これまでのキャリアでも充分に奇跡の成功者であったスピルバーグが、さらにメガヒットを生み出した伝説的作品。劇中の象徴的なショット、月を背景に宙を飛ぶ自転車の映像(本物の月で撮影されています)は、後にアンブリン・エンターティメントのロゴに使用されました。世界中で愛された映画で、今でもスピルバーグ作品のベストに挙げる人は少なくありません。勿論、素晴らしい作品ではありますし、好きな場面もたくさんあるのですが、熱狂的にベストワンに推す人が多い現実に、個人的には長らく「それほどでは…」という気持ちもありました。すみません。 しかしスピルバーグの非凡なセンスは映画のそこここに横溢しており、その才能には驚かされます。まずは冒頭、夜闇の中でE.T.を追う人間達を、シルエットと懐中電灯の光だけで表現したポエジーと幻想味はいかがでしょう。当初の演出プランでは、大人の俳優は最後まで腰から下しか映さないつもりだったそうですが、ここはその名残りが見られるシーンだといえますね。ちなみに出来上がった映画でも、大人のクローズアップ・ショットは母親メアリーを除けば後半登場するキーズが最初です。母親は離婚の痛手で子供返りしているという設定で、手持ち無沙汰にロウソクの火を消そうとする子供っぽくもアンニュイな佇まいなど、印象的なショットも多々あり。 その後にも又、詩情豊かな美しい場面があります。エリオット少年が理科の授業中に解剖用のカエルを逃がして大騒ぎになる一連のシークエンスですが、ここは極力セリフを排して音楽をフィーチャーし、サイレント映画風の味わいを醸しています。窓から子供達の腕が一斉に突き出されるショット、エリオット少年が少女にキスをするショット、連れ出されて遠ざかるエリオット少年を少女の足元越しに撮影したショットなど、想像力豊かなロマンティックな映像によるモンタージュは、全編中の白眉と言えるでしょう。 そして、素晴らしいエンディング。人物の顔を仰角でクローズアップにするだけでこれほどの感動を盛り上げる事が出来るなんて、凄い事だと思います。オペラティックなまでに荘厳なこのラストは、スピルバーグの仰角クローズアップの集大成だと言えますが、ヤヌス・カミンスキーを撮影監督に固定した90年代以降は、この手法も影を潜めてゆきます。ちなみにこのスタイル、J.J.エイブラムズ監督の『SUPER8』で大々的にオマージュが捧げられ、映画ファンを感涙させました。 勿論、幻想的なムードに溢れたハロウィンの場面や、有名なフライング・シーンなど、傑出した場面は他にも枚挙に暇がありません。母子家庭の背景を垣間見せる前半の食卓の場面なども、忘れ難い印象を残すドラマティックなひと幕です。ただ、ストーリー自体が実にシンプルかつ直線的なものなので、あまりに熱烈に支持されると、「スピルバーグなら他にも斬新な映画がたくさんあるけどなあ」と思ってしまうという事でしょうか。 本作は『未知との遭遇』から派生したアイデアを元にした作品で、この二作の間には幾つかの共通点があります。まず、宇宙空間ではなく地球上を舞台にしたSFである事、人類に対して友好的な地球外生命体を描いている事、そして、難解な学術用語をタイトルにしている事(E.T.とは地球外生物を意味するTheExtra-Terrestrialの略称)。逆光を多用した立体的な光の使い方や色彩感覚にも似た雰囲気があり、音楽と映像の一大スペクタクルたる大団円を展開する点でも、この二作は姉妹編と言えるでしょう。 本作はカンヌ映画祭に出品され、当地では異例ともいえる熱烈なスタンディング・オベーションを受けた事で、スピルバーグとケネディ、マーシャルを驚かせました。しかし興行的な大成功やカンヌでの歓迎について、スピルバーグは「ユニヴァーサルが製作費を回収できたらそれで成功だと思っていた。私はこの作品を作りたかっただけだ。それで満足だった。だから他の事は全て、嬉しいおまけだったんだ」と語っています。 2002年の20周年再公開時には、新しいヴァージョンが登場。ここでは大人達が手にしている銃がCGでトランシーバーに変わり(この映画に銃を出した事を、スピルバーグはずっと悔やんでいたそうです)、E.T.の動き(特に口の動き)も修正、自転車のフライング・シーンや宇宙船着陸の場面など幾つかの特殊効果に最新技術を加えた他、82年公開時ではカットされた、E.T.がバスタブに浸かる場面とハロウィンの暴動場面が復活しました。 |