興行面でも世評でも、スピルバーグ初の失敗作。それも膨大な製作費を掛けた途方もない大失敗作として悪名高い映画で、やれ「笑えない」だの「騒々しいだけ」だの散々酷評されたものですが、私はこの映画、昔から結構好きでした。もっとも、世代的にリアルタイムでは観ておらず、この映画の事を最初に知ったのはあるテレビ番組。SFXという言葉が注目されはじめた80年代中頃、ホラー映画の特殊メイクやSFの合成処理など、映画の特撮をクローズアップした特番が時々あって、その中でよく、軸を外れた観覧車が桟橋を転がって海に落ちる本作の一場面が取り上げられていたのです。 公開当時は、『ジョーズ』『未知との遭遇』で世間を驚かせた新鋭が次は何を撮ったかと、誰もが興味津々だったに違いありません。回答は“戦時の混乱を描いたコメディ”でしたが、大規模な仕掛けが多い割に軽妙なテンポが出ず、ギャグも軒並み空回りする印象で、コメディとしては確かに失敗しているようです。いかなスピルバーグ・フリークでも、本作を真正面から擁護する事は難しいかもしれません。恐らく問題は、群像劇が散漫でドラマの焦点が定まらない事で、一つでも軸となる力強いストーリーがあれば良かったのでしょうね。前後して公開された『アニマル・ハウス』や『ブルース・ブラザーズ』など、コメディに関しては(数年後に損な役回りを演じる事になる)ジョン・ランディス監督の方が遥かにセンスが良い、というのが正直な感想です。 けれども私はというと、普通に映画として、本作を面白いと思うのです。スピルバーグのフィルモグラフィの中でもひときわ異彩を放つ怪作として、少なくとも『カラーパープル』や『太陽の帝国』よりはよほど親しみが持てます。どちらかというと、コメディ色がさほど出ていない場面は概ねうまく行っているようです。例えば、ダンス・ホールで繰り広げられる喧嘩のシーンは、役者達のアクロバティックなアクション、音楽とキャメラをシンクロさせた音楽的な編集が見事だし、ビル群の谷間を駆け抜ける飛行機のチェイス・シーン、前述の観覧車のシーンも、当時のミニチュア技術の粋を存分に堪能できる楽しいシーンです。 逆に、これは許容が難しいと思えるのが、冒頭の『ジョーズ』のセルフ・パロディ、空港での爆発シーン、三船敏郎を始めとする日本人キャストが中心となった潜水艦のシーン辺りでしょうか。これらのシーンの空回り感は、他の場面にすら悪影響を与えてしまっている気がします。演出のタッチ、特に役者の芝居が重すぎるのも問題です。 スピルバーグは後にスペシャル・エディションの特典映像で、「ヨーロッパでは評価された。時代に早すぎたのだと思う。混乱の原因は、自分が作品に対するヴィジョンを持っていなかった事。ビッグバンド風のナンバーを8つ入れて、ミュージカルにしようとしたりした。作者のゼメキスが監督すべきだったが、当時の彼はまだ監督経験がなかった」と自己分析しています。ちなみにこのスペシャル・エディションのLDボックス、充実した特典映像と145分の完全版本編が収録されたファン垂涎のアイテムですが、DVDでは本編(完全版)しか収録されていないのが無念の限り。是非とも完全版/劇場公開版と映像特典を全て収録したブルーレイ化を熱望します。 時に、そのゼメキス曰く「この映画を誇りに思っている。責任は感じたが、三船敏郎とクリストファー・リー、スリム・ピケンズが一つの画面の中にいるだけでも楽しいじゃないか。シニカルなブラック・コメディを意図していたが、配役や演出の関係でスクリューボール・コメディに変わってしまった」。共作者のゲイルも「過小評価されている作品。コロムビア、ユニヴァーサル両会社は元は取っているし、失敗作ではない」と語っています。膨大な製作費に恐れを成し、リスクを分け合った両メジャー・スタジオですが、期待されたメガヒット、つまり前二作が成し遂げた歴史的興行収入に及ばなかったというだけで、収支はそこそこ黒字だった訳です。 |