エリザベスタウン

Elizabethtown

2005年、アメリカ (123分)

         

 監督:キャメロン・クロウ

 製作総指揮:ドナルド・J・リー,Jr

 製作:キャメロン・クロウ、トム・クルーズ、ポーラ・ワグナー

 共同製作:アンディ・フィッシャー

 脚本:キャメロン・クロウ

 撮影監督 : ジョン・トール , A.S.C.

 プロダクション・デザイナー : クレイ・A・グリフィス 

 衣装デザイナー:ナンシー・スタイナー

 編集 : デヴィッド・モリッツ

 音楽:ナンシー・ウィルソン

 出演:オーランド・ブルーム  キルスティン・ダンスト

     スーザン・サランドン  アレック・ボールドウィン

     ブルース・マックギル  ジュディ・グリア

     ジェシカ・ビール

* ストーリー 

 シューズ会社に勤めるドリュー・ベイラーは、ヘリコプターで本社に呼び出される所だった。自ら責任者を請け負った新しいデザインのスポーツシューズが、10億ドル近い損失を出したのだ。会社をクビになり、1週間後には彼を批判する記事が雑誌に載るという状況で、彼は絶望して自殺を図ろうとするが、直前に父の死を知らせる連絡が入る。実家のあるケンタッキー州ルイヴィル、エリザベスタウンに帰る飛行機で、彼はキャビン・アテンダントのクレアと知り合い、親交を深めてゆく。

* コメント    

 前作『バニラ・スカイ』から4年のブランクを経て、再びオリジナル脚本で自分らしい等身大の世界に戻ったクロウ作品。ファンタジー物や歴史物の出演が多かったオーランド・ブルームが、珍しく現代の若者を演じた事も話題を呼びました。あまりヒットはしなかったようで、賞レースとも無縁でしたが、私はキャメロン・クロウ作品として極めて純度の高い傑作だと思います。

 本作は『ザ・エージェント』の姉妹編みたいな雰囲気があり、主人公が会社でのっぴきならない立場に追い込まれ、野心的な恋人からも見放される所も共通しています。しかし本作ではビジネスの話は導入部に過ぎず、その後の彼が“社会的に”どう立ち直ったかは、最後まで描かれません。この映画がクロウらしいと思うのは、あくまでも本筋が、キュートなボーイ・ミーツ・ガールのストーリーになっている所です。

 主人公の父親が亡くなり、故郷の街に戻るという本来の目的はちゃんと設定されていますが、主軸はやはりCAのクレアと主人公ドリューの出会い、そして彼らの関係の進展です。クロウの脚本がいつも素晴らしいと思うのは、こういう二人を、シチュエーションを作るための駒や借り物のキャラクターとしてではなく、この映画の中だけに存在する、独立した人間としてその性格を細やかに活写し、その人間同士の心の交流としてのラヴ・ストーリーに集約している所です。

 例えば、こんなシーンがあります。機内で初対面の会話があった後、クレアは預かったドリューのスーツをハンガーに掛けようとして、それが喪服である事に気付きます。数日後の電話で、ドリューが父の葬式で帰省している事をクレアは「知ってるわ」と答えますが、ドリューはその理由が分からず「でも僕、謎めいてただろ?」とお茶目に言い張りますが、クレアは機転の利いた返答でドリューを煙に巻きます「人って、自分が思うほど謎めいていないものよ」。

 要するに人間関係の機微というのでしょうか、「相手のここが好き」「この部分にキュンと来た」という、登場人物にとっても観客にとっても得心のゆく動機、平たく言えば、その人物のチャームポイントや美点が、スクリーンにはっきりと描き出されているという事です。本作のように、ついつい長電話してしまうほど気が合う、なんていうのもそうです。こういう事は、映画では滅多に描かれないし、うまく描くには特殊な才能を必要とします。大抵の映画では、主人公は特にそれらしき理由を示さぬまま何となく恋に落ち、気がつけばキスをしていますよね。実際の恋愛なら端から見ればそんなものかもしれませんが、ドラマとしては、それじゃいかにも安易です。

 ボーイ・ミーツ・ガールといえば、クロウが敬愛する名匠ビリー・ワイルダー監督(インタビュー本も出しています)は、その道の達人として有名な監督/脚本家でありました。ジャンルこそ恋愛コメディ、サスペンス、人間ドラマと様々ですが、それらの映画でワイルダーが描いた男女の出会いのシークエンスは、どれも実にロマンティックで洒落た設定のものでした。クロウ監督はそこまで様式的ではないですが、男女の出会いにこだわり、その過程を丁寧に、細やかな情感を込めて描く事が多い点では、師匠譲りと言えるかもしれません。

 クロウ監督は、脚本家だけあって忘れ難い名シーンを作り出すのも巧いですが、本作にも、ドリューの母が葬式で挨拶する場面を始め、素晴らしいシーンがたくさんあります。クライマックスの“クレアの地図”もその一つ。このシーンはラストまで見事に繋がっていて、その作劇の妙に舌を巻きますし、同時にこの場面は、クレアという女の子の図抜けたユニークさと健気さ、ハートの暖かさをも表しています。映画の一場面として、本当に素敵なアイデアですね。

* スタッフ

 プロデューサーは、過去二作品で俳優としても組んだトム・クルーズと、彼のビジネス・パートナーであるポーラ・ワグナー、そしてクロウ自身という布陣。撮影のジョン・トールはこれが三作目のコラボで、光と影のコントラストを強く出した美しい映像。プロダクション・デザイナーのクレイ・グリフィスも常連組です。音楽もいつも通りナンシー・ウィルソンが作曲。

 編集のデヴィッド・モリッツは『ザ・エージェント』に共同編集者として参加していたエディターで、『ライフ・アクアティック』などウェス・アンダーソン監督とのコンビで知られている人。追加編集を担当したマーク・リヴォルシも、『バニラ・スカイ』や次作『幸せへのキセキ』にクレジットされている常連組です。本作はコラージュ的な編集も多く、弔辞のシーンなど過去のクロウ作品とはややタッチが異なる印象もあり。同じ場所で別々に起っている事をカットバックで繋ぐ、群像劇的な編集も目立ちます。

* キャスト

 キャストは豪華ですが、クロウ作品には初めて登場する人ばかりです。英国出身のオーランド・ブルームは、これが初めてのアメリカ人役で、しかも現代の若者の役。しかしここに見る、爽やかでナイーヴな彼の自然な佇まいはなかなか得難いもので、今まで歴史物やファンタジー物ばかり演じてきたのが、むしろ偏ったキャスティングだったのではないかという気さえするくらい、役柄にマッチングしています。

 キルステン・ダンストは、個性的なルックスの割には幅広い役柄を演じてきた女優さんですが、コミカルな芝居や、電話をしている時の様々な仕草など、自然体の演技がすこぶる巧く、意外にこういう日常的なドラマが合っている印象を受けます。

 脇役は豪華で、ドリューのボスをアレック・ボールドウィン、妹を『ヴィレッジ』のジュディ・グリア、現実主義的な恋人をジェシカ・ビール、親戚を『シンデレラマン』のブルース・マックギルと、なかなか映画ファン好みの凝った人選がなされていますが、何といっても母親を演じるスーザン・サランドンが素晴らしいです。最初の内は頼りない感じで出ておきながら、スピーチのシーンで劇中最大の見せ場の一つを作ってしまうのですから、さすがは大女優の貫禄。監督の母親アリス・クロウもいつも通り出演。

 

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