思い出させます。

 又、原作・脚本のピーター・ベンチリーがテレビのレポーター、脚色者のカール・ゴットリーブが地方紙の編集長役でそれぞれ出演。前作にも出演したテッド・グロスマンも入り江のボートの男を演じていますが、本業はスタントマンですから、サメに足を食いちぎられたり飲み込まれたりしているのは、みんなこの人だそうです。

* アカデミー賞

 ◎受賞/作曲賞、音響賞、編集賞    ◎ノミネート/作品賞

 

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