キャメロン・クロウがライフワークとして追いかけてきた、90年代シアトル発グランジ・ムーヴメントのパイオニア、パール・ジャムの軌跡を追う傑作ドキュメンタリー。元音楽ライターだったクロウだけあって、一時期だけバンドの活動に密着したような短期間パッケージではなく、デビュー前の貴重な映像から20年間のライヴのハイライト、カート・コバーンをはじめ周辺人物も含めた細かなインタビュー映像など、バンドの全てを描き尽くさんとする圧巻の仕上がり。クロウの取材にとっても、パール・ジャムや彼らのファンにとっても、集大成と言える作品ではないでしょうか。 私個人は、どちらかというとファンクの要素も入ったオルタナティヴ・ロックの方に食指が動くので、中間的な色彩のグランジ・ロックにはあまり惹かれないのですが、キャメロン・クロウの映画のサントラを思い起こせば、いかにも彼好みの音楽という感じ。でも音楽的趣向や好みとは別に、ドキュメンタリーとして見てもこれは、実に素晴らしい内容です。 映画監督だけあってドラマ・メイキングのセンスは傑出しており、中盤で一旦メンバーの出会いのエピソードに戻り、どこかバンドの原点回帰の雰囲気を出したり、初期メンバーの薬物中毒死のエピソードや、チケット販売会社との戦い、ロスギルデ・フェスでのファン圧死事故に触れるなど、変化に富む構成で一般の映画ファンも飽きさせません。映像ソフト(特に3枚組のデラックス・エディション)には、特典映像としてさらに補完的なドキュメントが収録されており、こちらもファン必見といった所。 音楽ファンにとっては、初期の頃にパール・ジャムを批判したニルヴァーナのカート・コバーンに取材している上、そのカートとエディ・ヴェダーが抱き合って踊る場面や、彼の批判があったからこそ、自分たちは道を踏み外さずに済んだというメンバーのコメントなど、心打たれる場面も多々あります。又、ニール・ヤングとの共演映像や、盟友サウンドガーデンのクリス・コーネルがインタビューにたっぷり答えているのも、音楽ファンには嬉しい所でしょう。 音楽に対して、そして何よりも人として、不器用なまでに誠実な姿勢を貫いてきたパール・ジャムというバンドは、その面においても、キャメロン・クロウが惹かれる要素を強く持っている気がしました。彼らがお互いに旧知の仲として親交を温めてきた事、ジャーナリストとミュージシャンという関係を越えた友情が、この作品のそこここに溢れ出ています。 製作スタッフは、やはり映画作品のそれと顔ぶれが異なりますが、ケリー・カーティスは『シングルス』のプロデューサーで、『あの頃ペニー・レインと』でも技術コンサルを務めています。注目したいのは複数クレジットされている、追加(補完?)キャメラ。クロウの奥さんで歌手のナンシー・ウィルソンの名前もある他、『あなたが寝てる間に…』『フェノミナン』『サイドウェイ』等の撮影監督フェドン・パパマイケルが参加しているのは贅沢。 |