1990年にニューハンプシャーで起きた殺人事件を元にした、それまでのサント作品とは毛色の異なる作品。全米にセンセーションを巻き起こした有名な事件で、一貫して無実を主張し続け、氷の女と呼ばれた高校の生活指導教師パメラ・スマート(当時22歳)が、生徒達をそそのかして夫を殺害させたというのが大筋。作家ジョイス・メイナードはこの事件からヒントを得て、主人公スザーンと彼女をめぐる二十四人の証言によって、彼女の人物像に迫る小説を執筆しました。 私は原作を読んではいませんが、映画もテレビ・インタビューをコラージュしたような構成になっており、原作のアイデアがうまく取り入れているのではないかと思われます。インタビューの形式は人物がカメラに向かって語る独白調であったり、テレビ番組のトークショーっぽい感じだったり色々ですが、インタビュー映像が主で、その合間に短いドラマ部分が挿入されるというのは、実にユニークなスタイルだと言えるでしょう。 加えて、全編を貫くブラック・ユーモアのセンスが抜群です。過去のサント作品にこういう毒気はあまり見られませんでしたが、そこは脚本を書いたバック・ヘンリーの仕業かどうか、対象を突き放したようなシニカルな笑いによって、いわゆる「実話を元にしたサスペンス」とは全く違った映画に仕上がっています。多様な素材をテンポ良く組み合わせてシーンを作ってゆく手腕は見事なもので、最初の十分間を観ただけでも、この映画の作り手達の才能がいかほどのものか、すぐにそれと判明するくらいです。 勿論、サントらしい自由な発想や、仕掛けのある場面構成はあちこちに盛り込まれています。一つのセットの中で一瞬にして昼から夜へ変わるショットなどは、その一例。それにしても、マット・ディロンという俳優にどことなく付きまとうやや軽薄な雰囲気を、悪意を感じさせるほどデフォルメしたこの演出効果はどうでしょう。そのバカっぽさたるや、凄まじいものがありますが、逆に、超の付く野心家の美人キャスターがどうしてこの男と結婚したのか、説得力を欠いてしまったのは難点でしょうか。面白いのは面白いのですけれど。 |