カンヌ国際映画祭60周年を記念し、様々な国の監督達が映画館をテーマにした3分間の短編を寄せたオムニバスから。さすがはカンヌ、参加している33人の顔ぶれの豪華さは尋常ではありません。3分間ではもうドラマは成立せず、ちょっと長めのコマーシャルのようなスケッチ風のフィルムにならざるを得ない訳ですが、それでも監督の個性が如実に表れてくるのが興味深い所です。各篇ごとにエンド・クレッジットが出る所からも分かる通り、各監督が自分の国、自分のプロダクションで製作したものを持ち寄った体裁です。 サント作品は、彼が昔からよく知っているというポートランドの映画館でロケを行い、映写技師の青年がスクリーンの中に入って、映像の女性とキスをするというファンタジー。ウディ・アレンの『カイロの紫のバラ』の逆パターンですが、女性に対する初々しい気持ちを、映画に対するそれと重ね合わせて、瑞々しい感覚を漲らせた一篇です。 製作のジル・ジャコブは、カンヌ映画祭のプレジデント。「あなたにとって映画とは何か、自由なイマジネーションで短篇を撮って下さい。ただし制限時間は3分間で」と、世界中の監督達に手紙を出した人物です。サント篇の製作者デヴィッド・クロスとニール・コップは、『パラノイドパーク』を製作した二人。 撮影のエリック・(アラン・)エドワーズや、音響デザインのレスリー・シャッツなど、サント組のスタッフも参加。特にシャッツの、波の音とカモメの鳴き声だけで構成した音響表現は卓抜で、一切のセリフを排した脚本だけに、作品全体の質感形成に大きく貢献していると言えるでしょう。 他に参加した監督達は北野武、テオ・アンゲロプロス、ホウ・シャオシェン、ダルデンヌ、デヴィッド・リンチ、アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ、チャン・イーモウ、ジェーン・カンピオン、アキ・カウリスマキ、ラース・フォン・トリアー、クロード・ルルーシュ、ロマン・ポランスキー、マイケル・チミノ、デヴィッド・クローネンバーグ、ウォン・カーウァイ、アッバス・キアロスタミ、ヴィム・ヴェンダース、チェン・カイコーなどなど、他にも実力派の個性的なシネアスト達が多数参加。 |