オールウェイズ

Always

1990年、アメリカ (122分)

         

 監督:スティーヴン・スピルバーグ

 製作:スティーヴン・スピルバーグ

    キャスリン・ケネディ、フランク・マーシャル

 共同製作:リチャード・ヴェイン

 脚本:ジェリー・ベルソン

 (オリジナル:ダルトン・トランボ脚本

  フレデリック・ハズリット・ブレナン脚色、

  チャンドラー・スプラーグ、デヴィッド・ボーム原案)

 撮影監督 : ミカエル・サロモン.

 プロダクション・デザイナー:ジェームズ・D・ビッセル

 衣装デザイナー:エレン・ミロジェニック

 編集:マイケル・カーン

 音楽:ジョン・ウィリアムズ

 第1助監督:パット・キーオ

 第2助監督:ブルース・コーエン

 プロダクション・コーディネーター助手:ロバート・スティーヴンス

 プロダクション・コントローラー:ボーン・ラドフォード

 ILM撮影監督:ヒロ・ナリタ

 セカンド・ユニット追加撮影:ジョン・トール

 航空シーン・デザイン:ジョー・ジョンストン

 音響デザイン: ベン・バート

 編集助手:コリン・ウィルソン

 アンブリン・ポスト・プロダクション総指揮:マーティン・コーエン

 出演:リチャード・ドレイファス  ホリー・ハンター

    ジョン・グッドマン  オードリー・ヘップバーン

    ブラッド・ジョンソン  ロバーツ・ブロッサム

    キース・デイヴィッド  マーグ・ヘルゲンバーガー

* ストーリー  *ネタバレ注意!

 森林火災の消火パイロット、ピート。彼の恋人ドリンダは、常に危険と隣り合わせのピートの職業を快く思っていなかった。ドリンダの説得に折れ、飛行士養成学校への転勤を受け入れたピートだが、そんな矢先、事故であっけなく命を落としてしまう。しかし彼は天使ハップと出会い、ゴーストとしてまだこの世でやらなければならない仕事がある事を告げられる。

* コメント   *ネタバレ注意!

 スピルバーグ初のリメイク物で、恐らく彼が初めて恋愛感情に真正面から向かい合ったラヴ・ストーリーです。オリジナルは日本未公開の“The Guy Named Joe”で、監督はヴィクター・フレミング、脚本は『ジョニーは戦争へ行った』を65歳で初監督したダルトン・トランボ。内外問わず本作の世評は芳しくなく、特に欧米ではセンチメンタルな作品という批判が多いようですが、私はむしろ抑制の効いた美しい作品だと思いますし、スピルバーグ=即センチメンタルという論調はいかにも紋切型で鼻白みます。

 抑制が効いているというのは、特に主演のドレイファスで、ウェットになりがちな作品に多く出演している割に、この人が主演を務めると、むしろドライなタッチになってしまう傾向があります。それだけ知的な演技をしているという事かもしれませんが、本作でも、どうしても観客としては大きな感動を求めたくなる後半より、前半のドラマに彼の資質がより発揮されている印象です。ドレスをめぐるピートとドリンダのやり取りなど、役者と演出家のアイデアがたっぷり詰め込まれていて素晴らしい。

 映像だけで感情や現象を説明してしまうスピルバーグお得意の手法(なぜかこれが幼稚だと非難されますが、セリフで説明するより何倍も高等な技術です)も随所に盛り込まれています。例えば、ピートの着陸を見守るドリンダが握っていたスプーンがぐんにゃりと曲がっている(彼女の緊張の度合いをひと目で説明しています)とか、彼女が歩いてゆくと、寝そべっていた二人のエンジニアが跳ね橋のように足を上げて道を開ける(彼女が基地でどう扱われているか分かります)とか、ピートが電話で呼び出された時、窓の外に朝日なのか山火事なのか判然としない赤い線が走り、ドリンダの顔を染める(明らかに何かの予兆)とか。

 又、ドリンダがドレスを着て、階段を降りてくるシーンは、スピルバーグ特有の音楽的なリズムがよく出ている所です。彼女が純白のドレスで登場したのを見て、粗野な男達が水を打った様に静まり返る。キャメラは、隙間のある階段の裏側から、唖然とした表情の男達を撮っている。段の上から彼女の足が降りてくると、男達が気圧された様にじりじり後退するという場面。

 同様に、ドリンダと踊るために皆が競って手を洗うユーモラスな場面や、のどかな釣りの光景を打ち破るオープニングも、いかにもスピルバーグというシーンです。夜の森に青い照明で浮かぶ飛行機は宇宙船のようで、ここもスピルバーグのファンなら、過去のSF作品を想起する箇所でしょうか。山火事や飛行場面のスペクタクルも、アクションが得意な彼の本領発揮といった所。

 ドラマとしてはシンプルな恋愛物語で、そこにファンタジーの要素を足していて、それも目新しいアイデアではないのですが、一応『ゴースト/ニューヨークの幻』より以前に作られた映画ではあります。コミュニケーションの断絶はスピルバーグ作品によく出てくるテーマで、「愛してる」という言葉を言えないピートが、意を決して言おうとすると飛行機のプロペラ音にかき消されて伝わらず、結局ゴーストになってしまって、自分の気持ちを伝える方法を断たれてしまいます。彼が、死者の言葉を受信できる浮浪者を通じてテッドに意思を与えようとするものの、逆の意味に伝わってしまう場面も然り。

 今の目で観ると、そういう所もスピルバーグ映画らしいと感じられる点ですね。「俺ほど楽しい男はいない」というピートに、「愛してはいるけど、決して楽しんでなんかいない」というドリンダの切実な訴えは、胸に迫るものがあります。又、これも批判が集中したドリンダの新恋人テッドですが、ハンサムだけど不器用な男として描かれているし、心臓発作を起こしたスクールバスの運転手を助ける場面など、ドリンダが彼を受け入れてゆくきっかけもちゃんと描かれていて、それほど悪くはないんじゃないかと思います。

* スタッフ

 製作はスピルバーグ自身とケネディ&マーシャルのコンビですが、助監督にパット・キーオ、ブルース・コーエンと後のスピルバーグ関係作に製作者として参加する人材が付いています。編集助手のコリン・ウィルソンもそう。又、飛行シーンのデザインを、『ロケッティア』『ジュラシック・パーク3』のジョー・ジョンストン監督が手掛けているのも注目したい所。「飛ぶ」場面に定評のある彼がかつてこんな仕事をしていたとは、なかなか面白いものです。

 脚本は当初、ダイアン・トーマスが執筆していました。彼女は、ウェイトレスをしながら書いた、ロバート・ゼメキス監督の『ロマンシング・ストーン/秘宝の谷』で注目された才人ですが、最初に貰った小切手で買ったスポーツ・カーの事故で急死。彼女が脚本を完成させていたら、全然違う映画になっていたかもしれませんね。その後、又もやトム・ストッパードが匿名でリライトに参加しています。最終的にクレジットされたのは、テレビ界で活躍して二度のエミー賞を受賞したジェリー・ベルソン。彼は、舞台を第二次大戦時から現代に移し、主人公を消防士に変えました。

 撮影のミカエル・サロモンは、撮影監督としてはこれが唯一のスピルバーグとのコラボ。ジェイムズ・キャメロンの『アビス』を撮るためにデンマークから渡米してきた人で、本作や『バックドラフト』の火災場面、フランク・マーシャルの監督デビュー作『アラクノフォビア』でのアマゾン空撮など、危険を伴う撮影によく関わる人ですが、色彩や構図の美しさはいかにも北欧のアーティストという感じ。彼は後に監督デビューもしており、テレビ映画の監督としてスピルバーグ関連作品にも関わっています。ちなみに、セカンド・ユニットの撮影を務めているのは、後にコッポラやキャメロン・クロウ、テレンス・マリック作品を手掛けて名を挙げる事になるジョン・トール。

 プロダクション・デザインは、『E.T.』『トワイライト・ゾーン』に続いてジェームズ・D・ビッセル。舞台となる飛行場、背景に美しい山々を擁するモンタナ州のロケ地を探し出した手腕はさすがです。ジョン・ウィリアムズの音楽は今回存在感が薄い代わり、プラターズのヒット曲《煙が目にしみる》が主題歌のように使われていますが、こういうポピュラー・ソングの使い方は、スピルバーグ映画には珍しいものです。劇中に登場するのは、画面にも出演しているJ・D・サウザーのヴァージョン。

* キャスト

 主演は『ジョーズ』『未知との遭遇』以来のスピルバーグ作品となる、リチャード・ドレイファス。彼がミス・キャストだというので、本作は随分攻撃されました。演技力云々より、ロマンティックな恋愛映画の主演にはふさわしくない、という訳です。相手役は当時スピルバーグとのロマンスも囁かれたホリー・ハンターで、私はとても良いと思うのですが、米国のライターの中には、この二人のやり取りが見ていられない、と書いている人もいます。

 二人の共通の友人役にジョン・グッドマンがキャスティングされていて、これも良い配役だと思います。コメディ色を強く出しすぎず、映画のトーンを壊していない所がいいです。主人公を導く天使役に、既に引退していたオードリー・ヘップバーンを起用した事は当時話題を呼びました。しかし、出演場面が少なく、演技として大きな見せ場がある訳ではないので、あまり期待しすぎず、ちょっとしたサプライズと捉えた方がいいかもしれません。結局、彼女はこの後も映画界に復帰しないまま、数年後に早すぎる死を迎えてしまいました。

 テッド役のブラッド・ジョンソンは元ロデオ・ライダーで、大根役者と批判されましたが、その後もスターとはなりませんでした。『未知との遭遇』『フック』『ゴースト・トレイン』にも起用されている、スピルバーグお気に入りの俳優ロバーツ・ブロッサムは、廃屋に住む浮浪者役で出演。パワーハウスという風変わりな名前の黒人クルーを演じているのは、現在に至るまで多才な俳優活動を続けるキース・デイヴィッドです。オープニングで釣りをしている二人の片方は、一時期のスピルバーグ映画には欠かせなかったスタントマンで、チョイ役の出演も多いテッド・グロスマン。

 『プライベート・ライアン』で俳優達の軍隊訓練を受け持った、元海兵隊のデイル・ダイ大尉も出演。彼はその得難い役職故か、他にもスピルバーグ製作のテレビ映画やオリヴァー・ストーン作品、ブライアン・デ・パルマの『カジュアリティーズ』、ポール・ヴァーホーベンの『スターシップ・トゥルーパーズ』など、戦争映画には欠かせない人材です(コメディやホラーにも多数出演していますけど)。

 

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