グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち

Good Will Hunting

1997年、アメリカ (127分)

 監督:ガス・ヴァン・サント

 製作総指揮:ボブ・ワインスタイン、ハーヴェイ・ワインスタイン

       ジョナサン・ゴードン、スー・アームストロング

 共同製作総指揮:ケヴィン・スミス、スコット・モシエ

 製作:ローレンス・ベンダー

 共同製作:クリス・ムーア

 脚本:ベン・アフレック、マット・デイモン

 撮影監督:ジャン=イヴ・エスコフィエ

 プロダクション・デザイナー:メリッサ・スチュワート

 衣装デザイナー:ベアトリクス・アルナ・パスツォール

 音楽:ダニー・エルフマン

 編集:ピエトロ・スカリア

 編集インターン、サントの助手:スコット・パトリック・グリーン

 リレコーディング・ミキサー:レスリー・シャッツ、ガス・ヴァン・サント

 出演:マット・デイモン  ロビン・ウィリアムズ

    ベン・アフレック  ステラン・スカルスゲールド

    ミニー・ドライヴァー  ケイシー・アフレック

    コール・ハウザー

* ストーリー 

 ボストンに住む青年ウィルは、幼い頃から天才ゆえに周囲から孤立していた。彼の才能に気付いた数学教授のランボーは、その才能を生かそうと様々な先生を付けるが、ことごとくはね除けられる。困ったランボーは、友人の精神分析医ショーンをウィルに紹介する。最初は衝突した二人だが、初めて親身に接してくれたショーンに、ウィルは次第に心を開いてゆく。

* コメント  

 オスカー9部門にノミネートされヒットもした作品。爽やかな感動を呼ぶラスト・シーンも素敵で、公開当時はサントらしくない感動作と言われましたが、彼はその後もナイーヴな優しさに溢れた映画を作り続け、それらはフィルモグラフィーにおける大きな柱となっています。

 主演のデイモンとアフレックの共作になるシナリオがとにかく素晴らしいです。まずストーリーが秀逸だし、ダイアローグが音楽のように美しく、特にロビン・ウィリアムズとデイモン二人の場面における前者のセリフはどれもが含蓄に富み、とても20代そこそこの若者達が書いたとは思えないほどの深みがあります。これほどの脚本は滅多とないと言えるでしょう。

 このシナリオがサントの手に渡ったのは幸運としか言いようがありません。実験的手法を使うイメージの強い彼ですが、素材に対しては誠実に向き合うというか、ハリウッド的な虚飾やエンタメ精神で飾り立てるような事はしない人です。それは、何もせず淡々と撮る事とは正反対で、例えば、喧嘩シーンの唐突なスロー・モーションやラブ・シーンに見られるモダンな場面造形、各場面の繋ぎに挟まれる移動シークエンス、才人ジャン=イヴ・エスコフィエの感性を生かしたみずみずしい映像美など、どこをとっても新鮮な感覚に満ちあふれています。

 非凡な才能を持ちながら劣悪な環境のせいで埋もれている若者が、師となる人物と出会った事で才能を見いだされるという、いわば現代版、男性版シンデレラ・ストーリーで、その意味では必ずしも斬新なものではないのですが、描き方やキャラクター、ダイアローグ次第で名作になるという事でしょうか。才能を見いだした側のマクガイア博士も決して完璧な人物ではなく、両者がお互いに成長してゆくのは現代版らしい所。

 さらに、脇に配されたキャラクター達の魅力にも触れない訳にはいきません。主人公の友人達、特にベン・アフレック演じるチャッキー示す、無骨ながらも心に沁みる友情は勿論の事として、例えば、かつての天才数学者ランボーの苦悩はどうでしょう。映画の中で、こういう立場の人物がここまで露わに自らの弱さをさらけ出す事はそうないように思うのですが、ここには、誰もがそれぞれ内に抱えている苦しみや脆さが象徴的に表れていて、その姿は無様だし、見苦しくもあるけれども、同時に哀切で、愛おしくさえあります。

 俳優陣も、いわゆるハリウッド的名演技ではない、抑制したトーンで芝居を構築していて好感度大。特に若者4人組それぞれの間の空気感や距離感、あるいはランボーとショーン、ウィルとスカイラーの間のそれも、凡百の映画監督には醸造できない、緻密に作り上げられたアトモスフェアを堪能できます。

* スタッフ

 製作のローレンス・ベンダーは、クエンティン・タランティーノやロバート・ロドリゲス監督の作品を一手に担ってきた、インディペンデント魂あふれるプロデューサー。サントとは初タッグですが、それでいきなりオスカー候補ですから大したものです。

 最初の脚本は、ハーバード在学中のマット・デイモンが劇作の授業で書いたもの。彼はオーディションでロスに行った時、幼なじみの友人ベン・アフレックに途中のシナリオを見せ、共作がスタートしました。東西両海岸に離れているせいで2年掛かったものの、彼らは各シーンを演じてみながら物語やキャラクターを膨らませ、第1稿を完成。アフレックの主演映画を製作したクリス・ムーアがこの脚本の質の高さに驚いた事が映画化に繋がりました。ムーアは後に、同じくデイモン脚本の『プロミスト・ランド』も製作しています。

 デイモンとアフレックは8歳の時からの親友同士。脚本には、二人が育った南ボストンのアイリッシュ・コミュニティのエッセンスがリアルに盛り込まれているといいます。この意図を生かし、実際に地元の場所をロケ地に設定したプロダクション・デザイナー、ミッシー・スチュワートはこう述べています「脚本にはロケーションがきっちり書き込まれていたので、私達の仕事は実際にボストンに行って、その場所を探す事だけだったわ。心掛けたのは、南ボストンというウィルのルーツをはっきりさせる事。彼がそこを離れ難く感じている理由を伝えたかったの」。

 撮影監督のジャン=イヴ・エスコフィエは、レオス・カラックス監督の三部作『ボーイ・ミーツ・ガール』『汚れた血』『ポン・ヌフの恋人』の凝った映像センスで多くのファンを持つ、フランスのシネマトグラファー。ウィルが電車で移動する各場面の詩的な映像美など、ほとんどフランス映画に見える箇所もあります。サントとはコンビが続かず、再度のコラボが実現しないまま亡くなってしまったのは残念という他ありません。

 編集はリドリー・スコット作品で活躍するピエトロ・スカリア。サントの古い友人スコット・パトリック・グリーンが編集のインターンで入っている他、彼はサントの助手も務めています。音楽を『誘う女』に続いてダニー・エルフマンが担当し、オスカーにノミネートされました。ちなみにエンド・クレジットでは、この時期に相次いで亡くなったビート作家のウィリアム・S・バロウズ、アレン・ギンズバーグに献辞が捧げられている他、特別協力として名監督テレンス・マリックの名前も見えます。

* キャスト

 脚本を書いた二人、マット・デイモンとベン・アフレックは演技面でも万全の仕事というか、やはり誰よりもシナリオの心をよく分かっている感じがしますが、全ての俳優がこれだけの脚本を書いてこれだけの演技が出来る訳ではなく、彼らはやはり天才という他ありません。名優ロビン・ウィリアムズは、これまた心震わす素晴らしい芝居を展開していて、申し分のないキャスティング。デイモンも、「ガスが乗ってくれたのはケーキの完璧な仕上げ、ロビン・ウィリアムズの参加は宝くじに当たったようなものだ」とコメントしています。

 かつての天才数学者ランボー教授を演じるのは、スウェーデンの実力派ステラン・スカルスゲールド。ラース・フォン・トリアー監督の『奇跡の海』が何といっても有名ですが、ハリウッド映画にも多数出演していて、大作からこういったドラマまで幅広く活躍している人です。私も個人的に好きな俳優さんで、アクの強い悪役も繊細な役もこなす彼の渋い味わいは、ランボーの複雑な内面表面にぴったり。

 ウィルの恋人役にミニー・ドライヴァーというのは賛否両論ある所かもしれませんが、英国出身ながら自然でフランクな彼女の佇まいは、本作のルックに不思議とマッチしているように思います。又、ウィルの友人の一人モーガンを、ベン・アフレックの弟で、『誘う女』に続く出演のケイシー・アフレックが演じています。

* アカデミー賞

◎ノミネート/作品賞、監督賞、主題歌賞、音楽賞、編集賞

       主演男優賞(マット・デイモン)、助演女優賞(ミニー・ドライヴァー)

◎受賞/脚本賞、助演男優賞(ロビン・ウィリアムズ)

 

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