ジョージ・ルーカスとスピルバーグが組んで大ヒットした『レイダース』の続編。当初から三部作として企画されていたようですが、内容に関しては個別に立案されており、脚本の成立過程は他のスピルバーグ作品の例の漏れず、紆余曲折を辿っています。時代設定は『レイダース』から遡る事1年前、舞台も上海、インドと、前作とのカラーの違いを明確に打ち出し、雰囲気を一変させた印象。 スピルバーグ人気絶頂期に鳴り物入りで公開された事もあって、集中砲火を浴びた感のある作品です。最初の攻撃は冒頭のミュージカル・シーンに向けられており、スピルバーグを擁護していた蓮實重彦でさえ「ケイト・キャプショーの歌唱力を除外して考えても、演出的にひどすぎる。なっていない」と批判。私個人の考えでは、意表を衝いたアイデアで面白いと思うのですが。歌われているコール・ポーター作曲の“Anything Goes”も、インパクトのあるナンバーです。それに続くインディと悪漢達のやり取りと、その先のアクションも展開として秀逸で、最後までこの調子で作って欲しかったくらい。 舞台はこの後インドへと移り、村から奪われた石をインディが取り戻すはめになるという、考古学博士のアドヴェンチャーたる当シリーズとしては、2作目にして早くも番外編のような展開となり、現実味の追求を放棄して、ひたすら破天荒な活劇へ変貌します。演出は生き生きとしてスリル満点、楽しいシーンも続出ですが、映画として真剣に評価されないのは、致し方のない所ですね(アメリカの評論家は特に真面目一辺倒の堅物が多いようですから。評を読んでいても、「この人、本気で書いてるのかな?」と首を傾げる事がしばしばあります)。 時に、地下の坑道におけるトロッコのチェイス・シーンで、途中でレールが途切れて宙を舞ったトロッコが、その先のレールに奇跡の着地をするひと幕があります。当時の映画館ではここでいつも歓声と拍手が起きたものですが、今はもう、映画に対してここまでヴィヴィッドなリアクションを示す観客はいなくなりました。そういう楽しみ方をされた映画としては、恐らく最後の部類に入る、稀少な映画と言えるかもしれません。 やれ内容が暗い、残酷だと激しく批判された本作ですが、実際の所、落ち着いた英国風の色調だった前作と較べて遥かに派手なアジア的原色を多用しており、暗いというのは私にはピンときません(地下の場面の印象が強いためだろうと思います)。ナチスや旧約聖書の亡霊が影を落とした前作と比べても、能天気なほど漫画的で無邪気なお話だと思うのですが、米国の文化人はそうは感じないようです。虫の大群やグロテスクな食事場面なども、まあB級センスというか、やんちゃで悪趣味なイタズラの範疇に過ぎず、特段深刻に解釈すべきものでもありません。 ただ残虐な場面が多いのは確かで、儀式の場面をはじめ、かなり直接的で苛烈な描写があります(1作目、3作目にもあります)。子供達を強制労働させている設定が問題になりましたが、私はむしろ映画に、それもこういう空想的なほら話の映画に対し、正しい道徳観念を求める評論家達の認識自体が問題だと思います。芸術作品は道徳教育の教材ではないし、モラルや残酷さの可否ではなく、その描写が独創的かどうかを評価すべきです。スピルバーグもスピルバーグで、「残酷な場面は全てルーカスのテイスト。自分は雇われ監督で、個人的な感情はひとつも入っていない」という実に下らない言い訳をしており、表現者たる者、もっと毅然とした態度をとって欲しかったですね。 本作の問題は、グロテスクな場面が多い事よりも、それが過剰なサービス精神に基づく悪ノリになってしまって、作品に有機的に組み込まれていない事ではないかと思います。それから、考古学的謎解きの面白さがストーリーにほとんど盛り込まれない分、ジェットコースター・ムービー的な仕掛けを大盤振舞いして、全体を幼稚化させてしまった事。そして、舞台がインドの地下迷宮からずっと出ないため、様々な大陸を移動してゆく事による国際的スケール感やワクワク感が味わえない事。 それでも、スピルバーグの技が冴え渡る痛快なエンタメ活劇で、今の目で観てはともかく、当時の観客を熱狂させた事は確かです。私もハマりましたし、もし『レイダース』や本作に出会っていなかったら、今ほど映画が好きになっていなかったかもしれません。演出技法の見本市として、なかなか高度に昇華された見事な作品だと言えるでしょう。キャメラ・ワークや編集のリズム、画面構成など、いわゆる“スピルバーグらしさ”が頂点に達した感があります。スタッフ・ワークも優秀で、創造力に富んでいます。実際、本作以降のスピルバーグは別の作風を模索しはじめており、迷走も目立つようになります。 ストーリーに関しては前作のスピンオフと考えればいいのかもしれませんが、シリーズ2作目にしてスピンオフというのもいかがなものかと…。ルーカス特有の、強引な製作の進め方がマイナス要因になったのではないでしょうか。原案/脚本は映画の命であり、少なくとも、内容に乏しい脚本を演出テクニックと派手な視覚効果で補うような事は、あってはなりませんね。又、エキサイティングな映画ですが、観ていて疲れるのも事実。 |