サント二作目にして、一気に撮影クルーの規模が大きくなったという、メジャー作品。それもほぼ自主制作に近かった『マラノーチェ』と比較しての話で、一般的な感覚で言えば本作も低予算映画の雰囲気。ただし主役はかつて青春スターとして名を馳せたマット・ディロンだし、内容はともかく、一応は原作物です。ポートランド三部作の二作目という位置づけの本作はヒットし、しばらく低迷していたディロンのキャリアにとっても良い起爆剤となりました。 映画は、主人公ボブのグループがドラッグストアを襲撃する様子を描いた、裏ハウ・トゥー物のような前半部と、ボブがそんな生活から足を洗おうとする後半部で構成されます。重度の麻薬中毒とはいえ、ボブのリーダーシップは的確で手際もよく、深夜に通りかかったドラッグストアの小窓が開いている所も見逃さない観察力の鋭さもあって、これほど優秀な能力の持ち主ならもっと他に良い仕事があるのではと思ってしまうのは、私だけじゃないでしょう。 悲惨なエピソードもある作品ながら、どちらかというと明るいタッチで、ボブのナレーション曰く「どんな仕事でもこんなに気を使わない。ハイでいるのも大変だ」なんて笑いのセンスもあります。コメディとサスペンスの対比は絶妙で、深刻なシーンの後、仲間の死体と大量の麻薬を隠したモーテルの近くで、よりにもよって警察の大会が開かれるくだりは、ほとんどコントみたい。 又、彼らを目の敵にして付け回すジェントリー警部達とのやり取りにも、一歩間違えばコメディになりそうな応酬がありますが、最後にはいつも「街で出ろ」「足を洗え」という警部の言葉には、単なる仕事上の責任を越えた、どこか擬似父子のような雰囲気も漂います。そのせいか、後半に登場するマーフィ神父の場合は、ボブへの態度に何の含みも道徳心もなく、孫に対して直接の責任がない疑似祖父といった印象。 サント作品のトレードマークたる雲の早送り映像も挿入していますし、注射器や動物が宙を舞う麻薬のトリップ映像もユニークですが、編集は明快で、ストーリーを伝える事に徹している印象。映像面でも、さほど前衛的に尖ったセンスは見られません。脇役に至るまで俳優陣の演技がしっかりしているのも、安心して観られる一因と言えるでしょう。 思えば、先に述べた主人公のスキルの高さは、彼が人生を見つめ直す契機への伏線と言えるのかもしれません。ヤク中の上に無能だったらなかなか泥沼から抜け出せないでしょうし、そこにこそ、なぜ警部がこれほどしつこく彼に付きまとうのか、その根底にある真情が見え隠れします。やっと足を洗って出直そうというボブに災難がふりかかる展開は皮肉ですが、それも最後のナレーションによって、どこか希望を感じさせる後味の良さに転じているようです。 |