60年代カウンター・カルチャー初のヒッピー小説と言われる、トム・ロビンズのカルト的原作を映画化。サントはかつて、ロビンズがポートランドでサイン会を行った際にファンの一人として列に並び、いつかこの小説を映画化したいと本人に語った事があるそうです。映画化に際してサントは再びロビンズと会いますが、その時には作家の方が『ドラッグストア・カウボーイ』でサントのファンになっており、話がトントン拍子に進んだとの事。 通常、映画と原作は全くの別物と捉える製作手法が多い中、本作は、個性的な比喩の多い原作の文体とストーリーを忠実に映像化する事を目指し、原作者自身がナレーションを担当しているのも注目したい所(劇中、写真でも登場します)。サント作品らしい前衛性は後退し、明快でストレートな語り口が際立っている上、軽快なタッチでコメディ風の描写もあり、サントとしては特に明るいトーンの作品と言えそうです。前三作と違って、物語の舞台が監督の故郷ポートランドを離れている点でも、少し毛並みが異なります。 しかしそうはいっても作品のモティーフには、サントらしさが満載。同性愛、ドラッグ、マイノリティの葛藤、西洋的・キリスト教的価値観との対立、ポップ・カルチャー、コマーシャリズム、権利の主張と抗議、自分探しなどなど、サント作品ならではの世界観が構築されています。実験的な映像手法は使わないまでも、ハイ・スピードで雲や星が流れる、空の映像は健在。 やや突飛でファンタジー的に飛躍した物語は、飄々としながらも確信に満ちた演出と、リアリズムとデフォルメの間で絶妙のバランスを保つ豪華キャスト陣の確かな演技によって、見事に劇映画として結晶しています。ロード・ムービーかと思いきや、中盤から牧場に舞台を固定する脚本の構成も、控えめに用いられたナレーションの効果によって、うまくまとまった印象。 登場人物の死という、重くて悲劇的な展開はあるものの、あくまで軽やかに疾走して爽やかな後味を残す本作。敢えて平易な語り口を用いた事で、逆に劇映画監督としてサントの高いスキルを世に示した、最初の作品と言ってもいいでしょう。 |