ジェリー

Gerry

2002年、アメリカ (103分)

 監督:ガス・ヴァン・サント

 製作: ダニー・ウルフ

 共同製作:ジェイ・ヘルナンデス

 脚本:ケイシー・アフレック、マット・デイモン

    ガス・ヴァン・サント

 撮影監督: ハリス・サヴィデス, A.S.C.

 音楽: アルヴォ・ペルト

 音響デザイン:レスリー・シャッツ

 出演:マット・デイモン  ケイシー・アフレック

* ストーリー 

 砂漠をドライブする二人の若者が道中、休憩のために車を降りる。彼らは何かドジった時、お互いを“ジェリー”と呼び合う。散歩のつもりで人気のない荒野を歩き始めた二人は、やがて道に迷い、本当に危機的な“ジェリー”の事態に陥ってしまう。それでもはじめは他愛のない会話をしながら歩き続ける二人だったが、いつまでたっても砂漠から抜け出せず、事の重大さを自覚し始める。

* コメント  

 ハリウッドに進出してヒット作やオスカーにも恵まれたサントが、再び原点に立ち返って少人数で製作した、前衛精神溢れる作品。続く『エレファント』『ラストデイズ』と三部作をなし、スタッフ、撮影スタイル、そして実際に起った事件を元に構想している点でも共通しています。本作は、『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』と同様、マット・デイモンが脚本と主演を兼任していますが、タッグを組んだ相棒はベン・アフレックではなく、その弟ケイシー。

 二人組の男が道に迷い、ひたすら平原や山地を歩き回るという極めてシンプルなプロットですが、それが奇しくもサント作品に共通する、アイデンディティの探求や放浪というモティーフを極限まで凝縮して表現しているように見えるのは面白い所です。シネマスコープの長大な画面も、舞台となる荒涼たる大地の、水平方向の茫漠たる広がりをよく伝えます。雲が早回しで流れる空の映像は、本作でも健在。

 無言で歩いているだけの長回しが5分以上続く箇所も多々あり、人によっては極度に退屈な映画に感じられるかもしれませんが、『ラストデイズ』に較べればまだ音楽の効果が詩情を保っているし、風景も変化に富んで美しく、画面作りに工夫がみられます。それでも冒頭のハイウェイの場面からは、この映画が言葉を極力排し、主人公二人に起っている事を長回しで延々と体験させる意図がある事は明白で、ファースト・シーンから既に観客の選別は始まっているとも言えます。

 アルヴォ・ペルトの音楽は、この時期からクラシック音楽ファン以外にも急速に認知度が高まったように思いますが、同じ和音をシンプルに鳴らし続ける彼のスタイルは、ある意味でこの映画の精神と見事にシンクロしています。ただ、観る方としては、映画の単調な流れに打ち勝って集中力を維持しないと、まるでBGVか環境ビデオみたいに見えてしまうかもしれませんね。観客の洞察力が試される映画とも言えるでしょう。

* スタッフ

 製作は、三部作共通のダニー・ウルフ。『サイコ』『小説家を見つけたら』でもサントと組んでいますが、ここでは第一助監督も兼任。撮影監督も三作共通のハリス・サヴィデス。メイキング映像を見ると、撮影は最小限の人数で即興的に行われたようですが、移動撮影には長いレールを敷いているし、大きなクレーンも使用しています。ちなみに、この三部作においてサントとサヴィデスが守るべき約束とした3つの要素は、「描く対象を絞る」「セリフは最小限に留める」「情報はシンプルに伝える」との事。

 音楽のアルヴォ・ペルトは、エストニア出身の人気現代作曲家。映画音楽も数々手掛けていますが、ここでは書き下ろしではなく、既成の作品が使用されているようです。『エレファント』や『ラストデイズ』と本作の間に大きな違いがあるとすれば、それは劇伴音楽にも聞こえるペルトの作品が、無味乾燥に陥りがちな画面に豊かな情感と詩的な趣を与えている所かもしれません。

 編集はなぜか担当者のクレジットがありませんが、三部作の傾向からしてサント自身が行っているものと思われます。さらに本作には、音響デザイナーとしてレスリー・シャッツが参加。彼は、『サイコ』『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』『小説家を見つけたら』にリレコーディング・ミキサーとして関わった他、当三部作と『パラノイドパーク』以降の作品でも音響デザインを担当。

* キャスト

 マット・デイモンは、『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』『小説家を見つけたら』に続くサント作品で、脚本も兼任していますが、ここでは感情を表に出さないクールなキャラクターを、抑えた演技で造形しています。セリフは非常に限られていますが、それでも、同行の友人に対する複雑な感情を匂わせる辺り、確かな演技力を窺わせます。

 脚本執筆も兼ねたケイシー・アフレックは、上記の通りスター俳優ベンの弟ですが、彼は既に『誘う女』『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』に出演しており、サント作品ではお馴染みの顔とも言えます。こちらもセリフの少ない役ですが、泣くシーンもあったりして、メンタルな面ではやや弱さを見せるキャラクター。過酷な大自然の中ではその弱さこそが命取りとなり、彼の精神を追い込んでゆく訳で、仕草と表情だけで内面の焦燥をナイーヴに表現した演技センスは高く評価されるべきでしょう。

 

Home  Back