ドラッグストア・カウボーイ

Drugstore Cowboy

1989年、アメリカ (100分)

 監督:ガス・ヴァン・サント

 製作総指揮:ケアリー・ブローカウ

       ローリー・パーカー、クラウディア・ルイス

 製作: ニック・ウェシュラー、カレン・マーフィー

 脚本:ガス・ヴァン・サント、ダン・ヨスト

 (原作:ジェームズ・フォーグル)

 撮影監督: ロバート・イェオマン

 プロダクション・デザイナー:デヴィッド・ブリスビン

 衣装デザイナー:ベアトリクス・アルナ・パスツォール

 音楽:エリオット・ゴールデンサル

 編集:カーティス・クレイトン、メアリー・バウアー

 セカンド・ユニット撮影:エリック・アラン・エドワーズ

 セット・ドレッサー:ミッシー・スチュワート

 特別協力:ジョン・キャンベル、レスリー・シャッツ

 出演:マット・ディロン  ケリー・リンチ

    ジェームズ・レマー  ヘザー・グラハム

    ベア・リチャーズ  ジェームズ・レグロス

    グレース・サブリスキー  アマンダ・プラマー

    マックス・パーリック  ウィリアム・S・バロウズ

* ストーリー 

 1971年、オレゴン州ポートランド。街のゴロツキで麻薬常用者ボブは、妻のダイアンともう一組のカップルを仲間として街中の薬局を荒し回っていた。ある日、ボブは大病院を襲いひとヤマ当てるが、仲間のミスや中毒死によって、幸運にも翳りが見えはじめる。

* コメント  

 サント二作目にして、一気に撮影クルーの規模が大きくなったという、メジャー作品。それもほぼ自主制作に近かった『マラノーチェ』と比較しての話で、一般的な感覚で言えば本作も低予算映画の雰囲気。ただし主役はかつて青春スターとして名を馳せたマット・ディロンだし、内容はともかく、一応は原作物です。ポートランド三部作の二作目という位置づけの本作はヒットし、しばらく低迷していたディロンのキャリアにとっても良い起爆剤となりました。

 映画は、主人公ボブのグループがドラッグストアを襲撃する様子を描いた、裏ハウ・トゥー物のような前半部と、ボブがそんな生活から足を洗おうとする後半部で構成されます。重度の麻薬中毒とはいえ、ボブのリーダーシップは的確で手際もよく、深夜に通りかかったドラッグストアの小窓が開いている所も見逃さない観察力の鋭さもあって、これほど優秀な能力の持ち主ならもっと他に良い仕事があるのではと思ってしまうのは、私だけじゃないでしょう。

 悲惨なエピソードもある作品ながら、どちらかというと明るいタッチで、ボブのナレーション曰く「どんな仕事でもこんなに気を使わない。ハイでいるのも大変だ」なんて笑いのセンスもあります。コメディとサスペンスの対比は絶妙で、深刻なシーンの後、仲間の死体と大量の麻薬を隠したモーテルの近くで、よりにもよって警察の大会が開かれるくだりは、ほとんどコントみたい。

 又、彼らを目の敵にして付け回すジェントリー警部達とのやり取りにも、一歩間違えばコメディになりそうな応酬がありますが、最後にはいつも「街で出ろ」「足を洗え」という警部の言葉には、単なる仕事上の責任を越えた、どこか擬似父子のような雰囲気も漂います。そのせいか、後半に登場するマーフィ神父の場合は、ボブへの態度に何の含みも道徳心もなく、孫に対して直接の責任がない疑似祖父といった印象。

 サント作品のトレードマークたる雲の早送り映像も挿入していますし、注射器や動物が宙を舞う麻薬のトリップ映像もユニークですが、編集は明快で、ストーリーを伝える事に徹している印象。映像面でも、さほど前衛的に尖ったセンスは見られません。脇役に至るまで俳優陣の演技がしっかりしているのも、安心して観られる一因と言えるでしょう。

 思えば、先に述べた主人公のスキルの高さは、彼が人生を見つめ直す契機への伏線と言えるのかもしれません。ヤク中の上に無能だったらなかなか泥沼から抜け出せないでしょうし、そこにこそ、なぜ警部がこれほどしつこく彼に付きまとうのか、その根底にある真情が見え隠れします。やっと足を洗って出直そうというボブに災難がふりかかる展開は皮肉ですが、それも最後のナレーションによって、どこか希望を感じさせる後味の良さに転じているようです。

* スタッフ

 製作総指揮の一人、ローリー・パーカーは本作でサント作品に関わり、続く『マイ・プライベート・アイダホ』『カウガール・ブルース』もプロデュース。脚本はサント自身が執筆していますが、共同執筆者のダニエル・ヨストは雑誌記者。薬物窃盗の罪で服役しながら書いたというジェームズ・フォーグルの自伝的小説を手にしたヨストは、文法こそめちゃくちゃながらも、その驚くべき内容に触発され、フォーグルと文通しながら作品を編集します。その完成品がヨストの友人であるサントに渡った事が、製作のきっかけになりました。

 撮影監督のロバート・イェオマンは、後にウェス・アンダーソン監督作品で斬新な映像センスを開花させる人ですが、ここでは自然な色彩感のシンプルな撮影を敢行しています。尚、セカンド・ユニットの撮影は、次作『マイ・プライベート・アイダホ』から撮影監督を担当しているエリック・アラン・エドワーズ。さらに特別協力として、同じく初期サント作品を撮影したジョン・キャンベルがクレジットされています。

 衣装のベアトリクス・アルナ・パスツォールは、初期サント作品を支え続けたハンガリー人のデザイナーですが、本作が初コラボ。又、後にサント作品のプロダクション・デザインを手掛けるミッシー・スチュワートが、セット・ドレッサーで参加しています。

 音楽のエリオット・ゴールンデンサルは、後に結婚したジュリー・テイモア監督の諸作品をはじめ、フル・オーケストラを使った実に個性的な作風で、業界にユニークな位置を占める作曲家ですが、ここでは低予算を逆手に取ってか、シンセサイザーと打楽器によるシンプルな音楽を展開しています。音響面では、こちらも特別協力として、『ジェリー』三部作等で音響デザインを担当するレスリー・シャッツの名前がクレジットされています。

* キャスト

 コッポラ作品等で80年代に青春映画のスターとして一世風靡したマット・ディロンは、一時期キャリアが低迷していましたが、本作のヒットで一線に復帰。その後も手堅い活躍を見せています。彼のキャラクターと存在感は、ボブ役に必要だったものとも言え、作品にとっても人を得た感じで良かったのではないでしょうか。ディロンは、後に『誘う女』でもサントと組んでいます。

 襲撃グループのメンバーも個性的で、妻ダイアン役に『カクテル』のケリー・リンチを配し、全く対照的なタイプの女性キャラとして、後に『ブギー・ナイツ』のローラーガールでブレイクするヘザー・グラハムを起用しています。常にクールな前者と、ベビーフェイスで小生意気な後者の芝居は好対照で、最初からグループの亀裂を招く不協和音を奏ではじめている所は確信犯的演出でしょう。グラハムは後に、『カウガール・ブルース』でもサントと組んでいます。

 そのグラハムのお相手役が、これも後に多数の出演作を誇る名バイプレーヤーとなってゆくジェームズ・レグロス。彼は後に、『サイコ』のカー・ディーラー役で再びサント作品に顔を見せています。又、主人公らを追うジェントリー警部で、インパクトの強い悪役をこなし続けるジェームズ・レマーが出演。ここでも、決して悪役ではないのに強い印象を残します。彼も後に『サイコ』のパトロール警官役で再登板。又、マーフィ神父役に、サントが師と仰ぐビート文学の作家ウィリアム・S・バロウズを配している点は、ユニークなキャスティングです。

 

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