小説家を見つけたら

Finding Forrester

2000年、アメリカ (136分)

 監督:ガス・ヴァン・サント

 製作総指揮:ダニー・ウルフ、ジョナサン・キング

 製作:ローレンス・マーク、ショーン・コネリー、ロンダ・トルフソン

 脚本:マイク・リッチ

 撮影監督:ハリス・サヴィデス, A.S.C.

 プロダクション・デザイナー:ジェーン・マスキー

 衣装デザイナー:アン・ロス

 編集:ヴァルディス・オスカルスドッティア

 音楽:ビル・フリゼール(追加スコア)

 テクニカル・コンサルタント:ケイシー・アフレック

 リレコーディング・ミキサー:レスリー・シャッツ、ガス・ヴァン・サント

 出演:ロブ・ブラウン  ショーン・コネリー

    アンナ・パキン  F・マーレイ・エイブラハム

    バスタ・ライムス  マイケル・ピット

    マット・デイモン  マイケル・ヌーリ

* ストーリー 

 ニューヨーク、ブロンクス。16歳の少年ジャマールは、ある日、バスケ仲間にそそのかされて忍び込んだ謎の老人の部屋に、リュックを置き忘れてしまう。中には彼が秘密にしていた創作ノートが入っていたが、やがて彼のもとに戻ってきたノートに、びっしりと批評が書かれていた。

* コメント  

 貧しい境遇ゆえに埋もれていた若き才能が著名人との交流によって発掘されるという、『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』と全く同じストーリー構造を持つ作品。学園内で主人公を理解するガールフレンドが出来る所や、師となる大人の側も心の傷を抱えており、主人公と出会った事で心を開いてゆくという設定もそっくりです。

 何しろ『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』から3年しか経っていない作品だけに、ここまで同じ話で良いのかとも思いますが、本作はそんな懸念を吹き飛ばすくらいに素晴らしく、監督の才能に改めて脱帽させられます。脚本の構造は同じでも、俳優の演技から映像、音楽に至るまで、全てが見事にヴァリエーションと化していて、逆に言えば、ストーリー設定以外に似た所は一つもありません。むしろ敢えて同じ構造の話で全く違う映画を作るという実験のようにも見えます(『サイコ』の前例がある人ですから、それくらいはやりかねません)。

 成功の要因は、新人ロブ・ブラウンと名優ショーン・コネリー、そして彼らを取り巻く個性派俳優達の演技がみんな素晴らしい事と、脚本が細部に至るまですこぶる有機的に構成されている事でしょう。特に、大作家フォレスターにまつわる秘密の解明と、ジャマールが大人の論理に一人で立ち向かわなくてはならなくなる経緯には、サント作品としては異例の長尺(136分)も一気に見せてしまうエンターティメント性があります。これは『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』に勝るとも劣らない、優れたシナリオだと言えるでしょう。

 サントの演出は、彼の作品の中で最もオーソドックスな部類に入るもので、奇を衒わない落ち着いた語り口で終始一貫。映像のルックも、高校の教室や教員の部屋、書物に溢れたフォレスターの住居など、アカデミックな雰囲気の背景が多い上、ヤンキー・スタジアムや自然博物館など、大きな建物や広い場所を舞台にした場面も随所にあり、日常サイズの映像が多いサントの作品としては、スケールを拡大した印象も受けます。

 一方、バスケット・ボールの場面のスピーディーなカッティングや、各場面の詩的な映像センス、ジャズを用いた音楽の付け方、若者の生活スタイルに密着したストリート感覚など、控えめながら監督らしさも挿入。特に、冒頭に映し出される撮影用カチンコ(実際にサントと撮影監督ハリス・サヴィデスの名前が入っています)は、意図こそ不明なものの、そこはかとない実験精神を匂わせます。

 ちなみに、コネリーが演じる作家フォレスターには、『ライ麦畑でつかまえて』のJ・D・サリンジャーや、『V.』『重力の虹』のトマス・ピンチョンのイメージが指摘され、脚本家自身も彼らの指向をヒントにしたと語っていますが、サリンジャーはともかくピンチョンはどうでしょう。容姿も素性も全く知られていない謎の作家という点は確かに共通しますが、ぶっ飛んだ諧謔味が満載のテンションが高い作風からして、ピンチョンのイメージに重厚な作家然とした佇まいはないような気がするのですが。

* スタッフ

 製作総指揮のダニー・ウルフは、『サイコ』に続くサント作品で、続く『ジェリー』三部作や短篇映画などもプロデュース。ジョナサン・キングは、後に『リンカーン』『ブリッジ・オブ・スパイ』とスピルバーグ作品を製作した他、『プロミスト・ランド』で再度サントと組んでいます。製作のローレンス・マークは、『ザ・エージェント』『恋愛小説家』『ワーキング・ガール』など、都会的な映画をたくさん作っている人。

 脚本のマイク・リッチは、ラジオ局でニュース・アンカーをしていたという異色の経歴の持ち主で、ポートランドのラジオ局で米国作家をテーマにしたインタビューを行っていた時に本作の着想を得て、脚本を執筆。映画芸術科学アカデミーが後援するコンペに出品して、最終選考の5本に残った事が映画化への道となりました。

 撮影のハリス・サヴィデスは、これがサントとの初タッグ。本作は基本的にオーソドックスな映像スタイルですが、この後に数作でサントと組み、実験的な撮影手法を展開してゆきます。当時はデヴィッド・フィンチャー監督作『ゲーム』が知られていたくらいの新進でしたが、後にソフィア・コッポラやウディ・アレン、リドリー・スコットに起用される売れっ子になりました。

 プロダクション・デザイナーのジェーン・マスキーは、『摩天楼を夢みて』『恋人たちの予感』などでニューヨークのロケ経験も豊富な人。本作もマンハッタンとブロンクスでロケーション撮影を行っていますが、カナダのトロントでも一部を撮影。フォレスターのアパートのセットの他、マディソン・スクエア・ガーデンもオンタリオ州にある競技場で代用、主人公の家もトロントで撮影しています。

 衣装デザイナーのアン・ロスは、古くは『真夜中のカウボーイ』『イナゴの日』から、『グッバイガール』『帰郷』『ヘアー』『ガープの世界』『プレイス・イン・ザ・ハート』『存在の耐えられない軽さ』など、数々の名作を手掛けて来たベテラン。『イングリッシュ・ペイシェント』でアカデミー賞に輝いています。

 編集はデンマークの映画監督集団が提唱する“ドグマ95”の二作品、『ミフネ』と『セレブレーション』を手掛けたヴァルディス・オスカルドッティア。奇抜な人選がいかにもサントらしいですが、結果的にオーソドックスな編集に仕上がったのは、それでも狙い通りなのでしょうか。リーレコのミキサーには、後にサント作品の音響デザインを手掛けるレスリー・シャッツと共に、サント自身も参加。

 音楽は、特定の作曲者がクレジットされていませんが、マイルス・デイヴィスをはじめ、オーネット・コールマンなどジャズの曲を使用。ジャマールがフォレスターの部屋から逃げ出す場面など、モダン・ジャズのBGMが斬新な効果を挙げています。スコアはビル・フリゼールが作曲。エンド・クレジットでは、『オズの魔法使い』の“オーバー・ザ・レインボウ”とルイ・アームストロングの“ホワット・ア・ワンダフル・ワールド”をミックス・アレンジした主題歌が感動を呼びます。

* キャスト

 主演のロブ・ブラウンは演技経験のない全くの素人で、その後も俳優にはなっていないようです。サントは処女作から一般人を起用して映画を撮っていますし、その後もそういう作品がたくさんありますから、本作が特別ではないのでしょうが、周囲が名優ばかりなので、そこは凄いです。

 初代ジェームズ・ボンドのイメージも根強いショーン・コネリーは、こういうインディペンデント系の映画に出るイメージはあまりなかったですが、脚本に惚れ込んでプロデューサーを買って出ており、個人的にはこういう映画が好きなようです。英国の出身らしく抑制の効いた渋い芝居をする人ですので、サントの作風にもマッチしています。

 クロフォード教授を演じるF・マーリー・エイブラハムは、何といっても『アマデウス』でモーツァルトの敵役サリエリを演じたのが有名でしょうか。悪役を演じたコメディ『ラスト・アクション・ヒーロー』でも、「モーツァルトを殺した人だ」とパロディ的に扱われていましたが、実はシェイクスピア劇を中心に舞台の経験も豊富な、実力派俳優です。本作もやや悪役の傾向が強いですが、自身もブルックリン・カレッジで教鞭をとっているとの事。

 主人公が淡い恋心を抱くクレアには、『ピアノ・レッスン』で鮮烈なデビューを飾ったアンナ・パキン。彼女も過剰な芝居をする人ではなく、子役出身にありがちなスキャンダラスなキャリアを地で行かない辺りに、賢さを感じます。その後も『アミスタッド』『あの頃、ペニー・レインと』『ジェイン・エア』『X-メン』など、錚々たる監督の映画に出演しながら、手堅い仕事ぶりを見せています。

 主人公の兄を演じるのは、ラップ音楽の歴史を塗り替えたとまで言われる伝説的アーティスト、バスタ・ライムス。『シャフト』『ハード・ジャスティス』『ハイヤー・ランニング』など、映画への出演は他にも幾つかあります。主人公の友人コールリッジ役には、後に『ラストデイズ』で主演するマイケル・ピットを起用。

 最後の方には、小さな役でマット・デイモンもサプライズ的に出演。それと、『誘う女』『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』『ジェリー』のケイシー・アフレックが、テクニカル・コンサルタントという実態不明の肩書きでクレジットされています。現場に遊びに来て、何か手伝ったのかもしれません。

 

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