誘う女

To Die For

1995年、アメリカ (106分)

 監督:ガス・ヴァン・サント

 製作総指揮:ジョナサン・タプリン、ジョセフ・M・カラッチオーロ

 製作: ローラ・ジスキン

 共同製作:サンディ・アイザック、レスリー・モーガン

 脚本:バック・ヘンリー

 (原作:ジョイス・メイナード)

 撮影監督: エリック・アラン・エドワーズ

 プロダクション・デザイナー:ミッシー・スチュワート

 衣装デザイナー:ベアトリクス・アルナ・パスツォール

 音楽: ダニー・エルフマン

 編集:カーティス・クレイトン

 出演:ニコール・キッドマン   マット・ディロン

    ホアキン・フェニックス  アリソン・フォランド

    ケイシー・アフレック   ウェイン・ナイト

    イレアナ・ダグラス    ダン・ヘダヤ

    デヴィッド・クローネンバーグ  バック・ヘンリー

* ストーリー 

 ニューハンプシャーの地方ケーブル局でお天気キャスターの職を得たスザーン・マレットは、目的達成のためには手段を選ばぬ野心家。「テレビに映らなければ生きている意味がない」とまで言う彼女は、その美貌と並外れた行動力を駆使して知名度を上げてゆくが、地元のイタリアン・レストランで働く夫ラリーが将来の展望を話し始めた時、彼が自分のキャリアにとって致命的な障害となる事に気づく。彼女は、ドキュメンタリーとして取材していた高校生達の心を巧みに操って、夫の殺害計画を実行に移してゆく。

* コメント  

 1990年にニューハンプシャーで起きた殺人事件を元にした、それまでのサント作品とは毛色の異なる作品。全米にセンセーションを巻き起こした有名な事件で、一貫して無実を主張し続け、氷の女と呼ばれた高校の生活指導教師パメラ・スマート(当時22歳)が、生徒達をそそのかして夫を殺害させたというのが大筋。作家ジョイス・メイナードはこの事件からヒントを得て、主人公スザーンと彼女をめぐる二十四人の証言によって、彼女の人物像に迫る小説を執筆しました。

 私は原作を読んではいませんが、映画もテレビ・インタビューをコラージュしたような構成になっており、原作のアイデアがうまく取り入れているのではないかと思われます。インタビューの形式は人物がカメラに向かって語る独白調であったり、テレビ番組のトークショーっぽい感じだったり色々ですが、インタビュー映像が主で、その合間に短いドラマ部分が挿入されるというのは、実にユニークなスタイルだと言えるでしょう。

 加えて、全編を貫くブラック・ユーモアのセンスが抜群です。過去のサント作品にこういう毒気はあまり見られませんでしたが、そこは脚本を書いたバック・ヘンリーの仕業かどうか、対象を突き放したようなシニカルな笑いによって、いわゆる「実話を元にしたサスペンス」とは全く違った映画に仕上がっています。多様な素材をテンポ良く組み合わせてシーンを作ってゆく手腕は見事なもので、最初の十分間を観ただけでも、この映画の作り手達の才能がいかほどのものか、すぐにそれと判明するくらいです。

 勿論、サントらしい自由な発想や、仕掛けのある場面構成はあちこちに盛り込まれています。一つのセットの中で一瞬にして昼から夜へ変わるショットなどは、その一例。それにしても、マット・ディロンという俳優にどことなく付きまとうやや軽薄な雰囲気を、悪意を感じさせるほどデフォルメしたこの演出効果はどうでしょう。そのバカっぽさたるや、凄まじいものがありますが、逆に、超の付く野心家の美人キャスターがどうしてこの男と結婚したのか、説得力を欠いてしまったのは難点でしょうか。面白いのは面白いのですけれど。

* スタッフ

 毒気の強いインディペンデント風の映画ですが、プロデューサーは『プリティ・ウーマン』『スパイダーマン』などのヒットメーカー、ローラ・ジスキンです。脚本のバック・ヘンリーは、『卒業』『天国から来たチャンピオン』でアカデミー賞候補となった才人で、俳優としてもロバート・アルトマン作品の常連を務めた他、人気テレビ番組『サタデー・ナイト・クラブ』のホスト役として全米ではお馴染みの顔。サント作品では『カウガール・ブルース』に出ている他、本作でもチョイ役で見せ場に出演しています(原作者のメイナードも弁護士の役で出演)。

 製作陣が一新したのに対し、撮影監督、プロダクション・デザイナー、衣装デザイナー、編集は初期サント組のスタッフを継承。音楽のダニー・エルフマンはこの後サントとの仕事が続きますが、本作が初参加。浮遊感溢れるミステリアスなオーケストラの中に、極端にデフォルメされたスラッシュ・メタルをコラージュした珍妙な音楽は、過去のサント作品とは異なるポップなムード作りにひと役買っています。

* キャスト

 キャスティングは、ひとクセもふたクセもあるユニークなもの。ニコール・キッドマン、マット・ディロンという少し世代間ギャップのあるスターを組合わせて不協和音を演出しているのが見事で、その周囲に個性派バイプレイヤーのダン・ヘダヤ(ラリーの父)、『生きてこそ』『ケープ・フィアー』などいつ見ても独特の風貌が印象に残るイレアナ・ダグラス(ラリーの姉)、『ジュラシック・パーク』でだらしない警備主任を演じたウェイン・ナイト(ケーブルテレビ局長)、極めつけはカルト映画監督デヴィッド・クローネンバーグ(自分の映画そのままの刺客)。正に曲者揃いです。

 さらに、スザーンに骨抜きにされてしまう高校生ジェイムズを、ホアキン・フェニックスが演じています。彼はリヴァー・フェニックスの弟として子役の頃にロン・ハワード監督作『バックマン家の人々』で注目された事はありましたが、本格的に演技が評価されたのは本作が最初だったと記憶します。もう一人の学生ラッセルを演じているケイシー・アフレックも、兄のベン共々、後のサント作品に関わってゆく人物。本作で共演したホアキン・フェニックスは親友で、妹のサマー・フェニックスと結婚までしています。

 

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