カウガール・ブルース

Even Cowgirls Get The Blues

1994年、アメリカ (96分)

 監督:ガス・ヴァン・サント

 製作: ローリー・パーカー

 共同製作:メアリー・アン・マリノ

 脚本:ガス・ヴァン・サント

 (原作:トム・ロビンズ)

 撮影監督: ジョン・キャンベル、エリック・アラン・エドワーズ

 プロダクション・デザイナー:ミッシー・スチュワート

 衣装デザイナー:ベアトリクス・アルナ・パスツォール

 音楽:k.d.ラング、べン・ミンク

 編集:カーティス・クレイトン

 リ・レコーディング・ミキサー:レスリー・シャッツ

 出演:ユマ・サーマン  レイン・フェニックス

    ロレイン・ブラッコ  ジョン・ハート

    キアヌ・リーヴス  ノリユキ・パット・モリタ

    アンジー・ディキンソン  キャロル・ケイン

    クリスピン・グローヴァー  ショーン・ヤング

    バック・ヘンリー  ヘザー・グラハム

    ロザンナ・アーノルド  エド・ベグリー・ジュニア

    ウィリアム・S・バロウズ  ウド・キアー

    スコット・パトリック・グリーン

 ナレーション:トム・ロビンズ

* ストーリー 

 人一倍大きな親指を持って生まれたシシーは、史上最強のヒッチハイカーとなり、自由を求めてアメリカ全土を旅し続ける。やがて彼女は、自然と共存しているカウガール達や、チンクと呼ばれる洞窟暮らしの賢人と出会い、精神の自由と真実の愛に目覚めてゆく。

* コメント  

 60年代カウンター・カルチャー初のヒッピー小説と言われる、トム・ロビンズのカルト的原作を映画化。サントはかつて、ロビンズがポートランドでサイン会を行った際にファンの一人として列に並び、いつかこの小説を映画化したいと本人に語った事があるそうです。映画化に際してサントは再びロビンズと会いますが、その時には作家の方が『ドラッグストア・カウボーイ』でサントのファンになっており、話がトントン拍子に進んだとの事。

 通常、映画と原作は全くの別物と捉える製作手法が多い中、本作は、個性的な比喩の多い原作の文体とストーリーを忠実に映像化する事を目指し、原作者自身がナレーションを担当しているのも注目したい所(劇中、写真でも登場します)。サント作品らしい前衛性は後退し、明快でストレートな語り口が際立っている上、軽快なタッチでコメディ風の描写もあり、サントとしては特に明るいトーンの作品と言えそうです。前三作と違って、物語の舞台が監督の故郷ポートランドを離れている点でも、少し毛並みが異なります。

 しかしそうはいっても作品のモティーフには、サントらしさが満載。同性愛、ドラッグ、マイノリティの葛藤、西洋的・キリスト教的価値観との対立、ポップ・カルチャー、コマーシャリズム、権利の主張と抗議、自分探しなどなど、サント作品ならではの世界観が構築されています。実験的な映像手法は使わないまでも、ハイ・スピードで雲や星が流れる、空の映像は健在。

 やや突飛でファンタジー的に飛躍した物語は、飄々としながらも確信に満ちた演出と、リアリズムとデフォルメの間で絶妙のバランスを保つ豪華キャスト陣の確かな演技によって、見事に劇映画として結晶しています。ロード・ムービーかと思いきや、中盤から牧場に舞台を固定する脚本の構成も、控えめに用いられたナレーションの効果によって、うまくまとまった印象。

 登場人物の死という、重くて悲劇的な展開はあるものの、あくまで軽やかに疾走して爽やかな後味を残す本作。敢えて平易な語り口を用いた事で、逆に劇映画監督としてサントの高いスキルを世に示した、最初の作品と言ってもいいでしょう。

* スタッフ

 製作は『ドラッグストア・カウボーイ』『マイ・プライベート・アイダホ』に続いて、ローリー・パーカーが担当。脚本はやはりサント自身によるもので、撮影監督、編集、衣装デザイナーも過去作の担当者をそのまま継承しています。プロダクション・デザイナーには、セット・デコレイターなどでサント作品の美術に関わってきたミッシー・スチュワートが就き、以後数作に渡って彼女が起用される事になります。

 注目は音楽のk.d.ラング。美形なので少年とも少女とも、また大人とも子供ともとれる神秘的なルックスのシンガー・ソング・ライターで、グラミー賞の常連。レズビアンである事を公言し、テニス・プレイヤーのマルチナ・ナブラチロワと関係を結んで世間を騒がせるなど、いかにもサント好みのアーティストです。彼女のポップでユニークな楽曲は作品に独特のムードを付与し、その影響力は小さくありません。音響面では、リーレコのミキサーに、後のサント作品で音響デザインを担うレスリー・シャッツが初参加。

* キャスト

 主人公シシーを演じるユマ・サーマンは、長身のスタイルと個性的なルックスゆえか、親指のデフォルメもさほど違和感がなくキャラクターにぴったり。セリフはあまり多くないものの、強い存在感と繊細な演技で、「この役には彼女しかいない」という監督の期待に見事応えています。

 シシーと恋仲になるカウガールを演じるのは、本作がデビューとなるレイン・フェニックス。急逝したリバー・フェニックスの妹ですが、顔は同じく兄弟のホアキン・フェニックスそっくりで驚きます。スクリーンに登場するだけで強烈な存在感を放つ、引きの強さで共通している兄弟と言えるでしょう。

 他のカウガールでは、鞭の名手デロレスを『グッドフェローズ』の演技派ロレイン・ブラッコが演じている他、セリフはほとんどありませんが、『ドラッグストア・カウボーイ』のヘザー・グラハムの顔も見えます。牧場のマネージャーをベテラン女優アンジー・ディキンソン、ゲイのオーナーを『エイリアン』『エレファント・マン』名優ジョン・ハートがぶっとんだ芝居で演じているのも見どころ。

 脇役も豪華。日系の賢人チンクは『ベスト・キッド』シリーズのノリユキ・パット・モリタ、先住民の血を引く喘息持ちのアーティストをキアヌ・リーヴス、バース夫妻を『ブレードランナー』のショーン・ヤングと『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のクリスピン・グローヴァー、カウガール・カーラを、美人女優として出発しながらアニメ声ゆえ魔女や老婆の特殊メイク役も多いキャロル・ケインが担当。

 短い映画なのに出演者は多く、他では『卒業』『天国から来たチャンピオン』の名脚本家/俳優で、『誘う女』の脚本も執筆しているバック・ヘンリーがドレイファス医師役、ビート作家ウィリアム・S・バロウズが『ドラッグストア・カウボーイ』に続いて本人役、『マイ・プライベート・アイダホ』に続きウド・キアーがCM監督の役、サントの古い友人スコット・パトリック・グリーンは車に乗った旅人カップルで出演。

 

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