ミルク

Milk

2008年、アメリカ (128分)

 監督:ガス・ヴァン・サント

 製作総指揮:マイケル・ロンドン、ダスティン・ランス・ブラック

       ブルーナ・パパンドレア、バーバラ・A・ホール

       ウィリアム・ホーバーグ

 製作:ダン・ジンクスブルース・コーエン

 脚本:ダスティン・ランス・ブラック

 撮影監督:ハリス・サヴィデス, A.S.C.

 プロダクション・デザイナー:ビル・グルーム

 衣装デザイナー:ダニー・グリッカー

 音楽:ダニー・エルフマン

 編集:エリオット・グラハム

 サント助手:スコット・グリーン

 音響デザイナー、音響編集監修:レスリー・シャッツ

 リレコーディング・ミキサー:レスリー・シャッツ、ガス・ヴァン・サント

 出演:ショーン・ペン  ジェームズ・フランコ

    ジョシュ・ブローリン  ディエゴ・ルナ

    エミール・ハーシュ  ヴィクター・ガーバー

    アリソン・ビル  デニス・オヘア

    ジョセフ・クロス  ルーカス・グラビール

    ケルヴィン・ユー  ブランドン・ボイス

    スコット・パトリック・グリーン

* ストーリー 

 1972年のニューヨーク、金融業界のビジネスマンだったハーヴィー・ミルクは、20歳年下のスコット・スミスと出会い、恋に落ちる。自由を求めて彼らが移住した場所は、サンフランシスコのユリーカ・ヴァレー。元々、同性愛者やヒッピーの流入が続いていたこの地域に、彼らはカストロ・カメラという店を構え、社交的でユーモアに溢れたミルクの人柄によって、この店はコミュニティ・センターのような機能を果たすようになる。いつしかカストロ地区と呼ばれるようになったこの地域で、次第に政治的な関わりも持つようになったミルクは、1973年、同性愛者として初めて市政執行委員に立候補する。

* コメント  

 同性愛者として初めて公職に就いた実在の人物ハーヴィー・ミルクが、志半ばで凶弾に倒れるまでの最後の8年間を描いた大作。上映時間128分という、サント作品には珍しい長尺の映画ですが、ゲイである事をカミングアウトしている彼としては、このミルクという人物、いつか絶対に撮らなくてはならないヒーローだったのかもしれません。

 分割画面や写真コラージュ風のストップモーション、ニュース画像風の粒子の粗い映像処理、役者のアドリブを自然に捉えたドキュメンタリー風の撮影など、サントらしい自由な手法は随所に取り入れているものの、全体としては実話物らしく、叙情より叙事に傾いた作りになっています。そしてそういう作品では、監督の個性の表出というのは控えめにならざる得ないものです。

 要するに、俳優の演技や美しい風景を即興的にキャメラで切り取ったような、自由闊達なサントのスタイルからすると、本作のしっかりと構築された作劇はむしろ異例である訳ですが、ここは逆に、叙事詩映画にサントらしい味付けを加えたものと見るべきなのかもしれません。唯一、仲間に戻ってきたスミスとミルクの姿や暗殺に向かうホワイトを、背後から長回しで追う移動撮影に、ここ数年の作品でサントが追求してきた手法が応用されている点は見逃せません。

 若者が書いた脚本を多く映像化してきたサントらしく、本作のシナリオもダスティン・ランス・ブラックという若いライターが執筆。ブラックは、生存している関係者から協力を得た貴重な資料を元に、緻密かつ繊細に史実を再構成する一方、ミルクがオペラハウスで鑑賞しているプッチーニの歌劇《トスカ》の各場面を随所に挿入し、悲劇を暗示(暗殺場面の直前にも、窓から見えるオペラハウスの姿が映ります)するなど、ドラマティックな手腕も冴えています。

 大勢のエキストラを使った大規模なシーンもサント作品では珍しいですが、どの場面も生き生きとした活力、真情の込められた深い省察に満ちており、無理にサントらしい前衛性を求めなければ、史実映画として十二分に見応えのある作品です。役者達の入魂の芝居も素晴らしいもの。本作はアカデミー賞で8部門にノミネートされ、主演のショーン・ペンと脚本のブラックが受賞しました。

* スタッフ

 プロデューサーのダン・ジンクスとブルース・コーエンはスピルバーグ派閥の人で、アカデミー賞に輝いたドリームワークス作品『アメリカン・ビューティー』を製作したコンビ。

 製作総指揮にも名を連ねている脚本のダスティン・ランス・ブラックは、ミルクという人物に共感し、何年も掛けてシナリオを完成させ、製作にこぎつけた信念の人。といっても、見た目は繊細な青年という感じですが、UCLAの劇場・映画スクールを優等で卒業し、米国でもBBCでも数多くのドキュメンタリーやドラマ、CM、ミュージック・ビデオを手掛けてきたという、なかなかの才人です。彼の監督作品『バージニア/その町の秘密』では、逆にサントが製作に回りました。

 撮影のハリス・サヴィデスは、これがサントとの5作目のタッグ。前述の移動撮影に過去のコラボの成果が現れていますが、本作は大規模なシーンも多いし、多彩な背景を用いていて、彼も久しぶりに撮影監督としてスタイルの広さを出す事が出来たかもしれません。衣装のダニー・グリッカーはこれがサントとの初仕事ですが、続く作品でも組んでいます。

 プロダクション・デザイナーのビル・グルームは、ショーン・ペンが監督した『プレッジ』を担当しているので、その縁で起用されたのかもしれません。ペニー・マーシャル監督に重用され、『レナードの朝』『プリティ・リーグ』『天使の贈りもの』『サンキュー、ボーイズ』などを手掛けています。

 編集は当時『X-MEN2』『スーパーマン・リターンズ』で注目されていたエリオット・グラハム。彼は次作『永遠の僕たち』でもサントと組みました。音楽は、ヴァン・サントと4作目のコラボとなるダニー・エルフマン。音響デザインと音響編集の監修、リーレコのミキサーを、サント組常連のレスリー・シャッツが担当(ミックスにはサント自身もクレジット)。

* キャスト

 ショーン・ペンは、どんな映画に出ても名演技にしてしまうほどの実力を持つアクターですが、本作もファースト・シーン、スコットとの出会いの場面からして、その芝居の上手さに度肝を抜かれてしまいました。さほどオーバーな事をしているように見えないのに、役そのものになって最後まで観客を牽引する能力は、確かにアカデミー賞ものと言わざるを得ませんね。

 相手役のジェームズ・フランコは、サム・ライミ監督の『スパイダーマン』シリーズでブレイクした人。さすがに主役に食われてしまった感じもしますが、しばらく物語から姿を消して、戻ってきたりするとやはり強い存在感が示されるので、彼も相当に実力のある役者なのでしょう。ホワイト議員には、『ノー・カントリー』『アメリカン・ギャングスター』で再びキャリアが活気付いていたジョシュ・ブローリンを起用。悲劇を招く重要な役どころを、強い説得力で演じていてさすがです(オスカー助演男優賞にノミネート)。

 ジャックを演じるディエゴ・ルナは『天国の口、終りの楽園』で一躍注目され、『フリーダ』『ターミナル』等でも存在感を示す個性派。クリーヴを演じるエミール・ハーシュは、ショーン・ペンの監督作『イントゥ・ザ・ワイルド』で実在の冒険家を演じて各賞を受賞した俳優で、見た目のインパクトだけでなく実力も一級のようです。『父親たちの星条旗』『リンカーン』の注目株ジョセフ・クロスも、ディック・パビッチ役で出ています。モスコーニ市長は、『めぐり逢えたら』『タイタニック』のヴィクター・ガーバー。ハウス・ボーイという役で、サントの友人スコット・グリーンがまたもや出演しています。

* アカデミー賞

◎受賞/脚本賞、主演男優賞(ショーン・ペン)

◎ノミネート/作品賞、監督賞、編集賞、衣装デザイン賞、作曲賞

       助演男優賞(ジョシュ・ブローリン)

 

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