オスカー9部門にノミネートされヒットもした作品。爽やかな感動を呼ぶラスト・シーンも素敵で、公開当時はサントらしくない感動作と言われましたが、彼はその後もナイーヴな優しさに溢れた映画を作り続け、それらはフィルモグラフィーにおける大きな柱となっています。 主演のデイモンとアフレックの共作になるシナリオがとにかく素晴らしいです。まずストーリーが秀逸だし、ダイアローグが音楽のように美しく、特にロビン・ウィリアムズとデイモン二人の場面における前者のセリフはどれもが含蓄に富み、とても20代そこそこの若者達が書いたとは思えないほどの深みがあります。これほどの脚本は滅多とないと言えるでしょう。 このシナリオがサントの手に渡ったのは幸運としか言いようがありません。実験的手法を使うイメージの強い彼ですが、素材に対しては誠実に向き合うというか、ハリウッド的な虚飾やエンタメ精神で飾り立てるような事はしない人です。それは、何もせず淡々と撮る事とは正反対で、例えば、喧嘩シーンの唐突なスロー・モーションやラブ・シーンに見られるモダンな場面造形、各場面の繋ぎに挟まれる移動シークエンス、才人ジャン=イヴ・エスコフィエの感性を生かしたみずみずしい映像美など、どこをとっても新鮮な感覚に満ちあふれています。 非凡な才能を持ちながら劣悪な環境のせいで埋もれている若者が、師となる人物と出会った事で才能を見いだされるという、いわば現代版、男性版シンデレラ・ストーリーで、その意味では必ずしも斬新なものではないのですが、描き方やキャラクター、ダイアローグ次第で名作になるという事でしょうか。才能を見いだした側のマクガイア博士も決して完璧な人物ではなく、両者がお互いに成長してゆくのは現代版らしい所。 さらに、脇に配されたキャラクター達の魅力にも触れない訳にはいきません。主人公の友人達、特にベン・アフレック演じるチャッキーが示す、無骨ながらも心に沁みる友情は勿論の事として、例えば、かつての天才数学者ランボーの苦悩はどうでしょう。映画の中で、こういう立場の人物がここまで露わに自らの弱さをさらけ出す事はそうないように思うのですが、ここには、誰もがそれぞれ内に抱えている苦しみや脆さが象徴的に表れていて、その姿は無様だし、見苦しくもあるけれども、同時に哀切で、愛おしくさえあります。 俳優陣も、いわゆるハリウッド的名演技ではない、抑制したトーンで芝居を構築していて好感度大。特に若者4人組それぞれの間の空気感や距離感、あるいはランボーとショーン、ウィルとスカイラーの間のそれも、凡百の映画監督には醸造できない、緻密に作り上げられたアトモスフェアを堪能できます。 |