未知との遭遇

Close Encounters Of The Third Kind

1977年、アメリカ (135分)

1980年、特別篇公開 (132分)

1999年、ファイナル・カット版公開 (137分)

         

 監督:スティーヴン・スピルバーグ

 製作:ジュリア・フィリップス、マイケル・フィリップス

 共同製作:クラーク・ペイロー

 脚本:スティーヴン・スピルバーグ

 撮影監督 : ヴィルモス・ジグモンド, A.S.C. 

 プロダクション・デザイナー:ジョセフ・アルヴェス,Jr

 編集:マイケル・カーン

 音楽:ジョン・ウィリアムズ

 撮影監督:ウィリアム・A・フレイカー (アメリカ・シーン)

       ダグラス・スローカム (インド・シーン)

       ジョン・A・アロンゾ&ラズロ・コヴァックス (特殊シーン)

       スティーヴ・ポスター (セカンド・ユニット)

      アレン・ダヴィオー (特別篇追加シーン)

 キャメラ・オペレーター:ニック・マクリーン

 特殊効果:ダグラス・トランブル

 マザーシップ撮影:デニス・ミューレン

 異星人デザイン:カルロ・ランバルディ

 出演:リチャード・ドレイファス  フランソワ・トリュフォー

    テリー・ガー  ボブ・バラバン

    メリンダ・ディロン  ランス・ヘンリクセン

    ケアリー・グッフィ  ロバーツ・ブロッサム

* ストーリー 

 電気技師のロイ・ニアリーは、原因不明の停電のため夜中に出勤するが、そこで未確認飛行物体を目撃。それからというもの、ある図形イメージが頭から離れなくなる。その頃、世界各地で同様の不可思議な出来事が頻発。何十年も前に行方不明になった戦闘機や大型船も発見される。一方、ロイの奇行は家庭を不安に陥れ、妻は子供を連れて出て行ってしまう。しかしロイは図形がある場所の形状である事を知り、行動に出る。

* コメント   *ネタバレ注意!

 SF映画の不朽の名作にして、スピルバーグ二本目の大ヒット作。『ジョーズ』の大成功直後という期待の中、さらなる話題作で再び記録的な興行成績を挙げた事で、彼の名声は不動のものとなりました。本作は又、公開の三年後に特別編を製作、公開した事で、長尺完全版ブームの先鞭をつけたと言えなくもありません。ただ、後年には映画祭のみで特別上映されたファイナル・カット版も新登場し、3つのヴァージョンを全て収録した映像ソフトが発売されるなど、初めて本作に接する人には少々ややこしい展開になってもいます。

 映画は、初期スピルバーグ作品の特徴である、エピソードの羅列で展開。このスタイルは次作『1941』でも踏襲された後、『レイダース/失われたアーク』でよりストーリー性の強い直線的スタイルに吸収されていきます。最初はバラバラに思える各場面が、主人公を軸にしてラストのクライマックスへと収束してゆく構成は秀逸。明確なストーリーラインがある訳ではなく、ただ、各エピソード間の関連性と方向性だけが存在する感じで、それよりは、各場面を“体験する”事の方が重要なのだと思います。

 当初70ミリの大スクリーンを想定して製作された事からも分かるように、本作の主目的は、ラストの祝祭的大団円を“体験する”ためという他ありません。実際、私もリバイバルで初めて本作を観た時(通常サイズのスクリーンでしたが)、例の巨大なマザーシップが画面に登場した時、驚きで思わずのけぞった事をよく覚えています(CG世代の若い子達には笑われそうですけど)。それで当時のスピルバーグ映画はよく「人間が描けていない」と批評家に叩かれましたが、作品のコンセプトと批評家の既成概念が乖離しすぎているというか、あまりに的外れでバカバカしくなりますね。

 セリフに頼らず、ひたすら現象を活写するスピルバーグらしい映画語法は随所にみられ、観客を騙すユーモラスなフェイント(砂嵐の中に現れるヘッドライトや、ロイの車を追い抜いてゆく後続車など)からホラー・テイストのスリラー演出まで、見どころ満載。特にインドのシークエンスで、空を指差す大群衆の腕が画面下から一斉に突き出される所は、これぞスピルバーグ!という力強くも映画的なショットで圧巻です。

 衝動に突き動かされて行動する人物というのもスピルバーグ的な要素ですが、彼は後年、「家族を捨てて宇宙船に乗り込む男の話など、今の自分にはもう撮れない」と語っています。故・荻昌弘氏が劇場パンフレットの中で指摘しているように、本作は、何かを夢中で追い続けた人達だけが異星人と接近遭遇するお話です。80年代のビデオ雑誌に載っていたスピルバーグの言葉は印象的でした。「これはSF映画でもなければ、UFOについての映画でもない。信じていた事が本当に実現する事の素晴らしさを描いた映画なんだ」。ちなみに彼は、人間がUFOに乗って異星人が一人地球に残る交換留学生式のヴァージョンも考えたそうですが、結局この異星人と子供の話を別に作る事にしました。コロムビアが却下したこの話は、後にユニヴァーサルで『E.T.』として映画化されます。

 スピルバーグは作品公開まで徹底した秘密主義を貫く事で有名ですが、それは本作から始まりました。ロケ地にマスコミが殺到した『ジョーズ』の失敗を踏まえて、本作の事前情報は異常なまでに徹底して秘匿されたのです(監督本人でさえ身分証を忘れて現場に入れなかった事があるそうです)。それは又、『ジョーズ』の時と同様、聞き慣れない専門用語で世間を煙に巻くタイトルの付け方にも表れています。原題の「第三種接近遭遇」とは、異星人との接近遭遇を言う用語で、このネーミング・センスは後の『E.T.』『A.I.』にも引き継がれていきます。

* エディションについて

 スピルバーグは、作品を仕上げる時間が充分に無かったとして、編集のやり直しという過去に前例のない申し出を行いました。スタジオが配給日を強引に守らせたせいで、冗長な部分を削ったり特殊効果の完成度を高める時間がなかったのが原因ですが、スピルバーグはさらに、砂漠で巨大船が発見される場面をどうしても入れたいと思っていました。スタジオは、主人公がマザーシップに入った後の場面を追加する条件で150万ドルの製作費を提案。宇宙船の内部は観客の想像力に委ねたかったスピルバーグも、この条件を渋々飲みました。こうして編集しなおされた特別篇は、細かいカットの追加や場面の順序を別にすれば、主に次の変更が行われています。

 ・ロイの家庭が最初に出てくる場面が少し長くなった。

   電車の模型とピノキオのオルゴールが衝突し、ロイががっかりする様子がカットされ、家族の交流の描写が増えた。

 ・ロイが勤める電力会社で、同僚が原因不明の停電について話している場面をカット。

 ・UFOを追って走るロイのトラックの上を巨大な影が通過するショットを追加。

 ・丘の場面で、看板がUFOのライトに照らし出されるショットを追加。

 ・ゴビ砂漠で行方不明の大型船コトパクシ号が発見される場面を追加。

 ・空軍がUFOに関する公聴会を開く場面をカット。

 ・ノイローゼになったロイが服を来たままシャワーを浴び、妻と口論になる場面をカット。

 ・ロイが壁中に貼ったUFOの記事を捨てる場面をカット。

 ・ロイがデビルズタワーの模型を作るため、庭で材料を集める場面をカット。

 ・ラストのマザーシップ内部の光景を追加。

 ・エンドロールの音楽に、ディズニーの“星に願いを”のメロディを追加。

* スタッフ

 本作は、スピルバーグとしては初めてユニヴァーサルを離れた映画です。プロデューサーのフィリップス夫妻は、『スティング』の大成功で売れっ子となっていましたが、本作クランク・インの6週間後に離婚。事実上ジュリアが唯一の女性ライン・プロデューサーとして仕事に当たりました。しかし彼女は、製作後期に至って深刻な薬物依存に陥り、主要な撮影が終了した時点でクビを言い渡されたり、トリュフォーをはじめ出演者やスタッフとの不和も囁かれるなど、何かと話題を提供した人物でもあります。

 脚本は当初、フィリップス夫妻と組んで成功した『タクシー・ドライバー』のポール・シュレーダーが執筆。この第1稿は『御国をきたらせたまえ』というタイトルで、異常なほど宗教色の強い内容だったと言います。スピルバーグ曰く、「プロから届いた脚本の中で、最も当惑させられる作品の一つだ。UFOの話とは全然違い、教会と国家について描いている。ひどく罪にさいなまれた話で、恐ろしい。本当に恐ろしかった」。

 結局、脚本にはスピルバーグ自身が一人でクレジットされますが、知り合いの脚本家は誰もが協力を求められ、後に『オールウェイズ』の脚本を担当するコメディ作家ジェリー・ベルソンも、5日間かけてユーモアと人間味を追加。『続・激突!』のマシュー・ロビンズとハル・バーウッドも、バリー少年がさらわれる場面に4日間手を貸し、二人揃って帰還者の役で出演もしています。

 さらに、撮影にも総勢11名と言われるシネマトグラファーが関わり、本編撮影に『続・激突!』のヴィルモス・ジグモンドが起用された他、後に『インディ・ジョーンズ』シリーズで組むダグラス・スローカムがインドの場面を担当。追加撮影には名手ラズロ・コヴァックス、ジョン・A・アロンゾが参加し、バリー少年がさらわれるシーンの撮り直しやオハイオの料金所の場面、マザー・シップ内部の映像を撮影。次作『1941』のウィリアム・A・フレイカーも、砂漠で戦闘機が発見される場面や、巨大な地球儀を転がす場面を撮影。

 又、クレジットに名前はないですが、『アンブリン』以来となる起用で、後のスピルバーグ作品を多く手掛けるアレン・ダヴィオーも、新しい素材を撮影しているそうです。さらに、キャメラ・オペレーターのニック・マクリーンは、撮影監督として『グーニーズ』でスピルバーグと関わっていますし、セカンド・ユニットの撮影監督スティーヴ・ポスターも、後年リドリー・スコットやパトリス・ルコントの作品で才能を発揮しています。

 プロダクション・デザインは前2作に続いてジョー・アルヴェスが担当。クライマックスは、彼が見つけてきたアラバマの巨大格納庫でスモークを炊いて撮影されています。第二次世界大戦中に飛行船の格納庫として使われていた建物で、広大で梁のない屋内セットという条件に見事合致。さらに、ワイオミング州の巨大な岩山、デビルズタワーの奇抜な外観は、物語上も映像的にも重大な役割を果たしています。

 編集は、前2作同様ヴァーナ・フィールズが担当する予定でしたが、これはスピルバーグのせいで実現しませんでした。一つには、『ジョーズ』は彼女の編集で救われたという噂が社内にあり、音楽のジョン・ウィリアムズと彼女だけがオスカーを受賞し、監督が無視された事にスピルバーグは立腹したと言われています。しかし、フィールズに絶大な信頼を寄せたユニヴァーサルは、本作に共同プロデューサーとして参加させた上、彼女が気に入った脚本があればいずれ監督デビューもさせるつもりだったとの事。

 要するに、スピルバーグは子供っぽい嫉妬心から彼女を追い出した訳ですが、その後、30人もの編集マンと面接をして出会ったマイケル・カーンは、本作以降の全作品で組むほど信頼のおける理解者となるのですから、運命というのも侮れないものですね。スピルバーグはファイナル・カット版の特典映像で、この映画のラスト25分ほど大変だった編集はないと語っていますが、カーンは膨大な量のフィルムから、特殊効果の数々を加えた見事な完成版を仕上げてみせました。

 音楽は、前作に続いてジョン・ウィリアムズが担当、この後ほとんどのスピルバーグ作品で共作が続いてゆく事になります。異星人との交信に使われる特徴的な5音階は、100通りの組み合わせから選ばれたもの。4音だと足りず、6音だとメロディになってしまうというので、スピルバーグがあくまでこだわったという5音の信号ですが、時代や場所を超越した宇宙的響きは、彼が言う通り正に「これしかない」という音階。又、クライマックスで聴かれるエモーショナルでスケール雄大な音楽は、ウィリアムズの最高傑作の一つだと思います。

 特殊効果は、『2001年宇宙の旅』で手腕を発揮したダグラス・トランブルが担当。同作にも参加したベテランのマット・ペインティング(背景画)・アーティスト、マシュー・ユリシッチも、格納庫のシーンで背景を描いています。さらに、後に『E.T.』でも組むカルロ・ランバルディが異星人をデザインしている他、マザーシップの撮影を後のスピルバーグ作品で大活躍するデニス・ミューレンが担当するなど、業界最高のアーティストが集結。

* キャスト

 主演は、『ジョーズ』に続いてリチャード・ドレイファス。出演の経緯については前作同様いろいろとあったようですが、結果としては成功だったと思います。ロイの妻を演じるテリー・ガーは、『トッツィー』などにも出ている女優さん。当時はCMに引っ張りだこで、スピルバーグもCMの、典型的な中流家庭主婦のイメージを買って起用したとの事。バリー少年の母親役は撮影2日前にギリギリでメリンダ・ディロンに決定。何と、ハル・アシュビー監督が『ウディ・ガスリー/わが心のふるさと』の編集済フィルムを送ってきて、彼女を推薦する電話を掛けてきたのがきっかけだそうです。スピルバーグ関係では他に、アンブリン製作の『ハリーとヘンダスン一家』『3人のエンジェル』に出演。

 本作には、映画監督が二人も出演しているのが面白い所。一人は役者でもあるボブ・バラバンで、後にはスピルバーグ製作の『世にも不思議なアメージング・ストーリー』にも監督として参加していますが、もう一人、ヌーヴェルバーグの旗手として名高いフランソワ・トリュフォー監督は、自作以外に出演したのは大変珍しいと思います。本人がフランス訛りを心配していたというくらいで、演技そのものがどうというのではなく、存在感が大事という感じでしょうか。スタッフ、キャストは口を揃えて、彼の子供のような純真さや暖かい人柄に魅了されたと語っています。

* アカデミー賞

 ◎受賞/撮影賞、特別業績賞(ベン・バート、音響効果に対して)

 ◎ノミネート/監督賞、助演女優賞(メリンダ・ディロン)

        作曲賞、美術監督・装置賞、視覚効果賞、音響賞、編集賞

 

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