カンヌ国際映画祭で史上初のパルムドールと監督賞をダブル受賞を果たし、他にも各国の様々な賞に輝いた本作。99年にコロラドのコロンバイン高校で起きた、学生による銃乱射事件をモティーフにしながら、舞台や事件詳細を独自に設定し、高校生達の等身大の姿をみずみずしい感性で活写しています。いわゆる実話を元にしたドラマではありません。撮影も、久しぶりにサントの故郷ポートランドにある高校で行われています。 81分という短い映画で、近年珍しいスタンダード・サイズで撮影。メイキング映像を見る限りではビデオカメラも使用している様子です。俳優のほとんどは演技経験のない普通の高校生、芝居も全てアドリヴという事で、キャメラ・ワークもどことなく即興的です。キャメラは校内を歩き回る学生達に密着し、廊下を移動してゆく生徒の背中を長回しで延々と追う事もしばしば。これは前作『ジェリー』で展開されたスタイルで、この後『ラストデイズ』や『パラノイドパーク』にも、一部継承されています。 ストーリーと呼べるほど明確な筋書きはなく、校内で惨劇が起こるまでの様々な学生達の日常を、繊細なタッチでスケッチ風に描いていますが、この監督らしい実験精神が現れているのは映画の構成。各々の学生達の日常がクロスする様を、時間軸を前後させながらそれぞれの人物やグループの視点で描写しているので、同じ場所で起こった同じ出来事を別々な人物の視点で描いた上、そこから別のグループの描写に入っていったりします。 映像にどこかアーティスティックな雰囲気が漂うのは、被写界深度が非常に浅く設定されていて、背景が極度にボケている場面が多いせいでしょうか。この映像は、自意識が最も強い時期にある若者達の、その了見や視界の狭さを、実に視覚的に表現しています。登場人物はみな自分の世界を中心に生きていて、周囲の光景はあまり見えていない。ドキュメンタリックなタッチを基調としながら、キャメラは秋の風景や室内の光を非常に美しく捉えていますが、そんな美しい日常の中にも悲劇は突然起こりうる、そういう恐ろしさを同時に伝えてもいます。 コロンバイン高校の事件は、大抵の人はニュースで見聞しただけでしか知らないわけですが、ある日突然射殺されることになる教師や生徒達、そして凶行に及んだ二人の少年が、事件が起きるまでどうやって過ごしていたかを(あくまで仮説としてでも)見せられる事で、いやが上にも事件の恐ろしさや不条理性、そして日常生活のかけがえのない重みを目前に突きつけられる思いです。犯人二人がいじめられている描写はありますが、具体的な犯行動機に関して作り手は何ら解釈を提示しておらず、観る人によって様々な受取り方ができる作品になっています。それでいいと思います。 |