日本では有名な、富士山麓の樹海を舞台にした、ミステリアス・ドラマ。胸を引き裂くように悲しいけれど、同時にとても暖かい話で、サント作品としては久々の感動作となりました。日本にやってきた主人公が樹海へ入ってゆき、逆に森から出ようとしている日本人と出会うお話。そこへフラッシュバックで、なぜ主人公がここへやってきたのかを回想形式で挟んでゆく構成です。大自然からの脱出というプロットは、サント作品としては『ジェリー』を想起させるものですが、本作はずっとドラマティックで、伏線や起承転結のある脚本になっています。 最後に辿り着く真実に関しては、あちこちにヒントが散りばめてあるので、勘の良い人ならすぐに類推できるかもしれません。『シックス・センス』などもそうですが、優れた映画はオチが全てではなく、何度観ても味わい深い作品になっているものです。本作もそうで、展開が分かっていても演出や芝居の妙を堪能できる、素敵な映画だと言えるでしょう。特に、思わず感情が溢れる場面や、真相を知った時に何とも言えない微笑みを垣間見せる、マシュー・マコノヒーの滋味豊かな芝居は絶品。 前衛的な手法こそ封印していますが、淡々とした語り口や、『永遠の僕たち』辺りから顕著になってきた、オーガニックの無添加食品みたいに純度の高い、洗練されたスタイルはサント作品らしい所です。前作『プロミスト・ランド』に続いて北欧の若手シネマトグラファーを起用し、クリアに澄み切った映像センスを生かしているのも好感触。 唯一、交通事故の場面だけは、映画を盛り上げるためにひと捻り加えた感じで、作為的な不自然さがあって全体のトーンにそぐわないし、素材に対するサントの平素の姿勢を鑑みても、違和感を拭えないのが残念です。それ以外は、「言葉が生きている」素晴らしい脚本で、ダイアローグが生きているからキャラクターに血が通ってくるし、人物の背景も透けて見えるという優れたお手本です。 樹海の場面と回想シーンが頻繁に交替する編集ながら、微妙な緊張感を保って継続する音楽が、各シーンを統一したトーンで連結していて、全体を大きな流れで一気に観せてしまいます。日本を舞台にしているせいか、『シックス・センス』と同様、東洋的な死生観を根底に置いた作劇ですが、今の時代、宗教や国籍を越えて、こういう考え方は喪失感に打ちひしがれる人々の背中をそっと押す事になるのかもしれません。その意味で、主人公の職業を科学者に設定しているのは、偶然ではないだろうと思います。 カンヌ国際映画祭パルムドールにノミネート。 |