死がテーマとなる事が多いサントによる、いわゆる難病物。ただしドラマティックな悲恋物語にはせず、持ち前のスタティックなタッチで淡々と描写しながら、爽やかな感動に満ちたラストへ繋いでゆく点、いかにもサントらしい映画だと言えます。メイン州だった原作の設定も、ポートランド郊外の田舎町に移されました。 主人公だけに見える幽霊など、脚本に超自然的要素がある分、あまり実験的な手法は使わずに、美しく詩的な映像でオーソドックスに仕上げていて好感が持てます。ゴーストがなぜ戦時中の日本の若者なのかは説明されませんが、特攻隊員である青年の存在が、主人公二人の“命”の捉え方に対する絶妙なアクセントになっていて、価値観を相対化する役目を果たしていると言えます。ちなみに原作者ジェイソン・リュウは、このヒロシというキャラクターで絵本も書いていて、映像ソフトのインタビューの中で紹介されています。とても可愛い画風です。 それにしても、何とナイーヴな映画なんでしょう。登場人物が若者である必然性は必ずしもないのですが、若者のデリケートな心にそっと寄り添う事でサントらしい映画になっているのは事実。それを支えるのが、柔らかく、繊細な映像と、やや現実離れした衣装、そして湿度が高く情感豊かなポートランドの風景、浮遊感溢れる優しいタッチの音楽です。全てのセクションが同じ方向を向いているのは、サント組のアンサンブルの良さの表れでしょう。 物語は大きな変化を劇的に描くのではなく、主人公が身近な存在の死、その喪失感を受け入れてゆくという、ただ静かな、静かな変化を、すこぶるナイーヴな感性で描いています。出演者達はそれらの感情を、しばしばセリフではなく、表情や仕草で表現しますが、これはテレンス・マリック監督の手法だという、“沈黙のテイク”が功を奏しているものと思われます。俳優にセリフなしで演技をさせてみるというこのやり方は、俳優自身にも得る所が多いそうで、映画の一部にはそのテイクも使われているとの事。 主人公が涙を流すシーンは、劇中たった一度だけしかありません。抑制の効いたトーンの中にあってこそ、その美しさが生きてくるんですね。ラストの葬儀の場面は、ホッパーが即興でスピーチをしたそうで、その内容は列席者を演じるエキストラ達が涙するほど感動的だったらしいですが、敢えてカットしたとの事。映画を観ると、それが正解だった事が分かります。いつまでも深い余韻が残る、素敵なラストシーン。 |