ハリウッドに進出してヒット作やオスカーにも恵まれたサントが、再び原点に立ち返って少人数で製作した、前衛精神溢れる作品。続く『エレファント』『ラストデイズ』と三部作をなし、スタッフ、撮影スタイル、そして実際に起った事件を元に構想している点でも共通しています。本作は、『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』と同様、マット・デイモンが脚本と主演を兼任していますが、タッグを組んだ相棒はベン・アフレックではなく、その弟ケイシー。 二人組の男が道に迷い、ひたすら平原や山地を歩き回るという極めてシンプルなプロットですが、それが奇しくもサント作品に共通する、アイデンディティの探求や放浪というモティーフを極限まで凝縮して表現しているように見えるのは面白い所です。シネマスコープの長大な画面も、舞台となる荒涼たる大地の、水平方向の茫漠たる広がりをよく伝えます。雲が早回しで流れる空の映像は、本作でも健在。 無言で歩いているだけの長回しが5分以上続く箇所も多々あり、人によっては極度に退屈な映画に感じられるかもしれませんが、『ラストデイズ』に較べればまだ音楽の効果が詩情を保っているし、風景も変化に富んで美しく、画面作りに工夫がみられます。それでも冒頭のハイウェイの場面からは、この映画が言葉を極力排し、主人公二人に起っている事を長回しで延々と体験させる意図がある事は明白で、ファースト・シーンから既に観客の選別は始まっているとも言えます。 アルヴォ・ペルトの音楽は、この時期からクラシック音楽ファン以外にも急速に認知度が高まったように思いますが、同じ和音をシンプルに鳴らし続ける彼のスタイルは、ある意味でこの映画の精神と見事にシンクロしています。ただ、観る方としては、映画の単調な流れに打ち勝って集中力を維持しないと、まるでBGVか環境ビデオみたいに見えてしまうかもしれませんね。観客の洞察力が試される映画とも言えるでしょう。 |