幸せへのキセキ

We Bought a Zoo

2011年、アメリカ (124分)

         

 監督:キャメロン・クロウ

 製作総指揮:イロナ・ハーツバーグ

 製作:ジュリー・ヨーン、キャメロン・クロウ、リック・ヨーン

 共同製作:ポール・ディーソン、アルドリック・ラウリ・ポーター

      マーク・R・ゴードン

 脚本:アライン・ブロッシュ・マッケンナ、キャメロン・クロウ

 (原作:ベンジャミン・ミー)

 撮影監督 : ロドリゴ・プリエト, A.S.C., A.M.C.

 プロダクション・デザイナー :クレイ・A・グリフィス  

 衣装デザイナー:デボラ・L・スコット

 編集 : マーク・リヴォルシ

 音楽:ヨンシー

 出演:マット・デイモン  スカーレット・ヨハンソン

     トーマス・ヘイデン・チャーチ  エル・ファニング

     パトリック・フュジット  ジョン・マイケル・ヒギンズ

     コリン・フォード  マギー・エリザベス・ジョーンズ

* ストーリー 

 半年前に最愛の伴侶を亡くしたばかりの新聞コラムニスト、ベンジャミン・ミー。反抗期の息子に手を焼き、仕事もうまくいかない彼は、妻との思い出が詰まった街を離れ、子供達のためにも郊外で新しい生活を始める事にする。しかし、理想的な物件を見つけたと思ったら、そこはなんと閉鎖中の動物園付きの家だった。動物園を運営しなくてはいけないという、困難な条件が義務付けられた家だったが、彼は周囲の反対を押し切って、この家を購入する。

* コメント   

 音楽ドキュメンタリー『パール・ジャム20』を除けば、前作『エリザベスタウン』から6年のブランクを経た新作。本作がそれまでのクロウ作品と趣が違うのは、リメイク作品だった『バニラ・スカイ』を別にすれば初の原作物(それも実話)であり、脚本も他人との共作になっている点と、独身男女の出会いを描いてきたクロウが、パートナーを失ったばかりの既婚男性(子持ち)を描いている点でしょうか。

 特に前者に関しては女性脚本家、それも特に女性の間で人気の高い脚本家を共同執筆者に選んだ事で、いつものクロウ作品とは違った視点が取り込まれているかもしれません。逆に言えば普通のアメリカ映画に近付いた感じで、キャメロン・クロウ作品としてはややドラマ性が強すぎるというか、紆余曲折の起伏に富みすぎている印象もなくはありません。

 特に、農務省の検査官フェリスのコミカルで嫌味なキャラクターは、いかにもハリウッド的な人物造形で好みを分つ所です。動物園のスタッフ達も、キャラクターが個性的に描き分けられすぎて、逆に映画っぽくなりすぎたかもしれません。スムーズな開園を妨げる数々のトラブルも、障害としては不自然に多く起りすぎる印象を受けます。クロウ監督のファンとしては、もう少しシンプルにストーリーをデッサンし、その分、人物の仕草や性格を描いてくれたら、と感じる人もいるでしょう。

 人が人との出会いによって再生してゆくという構図は、過去のクロウ作品と共通するものですが、愛する者を失うという究極の喪失は、これまでのクロウ作品では描かれませんでした。それでも殊更に悲劇的な色合いを強調せず、颯爽とした調子で、主人公一家の新生活への格闘を活写しているのは嬉しい所。詠嘆調の感情過多な演出は注意深く避けられていますが、それでもベンジャミンの心に巣食う深い悲しみと、新たな出会いから少しずつ得られる癒しは、十二分に伝わってきます。

 特に老齢で衰弱したベンガル虎を巡るエピソードは、彼が愛する者の死と向き合うきっかけとなり、息子ディランにとっても、父との確執や、父のせいで人生に否応なく持ち込まれたこの動物園との関わり方にも繋がる、重要なものです。また、ベンジャミンが妻の写真を直視できるようになる場面や子供達とのラストシーンは、クロウらしい映像と音楽の使い方と、さりげない中に真情の込められた演出が秀逸。

 長男がヘビのケージを開けたまま放置してしまう場面などは、それで皆との関係がこじれたり、対立したり、いわば大きなトラブルの端緒に使われがちなエピソードですが、そこはクロウ作品の事、次の朝のシーンではスタッフ総出でヘビを捕まえるユーモラスな状況になっていて、誰かが咎められたり、問責されたりといった面倒臭い展開は一切ありません。そのこと自体が問題なのではない、という独特の大らかな態度はクロウ作品特有の心地良さでもあります。

 音楽はナンシー・ウィルソンからヨンシーに代わりましたが、曲のムードや歌の選曲センスは相変わらずのキャメロン・クロウ印で、独特の浮遊感と中間色の柔らかなタッチは変わりません。唯一、雨の場面で流れるランディ・ニューマンの“”が醸し出すしみじみとした叙情には、以前のクロウ作品にはなかった大人っぽい味わいを感じました。

* スタッフ

 久しぶりの劇映画とあってか製作陣は一新されていますが、クロウ自身は相変わらずプロデューサーに名を連ねています。面白いのは共同製作者で、スピルバーグ一派のポール・ディーソンと、ロン・ハワード一派のアルドリック・ラウリ・ポーターが並んでクレジットされているのは、どういう経緯によるものか訊いてみたいような。

 脚本はクロウ自身に加え、アライン・ブロッシュ・マッケンナが共同で執筆。彼女は『プラダを来た悪魔』で高く評価され、その後も『幸せになるための27のドレス』『恋とニュースのつくり方』などで女性を中心に圧倒的支持を受ける人気脚本家です。

 撮影は、『21グラム』『バベル』などアレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ監督とのコンビで知られる、メキシコの撮影監督ロドリゴ・プリエト。クロウ作品特有の透明感は減退しましたが、やはり光の使い方が印象的で、独特の爽快な明るさに満ち溢れている所が新鮮です。編集のマーク・リヴォルシは、『ザ・エージェント』や『バニラ・スカイ』の追加編集を担当し、『あの頃ペニー・レインと』にもアシスタントとして編集に参加した常連組。

 プロダクション・デザインはクロウ作品常連のクレイ・グリフィス。ベテランのデザイナー、デボラ・L・スコットによる衣装も、女性キャストのファッションを中心にキュートで目を惹きます。音楽は上記の通りアイスランドのバンド、シガー・ロスのリード・ヴォーカリストであるヨンシーにバトン・タッチ。シガー・ロスの曲は『バニラ・スカイ』にも使用されていましたので、クロウ作品との相性は既に証明済み。本作のサントラでは、ヨンシーとクロウが共作した曲も収録されています。

* キャスト

 主演のマット・デイモンをはじめ、クロウ作品初登場の役者を中心にキャスティング。スマートなビジネスマンや若者が多かった過去のクロウ作品とは、かなり毛色の異なるデイモンですが、人生の岐路に差し掛かった中年の父親を、懐の深い表現で大らかに演じています。

 スカーレット・ヨハンソンもかなりのイメージ・チェンジというか、お色気を封印したような仕事一筋の動物園スタッフを演じていますが、ガッツに溢れたパワフルな芝居は彼女のファンにとっても見もの。又、『サイドウェイ』『スパイダーマン3』のトーマス・ヘイデン・チャーチも、ベンジャミンの心配性の兄を渋いキャラクターで好演。主人公の兄弟の描写に大きめのウェイトを置いてきたクロウ作品らしく、登場シーンが多いです。

 子役では『SUPER8』でヒロインを演じたエル・ファニングが、動物園スタッフである思春期の少女を演じています。プロフィールをみると、ベンジャミンの息子を演じるコリン・フォードの方が実は2歳年上ですが、二人並ぶと彼女の方がずっと大柄で、ちょっと年上のお姉さんに見える所がミソ。末娘を演じたマギー・エリザベス・ジョーンズちゃんは、おませ全開の表情豊かな演技が素晴らしいです。

 子役で注目された人といえば、『あの頃ペニー・レインと』で主演を務めたパトリック・フュジットが、寡黙な動物園スタッフの役で出演。あまり活躍を見ないと思っていたら、普通に大人になっていてびっくりです。フェリス検査官を演じたジョン・マイケル・ヒギンズは、クリストファー・ゲスト監督作品などで知られるコメディ・スターとの事。

 

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