1985年、ガス・ヴァン・サントの長編デビュー作として発表されながらも、当時からほとんど話題にされず、忘れられていた作品。2006年、監督の再編集のもと、HD復元によるニュー・プリントで公開されたのを機に、ソフト化もされてやっと陽の目を見ました。監督によれば、当時は男性同士の恋愛自体が全く理解されない時代で、その上モノクロ映画であったため、どの配給元も二の足を踏んだそうです。しかしサントは本作を『ドラッグストア・カウボーイ』『マイ・プライベート・アイダホ』と続く、ポートランド三部作の一作目と位置づけており、サント作品を語る上では重要な作品と言えます。 行き場のない若者達の、先の見えない毎日。サントはそれを、主人公の「一方通行で、どこにも行けない」恋愛感情で象徴的に増幅させていて、80年代の『ミーン・ストリート』みたいな雰囲気もあります。一方、主人公がゲイである事や、若者達の日常描写に、閉塞感こそあれ強い悲壮感があまりない点は、時代の変化でしょうか。 要するに、彼らは結構「楽しそう」にしている訳ですが、それだけに、ふとした調子に心の中にすきま風が吹き、何ともやりきれないメランコリックな虚無感が去来するのは、サント自身が肌で感じた事のある感情なのかもしれません。結局、最後まで何も良い事は起らず、観客を置き去りにしたように結ぶエンディングに、そういった感覚が顕在化していると言えます。 アマチュア同然の役者やエキストラを使い、監督とキャメラマン、音声のたった3人でゲリラ的に撮影された本作は、息を飲むほどに美しいモノクロ映像と、短いカットを蓄積させるモンタージュで、ある時代、ある街のリアルなムードをヴィヴィッドに伝えて見事です。即興的に撮影された場面もあるようですが、監督は500ページものストーリーボードを書いたと語っていますので、緻密に計算された、凝った映像も随所にみられるのは当然の事。 それらモノクロームの映像の数々は、時に雑誌などのグラフィック写真のようにも見えますし、時にクラシカルだったり、表現主義的であったりもします。全体のトーンとして共通しているのは、極端なロー・キーで撮影されている事で、画面の大半が真っ黒に塗りつぶされているカットも少なくありません。尚、エンド・クレジットの背景と、劇中で主人公が撮影している動画だけは、カラー映像となっています。 まともに公開もされなかったと監督が語る本作ですが、それでも1987年にはロスアンジェルス映画批評家協会賞の最優秀インディペンデント作品賞を受賞していますし、翌88年にはトリノでゲイ&レズビアン国際映画祭グランプリ、リバイバル時の2006年にもカンヌ国際映画祭の監督週間でオープニングを飾るなど、映画祭のような場では何かと評価されてきた作品だと言えます。そういう認知のされ方も又サントらしい感じがしますね。 |