プロミスト・ランド

Promised Land

2012年、アメリカ (106分)

 監督:ガス・ヴァン・サント

 製作総指揮:ガス・ヴァン・サント、ロン・シュミット

       ジェフ・スコール、ジョナサン・キング

 製作:マット・デイモン、ジョン・クラシンスキー

    クリス・ムーア

 共同製作:イザベル・フリール

 脚本:ジョン・クラシンスキー、マット・デイモン

 (原案:デイヴ・エッガース)

 撮影監督:リヌス・サンドグレン, F.S.F.

 プロダクション・デザイナー:ダニエル・B・クランシー

 衣装デザイナー:ジュリエット・ポルクサ

 音楽:ダニー・エルフマン

 編集:ビリー・リッチ

 スチール撮影:スコット・グリーン

 リレコーディング・ミキサー:レスリー・シャッツ

 特別協力:ピエトロ・スカリア

 出演:マット・デイモン  フランシス・マクドーマンド

    ジョン・クラシンスキー  ローズマリー・デウィット

    スクート・マクネイリー  タイタス・ウェリヴァー

    ハル・ホルブロック

* ストーリー 

 大手エネルギー会社の幹部候補スティーヴは、相方のスーと田舎町マッキンリーを訪れる。ここは良質なシェール・ガスを埋蔵しており、その採掘権を町ごと買い占めるのがスティーヴの任務だった。農業しかないこの町で、不況に喘ぐ農場主たちを説得するのは容易なことと思われたが、地元の老教師が反対の狼煙を上げ、採掘の可否は住民投票にかけられる事になる。さらに、謎の環境活動家がどこからともなく乗り込んできて、スティーヴは思わぬ苦境に立たされる。

* コメント  

 『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』『ジェリー』に続き、再度マット・デイモンが執筆したシナリオをサントが映画化。やはりデイモン自身が主演しています。しかし、共同執筆者がそれぞれ違うせいか(どれも共演者ですが)、作品のテイストが全て異なっているのがユニークで、そこには同時に、デイモンの脚本家としての多様な資質も表われています。

 本作は、『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』のような感動ドラマではないし、『ジェリー』のようなスケッチ風のスタイルでもなく、主人公がある田舎町で行う営業活動の進展と挫折を、あくまで静かに、淡々と描くもの。ただ、恋愛ドラマの進展が最優先に来ない所は『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』と通底しています。

 サント作品の常として、視点が中立に置かれているのは変わらない所で、住民や環境団体の抵抗を描きながらも、それを進める立場の主人公達は決して悪人には見えないし、いずれの立場や主張もあくまでさらりと示されています。後半である事実が示され、主人公は決断を下す事になる訳ですが、それも殊更ドラマティックに強調されるのではなく、むしろ、資本主義社会ではよくある駆け引きの一例という程度のドラマ・メイキングではないかと思います。

 デイモンは「答えるというより、問いかける映画。はっきりとした答えを与えてくれる映画じゃない」と言っていますが、それで良いと思います。大手サイトでサント作品の利用者レビューを覗いてみると、一番多いのが「結論を避けている」「観客に丸投げだ」という批判です。私はしかし、彼の作品が何らかの答えを提示したからといって、観た人がすっきりしたり、満足したりするとは思いません。本作には、人々の生活をいわゆる「神の視点」からそっと見つめる映像が何度か挿入されますが、その視線はそのまま、作り手側の中立の立場を表しているように感じます。

 サント作品のテイストには、自然派製品のような独特の優しい手触りがあるので、こういう題材にはうってつけと言えるでしょう。本作では、メイン・スタッフが次世代の若手に一新された感もありますが、撮影のサンドグレンと組んだヴィンテージ風の映像スタイルは、過去のサント作品のイメージとも、脚本のテーマとも合致しています。流れる雲の映像も健在。

* スタッフ

 製作総指揮の一人ジョナサン・キングは、『小説家を見つけたら』でもサントと組んだ人。共同でプロデュースに当たっているジェフ・スコールが社会をインスパイアする映画製作を目的に設立したパーティシパント・メディアで、長編映画部門の責任者を務めています。『マダム・マロリーと魔法のスパイス』で共同製作を務めたスピルバーグ作品では、『リンカーン』『ブリッジ・オブ・スパイ』を製作。脚本、出演を兼ねたデイモン、クラシンスキーも製作に名を連ねますが、彼らと共同でプロデュースに当たっているクリス・ムーアは、『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』でも共に製作に加わった人です。

 撮影のリヌス・サンドグレンは、スウェーデン映画やCM、MVに携わってきた若手。デヴィッド・O・ラッセル監督『アメリカン・ハッスル』『ジョイ』、ラッセ・ハルストレム監督『マダム・マロリーと魔法のスパイス』も手掛けていますが、ミュージカル『ラ・ラ・ランド』がキャリアの飛躍となったかもしれません。本作で彼は、アメリカのヴィンテージ的な側面をイメージし、ライカ社のキャメラとコダクロームのフィルムで自然光撮影を行った上、現像の際にフィルムを引っ張るパルプ処理という手法を用いています。これによって、きめ細かな画像を維持しながら、全体をはっきりさせるとの事。

 衣装デザイナーのジュリエット・ポルクサもこれに倣い、主要キャストにはできるだけ私服を用意してもらうという、斬新なアプローチを採用。教師を演じるホルブロックが着ているベストは、ポルクサ自ら夫のクローゼットを整理して見つけたものだそう。プロダクション・デザイナーのダニエル・B・クランシーも、ロン・ハワード監督『僕が結婚を決めたワケ』に抜擢されたばかりの新進。ポルクサの「心地よいパレット」に同調させるため、セット美術から乗り物に至るまで、ワイエスの絵画のような色調で、古くて本物っぽいものを追求しました。さらに作品のテーマを強調するため、できる限り全ての場所に水を配置したとの事。

 編集のビリー・リッチは、『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』『追憶の森』でサントと組んでいるピエトロ・スカリアの元で腕を磨いてきた人。本作が独り立ちの一本目だそうですが、この数年後には、スカリアの助手として何度も組んだリドリー・スコット監督の『エクソダス:神と王』も単独で手掛けています。音楽は、サントとのコラボ6作目となるダニー・エルフマン。サント作品では、強いメロディを持たない脇役に徹したスコアが多いのが残念ですが、作品にはうまくマッチしているようです。

* キャスト

 主演のマット・デイモンは、ここでもサント作品らしい淡々とした芝居が功を奏し、作品の内容をストレートに伝えて、強い存在感と確かな演技力を見せます。相棒のスーには、コーエン兄弟監督作をはじめ演技力に定評のあるフランシス・マクドーマンドを起用。あまりセリフに頼らず、表情や佇まいだけで感情を伝える役柄ですが、彼女のニュアンスの多彩さは凄いという他ありません。

 地元の女性アリスには、ジョナサン・デミ監督『レイチェルの結婚』で演じたタイトル・ロールがとても印象的だった、ローズマリー・デウィット。こういう優しくて穏やかな雰囲気の女優さんはハリウッドでは稀少で、ルックス面でも演技面でも、サント作品とは相性が良いように感じました。スーの相手役となる雑貨店主ロブには、世界的な風景画家ニール・ウェリヴァーの息子で、TVシリーズ『LOST』の黒服の男役でも注目を集めたタイタス・ウェリヴァー。

 環境活動家ノーブルを演じるのは、脚本をデイモンと共同執筆したジョン・クラシンスキー。『ジャーヘッド』『ドリームガールズ』『だれもがクジラを愛してる』などの他、『シュレック3』など声の出演も数作ある、意外に芸風の広い人です。ここでは抑制されたフラットな芝居で好演していて、必要以上に主人公への敵対心を強調したり、感情を剥き出しにしたりしないのがサント作品らしい所。又、『ジュリア』『ウォール街』『リンカーン』等のベテラン、ハル・ホルブロックが地元の教師を演じていて存在感満点。

 

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