永遠の僕たち

Restless

2011年、アメリカ (90分)

 監督:ガス・ヴァン・サント

 製作総指揮:エリック・ブラック、デヴィッド・アレン・クレス

       フランク・マンキューソ,Jr

 製作:ブライアン・グレイザー、ロン・ハワード

    ブライス・ダラス・ハワード、ガス・ヴァン・サント

 共同製作:ブレット・クランフォード

 脚本:ジェイソン・リュウ

 撮影監督:ハリス・サヴィデス, A.S.C.

 プロダクション・デザイナー:アン・ロス

 衣装デザイナー:ダニー・グリッカー

 音楽:ダニー・エルフマン

 編集:エリオット・グラハム

 ロン・ハワード助手:ルイーザ・ヴェリス

 スチール撮影:スコット・グリーン

 音響デザイナー、リレコーディング・ミキサー:レスリーシャッツ

 特別協力:ビル・フリゼール

 出演:ヘンリー・ホッパー  ミア・ワシコウスカ

    加瀬亮  シュイラー・フィスク

    ジェーン・アダムス  ルシア・ストラス

    チン・ハン

* ストーリー 

 交通事故で両親を失い、自身も臨死を体験した少年イーノック。以来、日本人の特攻隊員ヒロシの霊が見えるようになり、今では唯一の話し相手となっていた。すっかり死にとらわれてしまった彼は、見ず知らずの故人の葬式に紛れ込むことを繰り返していたが、ある日、それを見とがめられた彼は、参列者の少女アナベルに救われる。彼女は余命三ヵ月であることをイーノックに打ち明け、二人は急速に距離を縮めていく。

* コメント  

 死がテーマとなる事が多いサントによる、いわゆる難病物。ただしドラマティックな悲恋物語にはせず、持ち前のスタティックなタッチで淡々と描写しながら、爽やかな感動に満ちたラストへ繋いでゆく点、いかにもサントらしい映画だと言えます。メイン州だった原作の設定も、ポートランド郊外の田舎町に移されました。

 主人公だけに見える幽霊など、脚本に超自然的要素がある分、あまり実験的な手法は使わずに、美しく詩的な映像でオーソドックスに仕上げていて好感が持てます。ゴーストがなぜ戦時中の日本の若者なのかは説明されませんが、特攻隊員である青年の存在が、主人公二人の“命”の捉え方に対する絶妙なアクセントになっていて、価値観を相対化する役目を果たしていると言えます。ちなみに原作者ジェイソン・リュウは、このヒロシというキャラクターで絵本も書いていて、映像ソフトのインタビューの中で紹介されています。とても可愛い画風です。

 それにしても、何とナイーヴな映画なんでしょう。登場人物が若者である必然性は必ずしもないのですが、若者のデリケートな心にそっと寄り添う事でサントらしい映画になっているのは事実。それを支えるのが、柔らかく、繊細な映像と、やや現実離れした衣装、そして湿度が高く情感豊かなポートランドの風景、浮遊感溢れる優しいタッチの音楽です。全てのセクションが同じ方向を向いているのは、サント組のアンサンブルの良さの表れでしょう。

 物語は大きな変化を劇的に描くのではなく、主人公が身近な存在の死、その喪失感を受け入れてゆくという、ただ静かな、静かな変化を、すこぶるナイーヴな感性で描いています。出演者達はそれらの感情を、しばしばセリフではなく、表情や仕草で表現しますが、これはテレンス・マリック監督の手法だという、“沈黙のテイク”が功を奏しているものと思われます。俳優にセリフなしで演技をさせてみるというこのやり方は、俳優自身にも得る所が多いそうで、映画の一部にはそのテイクも使われているとの事。

 主人公が涙を流すシーンは、劇中たった一度だけしかありません。抑制の効いたトーンの中にあってこそ、その美しさが生きてくるんですね。ラストの葬儀の場面は、ホッパーが即興でスピーチをしたそうで、その内容は列席者を演じるエキストラ達が涙するほど感動的だったらしいですが、敢えてカットしたとの事。映画を観ると、それが正解だった事が分かります。いつまでも深い余韻が残る、素敵なラストシーン。

* スタッフ

 映画ファンなら製作陣の名前を見て、あれ?っと思われるかもしれません。女優のブライス・ダラス・ハワードと、その父のロン・ハワード監督、そのパートナーの製作者ブライアン・グレイザーの名前が並んでいるからです。実は本作、ブライスがニューヨーク大学時代の同級生の脚本に魅せられ、父の会社イマジン・エンターティメントに持ち込んで実現した企画なのです。ロン・ハワード作品の多くで製作も務めるルイーザ・ヴェリスが、久しぶりに彼のアシスタントとしてクレジットされているのも豪華。

 ちなみにロン・ハワードはサントの演出について、「ガスは視覚と感情を重視したアプローチをする。最小限だったり、超現実的だったり、起っている事を視覚的に表すんだ。でも、どれも表現豊かで心動かされるよ」と語っています。

 その脚本家、ジェイソン・リュウはこれがデビュー作となりますが(元は戯曲だそうです)、ハンサムなルックスを活かして俳優としても活動し、村上春樹原作の『神の子どもたちはみな踊る』や『エクスペリメント』などに出演。こういう若者達の脚本や企画を映画にするには、サントは打ってつけの監督という他ありません。何しろ理解と共感の深さが違います。

 撮影のハリス・サヴィデスはこれが6作目のサント作品で、残念ながら最後のコラボとなりました。とても淡い、柔らかな色彩を使って、夢の中のように儚い映像を紡ぐ一方、ロー・キーのほの暗い画面も多く、主人公達の置かれた状況を巧みに表現しています。プロダクション・デザイナーのアン・ロスは、ソフィア・コッポラ作品やMV、CMで活躍してきた人で、いかにもサントらしい人選。『小説家を見つけたら』を手掛けたベテラン衣装デザイナーのアン・ロスとは、姓名とも綴りが違う別人です。

 編集は、前作『ミルク』でオスカーにノミネートされたエリオット・グラハム。音楽も、サントとは5作目のコラボとなるダニー・エルフマンで、ここではまるで環境音のような静かな曲を付けています。挿入曲も、ビートルズの“Two of Us”を皮切りに、スフィアン・スティーヴンス、ニコ等の楽曲がある種の統一したカラーを作り出していて効果的。特別協力には、『小説家を見つけたら』でスコアを作曲したビル・フリゼールの名前もクレジットされています。

* キャスト

 主演のヘンリー・ホッパーは、名優デニス・ホッパーの息子ですが、そのセンシティヴな演技力には驚かされます。決して口数の多いキャラクターではないですから、表情や仕草、あるいは単なる佇まいで何を表現するかが重要な所、彼の自然な立ち振る舞いは、作品に独自の色合いを与えています。

 ミア・ワシコウスカは、出世作の『アリス・イン・ワンダーランド』にいまいちその魅力が出ていませんでしたが、インタビュー映像などで分かる通り、笑顔が実に素敵な女優さんで、本作はそんな彼女の美質を見事に生かした作品だと言えるでしょう(主人公が初めて出会う場面の笑顔をぜひご覧下さい)。相手役ホッパーとの相性も抜群で、本作は二人が醸し出すムードと表現力なしでは成立しなかった作品だと思います。

 加瀬亮は、既にクリント・イーストウッドやミシェル・ゴンドリーの映画に出演していて、海外の映画で見かけても違和感がない感じですが、今回の役は彼の持ち味にもよくフィットしていて、所在なげな佇まいや物静かでナイーヴな雰囲気が生かされた好演だと思います。英語の発音も自然に感じられます。

 アナベルの姉エリザベスを演じたシュイラー・フィスクも、テレンス・マリック監督作のプロダクション・デザイナー、ジャック・フィスクと『キャリー』の女優シシー・スペイセクの娘。その母親役ルシア・ストラスや、イーノックの叔母メイベルを演じるジェーン・アダムスも素晴らしい演技を見せてくれますが、印象に残るのがアナベルの主治医を演じるチン・ハン。『ダークナイト』や『2012』などの大作でアジア人キャストとして大いに気を吐いている人ですが、本作でも落ち着いた立ち振る舞いと低いバリトン・ヴォイスで、作品に独自の色合いを与えています。

 

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