本作は、スピルバーグとしては初めてユニヴァーサルを離れた映画です。プロデューサーのフィリップス夫妻は、『スティング』の大成功で売れっ子となっていましたが、本作クランク・インの6週間後に離婚。事実上ジュリアが唯一の女性ライン・プロデューサーとして仕事に当たりました。しかし彼女は、製作後期に至って深刻な薬物依存に陥り、主要な撮影が終了した時点でクビを言い渡されたり、トリュフォーをはじめ出演者やスタッフとの不和も囁かれるなど、何かと話題を提供した人物でもあります。 脚本は当初、フィリップス夫妻と組んで成功した『タクシー・ドライバー』のポール・シュレーダーが執筆。この第1稿は『御国をきたらせたまえ』というタイトルで、異常なほど宗教色の強い内容だったと言います。スピルバーグ曰く、「プロから届いた脚本の中で、最も当惑させられる作品の一つだ。UFOの話とは全然違い、教会と国家について描いている。ひどく罪にさいなまれた話で、恐ろしい。本当に恐ろしかった」。 結局、脚本にはスピルバーグ自身が一人でクレジットされますが、知り合いの脚本家は誰もが協力を求められ、後に『オールウェイズ』の脚本を担当するコメディ作家ジェリー・ベルソンも、5日間かけてユーモアと人間味を追加。『続・激突!』のマシュー・ロビンズとハル・バーウッドも、バリー少年がさらわれる場面に4日間手を貸し、二人揃って帰還者の役で出演もしています。 さらに、撮影にも総勢11名と言われるシネマトグラファーが関わり、本編撮影に『続・激突!』のヴィルモス・ジグモンドが起用された他、後に『インディ・ジョーンズ』シリーズで組むダグラス・スローカムがインドの場面を担当。追加撮影には名手ラズロ・コヴァックス、ジョン・A・アロンゾが参加し、バリー少年がさらわれるシーンの撮り直しやオハイオの料金所の場面、マザー・シップ内部の映像を撮影。次作『1941』のウィリアム・A・フレイカーも、砂漠で戦闘機が発見される場面や、巨大な地球儀を転がす場面を撮影。 又、クレジットに名前はないですが、『アンブリン』以来となる起用で、後のスピルバーグ作品を多く手掛けるアレン・ダヴィオーも、新しい素材を撮影しているそうです。さらに、キャメラ・オペレーターのニック・マクリーンは、撮影監督として『グーニーズ』でスピルバーグと関わっていますし、セカンド・ユニットの撮影監督スティーヴ・ポスターも、後年リドリー・スコットやパトリス・ルコントの作品で才能を発揮しています。 プロダクション・デザインは前2作に続いてジョー・アルヴェスが担当。クライマックスは、彼が見つけてきたアラバマの巨大格納庫でスモークを炊いて撮影されています。第二次世界大戦中に飛行船の格納庫として使われていた建物で、広大で梁のない屋内セットという条件に見事合致。さらに、ワイオミング州の巨大な岩山、デビルズタワーの奇抜な外観は、物語上も映像的にも重大な役割を果たしています。 編集は、前2作同様ヴァーナ・フィールズが担当する予定でしたが、これはスピルバーグのせいで実現しませんでした。一つには、『ジョーズ』は彼女の編集で救われたという噂が社内にあり、音楽のジョン・ウィリアムズと彼女だけがオスカーを受賞し、監督が無視された事にスピルバーグは立腹したと言われています。しかし、フィールズに絶大な信頼を寄せたユニヴァーサルは、本作に共同プロデューサーとして参加させた上、彼女が気に入った脚本があればいずれ監督デビューもさせるつもりだったとの事。 要するに、スピルバーグは子供っぽい嫉妬心から彼女を追い出した訳ですが、その後、30人もの編集マンと面接をして出会ったマイケル・カーンは、本作以降の全作品で組むほど信頼のおける理解者となるのですから、運命というのも侮れないものですね。スピルバーグはファイナル・カット版の特典映像で、この映画のラスト25分ほど大変だった編集はないと語っていますが、カーンは膨大な量のフィルムから、特殊効果の数々を加えた見事な完成版を仕上げてみせました。 音楽は、前作に続いてジョン・ウィリアムズが担当、この後ほとんどのスピルバーグ作品で共作が続いてゆく事になります。異星人との交信に使われる特徴的な5音階は、100通りの組み合わせから選ばれたもの。4音だと足りず、6音だとメロディになってしまうというので、スピルバーグがあくまでこだわったという5音の信号ですが、時代や場所を超越した宇宙的響きは、彼が言う通り正に「これしかない」という音階。又、クライマックスで聴かれるエモーショナルでスケール雄大な音楽は、ウィリアムズの最高傑作の一つだと思います。 特殊効果は、『2001年宇宙の旅』で手腕を発揮したダグラス・トランブルが担当。同作にも参加したベテランのマット・ペインティング(背景画)・アーティスト、マシュー・ユリシッチも、格納庫のシーンで背景を描いています。さらに、後に『E.T.』でも組むカルロ・ランバルディが異星人をデザインしている他、マザーシップの撮影を後のスピルバーグ作品で大活躍するデニス・ミューレンが担当するなど、業界最高のアーティストが集結。 |