セイ・エニシング

Say Anything

1989年、アメリカ (101分)

         

 監督:キャメロン・クロウ

 製作総指揮:ジェームズ・L・ブルックス

 製作 : ポリー・プラット

 共同製作:ポール・ジャーマイン、リチャード・マークス

 脚本:キャメロン・クロウ

 撮影監督 : ラズロ・コヴァックス , A.S.C.

 プロダクション・デザイナー : マーク・マンスブリッジ

 衣装デザイナー:ジェーン・ルーム

 編集 : リチャード・マークス

 音楽:リチャード・ギブス、アン・ダドリー

 出演:ジョン・キューザック  アイオン・スカイ

     ジョン・マホニー  リリ・テイラー

     エリック・ストルツ  ジョーン・キューザック

     ロイス・チャイルズ  フィリップ・ベイカー・ホール

* ストーリー 

 特に取り柄がなく、キックボクサーを夢見ながら将来の計画もない若者ロイド。彼は周囲の反対を押し切り、ハイスクールきっての美人で、成績も学内トップの優等生ダイアンをデートに誘い、なんと成功する。父親と二人暮らしで、父子の結びつきが強い家庭に育ったダイアンは、楽天家で自然体のロイドに、徐々に心を惹かれ始める。

* コメント    

 全米マスコミから大賛辞を贈られたキャメロン・クロウ快心のデビュー作。ロスアンジェルス・タイムズは「青春映画から飛び出た驚くべき傑作」と評し、ニューヨーク・ポストは主演のジョン・キューザックの演技を「霊感さえ感じる」と絶賛しました。骨格としては、ごく普通の若者が“自分自身であり続ける事の勇気”だけを武器に、容姿・金銭・頭脳の全てに恵まれた“高嶺の花”のハートを射止めるという古典的なラヴ・ストーリーですが、クロウはこれを、ナイーヴかつモダンな感性によって個性的なヴァリエーションにアレンジし、自分の映画に仕立て上げる事に成功しました。

 ドラマは主人公ロイドと彼の憧れの女性ダイアン、その父親という、ほぼ三人の芝居だけで成立しています。ロイドの友人達にはリリ・テイラー演じるコリーなど魅力的なキャラクターも登場し、彼らが醸し出すユーモアはいかにもクロウ作品らしいものなのですが、まあドラマの軸は三人芝居です。そこが青春映画としては特殊な点で、ダイアンの父親が果たすドラマ的役割が突出していて、それが後半の急展開に繋がってゆく。このキャラクターが映画の展開に捻りを加え、若者二人の恋の行方にも影響を及ぼす事でラヴ・ストーリーに帰結させる辺り、見事な作劇術です。

 このダイアンという女の子が、ちやほやされている派手な存在でも学園のクイーンでもなくて、どちらかというと学内ではやや浮いている、ファザコン的な箱入り娘である所が要です。彼女が抱えているコンプレックスや孤立感、そして男性の価値観と言えば父親のそれしか知らないという弱みが、ロイドにとってはチャンスになる訳です。又、周囲の目を気にしないほどマイペースである点において、この二人には性格的に共通する部分もあります。

 この映画にキャメロン・クロウらしくない所があるとしたら、映像的に陰影が乏しい事でしょうか。名手ラズロ・コヴァックスが撮影を担当したのはいいけれど、ベテランの彼は「青春コメディ映画だから隅々まで明るいルックで」とセオリー通りに考えてしまったのかもしれません。後のクロウ作品の繊細な映像美を見るにつけ、本作のステレオタイプな青春映画的タッチは実に残念です。

 勿論、いかな才人クロウとはいえ、デビュー作から思い通りの映画を撮れた筈はないでしょうし、2作目の『シングルス』で開花する自由闊達な遊び心もここにはまだあまり見られませんが、ロイドと友人達とのコミカルなやり取りや気の効いたラストシーンには、その才能の片鱗が既に表れています。

* スタッフ

 製作総指揮を務めたジェームズ・L・ブルックスは、デビュー作『愛と追憶の日々』でアカデミー賞5部門を獲得し、『恋愛小説家』でもオスカー候補になった映画監督。又、ピーター・ボグダノヴィッチ監督の元妻で、優秀なプロダクション・デザイナーとしてギルド初の女性メンバーとなったポリー・プラットが、製作を担当しています(チョイ役で出演もあり)。

 撮影開始の4年前、クロウは共通の友人を介してブルックス監督と出会い、若い娘が父親と仲良く歩いていたのを見て着想を得たという話を元にまず90ページの小説を、さらに脚本に着手します。監督探しが始まった頃、ブルックスは「君を越えるような人材を探すか、そうでなければ君がやるべきだ」と進言。これがクロウの監督デビューに繋がりました。

 撮影監督は『イージー・ライダー』『マスク』などの名作に携わってきた、名手ラズロ・コヴァックス。同業者の間でも尊敬される才人ですが、自然派というか、特に映像美を作り込むタイプの人ではなく、キャメロン・クロウの作風にはマッチしない印象を受けます。ハリウッドでは、新人監督のデビュー作にベテランの撮影監督を付ける事が多いですから、これはまあ仕方ないですね。

 プロダクション・デザインは、前述のポリー・プラットの下で美術監督や助手として仕事をしてきたマーク・マンスブリッジ。編集は、フランシス・コッポラ作品で知られるリチャード・マークスで、共同製作者にもクレジットされています。又、第1助監督のジェリー・ジースマーはこの後のクロウ作品も手掛け、『あの頃ペニー・レインと』ではプロデューサーに名を連ねる他、いつもチョイ役で出演しています(本作では弁護士役)。

 音楽へのこだわりは既に全開で、アート・オブ・ノイズのメンバーでトレヴァー・ホーン一派のアン・ダドリーが音楽を担当。監督の奥さんで、追加スコアの作曲も手掛けているナンシー・ウィルソンが歌う“All For Love”の他、チープ・トリックの新曲“You Wan't It”やピーター・ガブリエルのグラミー賞アルバムから“In Your Eyes”を選曲したりと、クロウ組ダニー・ブラムソン監修の元、豪華なサントラを製作。劇中でロイドがラジカセを頭上に掲げ、ダイアンの家の前で音楽を鳴らす場面も有名になりました。

* キャスト

 主演のジョン・キューザックは当時、青春映画への出演が多かったですが、後にミニシアター系のドラマ作品からアクション満載の超大作まで演じる人気俳優に成長しました。本作では、当時の彼が得意としていたマイペースで楽天的な青年役を好演。お姉さんの役を、実の姉ジョーン・キューザックが演じているのも見どころです。

 相手役のアイオン・スカイは、フォーク歌手ドノバンの娘で、本作以外にはあまり名前を聞きませんが、プロフィールを見るとテレビドラマを中心に活躍しているようです。父親役のジョン・マホニーも、見た目は個性的ですが、どちらかというと地味な仕事を重ねてきた人。ジョン・セイルズ監督の『エイト・メン・アウト』で共演した際、キューザックに本作の脚本を読むよう薦めたのがマホニーだそうです。

 又、ロイドの友人コリー役で演技派リリ・テイラーが出演していて、ロイドとの関係を絶妙な距離感で表現している所は要注目。出演シーンはさほど多くないですが、次作『シングルス』のジェレミー・ピヴェン、ポール・トーマス・アンダーソン監督作品の常連フィリップ・ベイカー・ホール(IRSのボス役)が出ていたりするので見逃せません。『初体験/リッジモント・ハイ』にも出ていた、クロウ作品の常連エリック・ストルツも出演。

 

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