PLANET OF THE APES 猿の惑星 

Planet Of The Apes

2001年、アメリカ (120分)

 監督:ティム・バートン

 製作総指揮:ラルフ・ウィンター

 製作:リチャード・D・ザナック

 共同製作:カッターリ・フラウエンフェルダー、ロス・ファンジャー

 脚本:ウィリアム・ブロイルズ,Jr

    ローレンス・コナー、マーク・ローゼンタール

 (原作:ピエール・ブール)

 撮影監督 : フィリップ・ルースロ, A.F.C., A.S.C.

 プロダクション・デザイナー:リック・ヘインリックス 

 衣装デザイナー:コリーン・アトウッド

 編集:クリス・リーベンゾン

 音楽:ダニー・エルフマン

 出演:マーク・ウォルバーグ  ヘレナ・ボナム・カーター

     ティム・ロス      マイケル・クラーク・ダンカン

    エステラ・ウォーレン   クリス・クリストファーソン

    ポール・ジャマッティ   ケリー・ヒロユキ・タガワ

    デヴィッド・ワーナー   リサ・マリー

    グレン・シャディックス  チャールトン・ヘストン(カメオ出演)

* ストーリー 

 西暦2029年。宇宙ステーション・オベロン号は宇宙空間に異常を発見。特殊訓練を受けたチンパンジーのペリクリーズを乗せた探索機は交信不能となり、とりわけペリクリーズを可愛がっていた宇宙飛行士レオは、上司の判断に逆らって自らも別の探索機に乗り込む。しかし時空の裂け目に飛び込んだ探索機は、制御不能に陥って付近の惑星に墜落。何とか脱出したレオは、地球と似た環境のジャングルで、言葉を喋る猿達に追い立てられる人類の姿を目撃したのだった。

* コメント    

 続編も多く製作されて大ヒットしたSF映画『猿の惑星』を、バートンがリメイク。といっても、本作は単なるリメイクではなく、自らの解釈によるリ・イマジン(再創造)だと言っています。いわば、プロットの大枠だけを借りて全く別のストーリーを作り上げた体裁で、登場人物や舞台も一新、旧作では言葉を喋れなかった人間側もちゃんと喋ります。伝説となった衝撃のラストシーンも、新バージョンへと変更。

 ひとことで言って、非常にハードなタッチの映画で、音楽も編集も、全編に渡って緊迫した雰囲気を持続させています。演出も正攻法でオン・ビート、いわゆる“バートン風”のユーモアやデフォルメはほとんどなく、ブラインドで上映したら誰もバートンの監督作だと分からなっただろうと思います。人間と猿が主従転倒しているという設定自体が奇抜なので、演出はギミックなしで良いと判断したのかもしれません。しかし、やはり彼の映画にはある種のバカバカしさが必要というか、大人っぽい態度を取られると別人の映画に見えてしまうようです。

 本作の硬質な感触は、脚本を書いたウィリアム・ブロイルズの体質もあろうかと思われます。『アポロ13』など実話物やリアリスティックな作品が多い人で、彼の初稿はあまりにSF色が強すぎるというので、他の脚本家にリライトされました。美術デザインも実にユニークで独創的なものですが、過去のバートン作品を想起させる雰囲気ではありません。唯一、砂漠の中に立つ猿の案山子だけは、アニメっぽいデザインでバートン風。

 バートンらしさにこだわらなければ、見応えのある映画ではあります。シネスコの画面を使い、スケールの大きな映像を構築していますし、スピーディで緊張感溢れる場面展開も見事。人間側と猿側の双方に個性派が揃った俳優陣の、真に迫った芝居も大変に迫力があります。猿が支配する惑星となった経緯は巧妙に設定されていて、その理由が判明する場面は一つのハイライトとなっていますが、“謎が明かされる”場面というもの自体がバートンの映画では珍しく、前作『スリーピー・ホロウ』まではそういった作劇で見せる作品はなかったかもしれませんね。クライマックスは、これもバートン映画には珍しい、大規模な戦闘シーンです。

 オリジナル版とは違う方向にひねったラストはユニークで、シニカルなユーモアも漂いますが、悪夢から逃れられないような絶望的な気分にさせられる点は、旧作と共通しています。ただ、ひねりの効いたオチというのも又、過去のバートン作品にはほとんどないので、必ずしもこのラストもバートンらしいとは言えないのが面白い所。又、このラストは、なぜそうなったのかが説明されていないので、本編の見事な物語構成と違って、やや効果を狙った感が無きにしもあらずでしょうか(頭の良い人ならうまい説明をつけられるのかもしれませんが)。

* スタッフ

 製作のリチャード・D・ザナックは、オリジナル版のプロデューサーも務めたベテラン。映画史に残る数々の名作を手掛けてきた彼ですが、本作で出会ったバートンは特別な存在と公言していて、本作以降のバートン作品も一手に引き受けています。「撮影中、彼が座っている所を見た事がない。ものすごいハードワーカーだよ。真の天才なのに人間としても素晴らしい、両徳を兼ね備えた稀な資質の持ち主だ」。製作総指揮のラルフ・ウィンターもバートンを絶賛しています。「彼の情熱を見ればこちらも熱くならざるを得ないさ。ミーティングの時だろうが、廊下だろうがどこだろうが、いつも物語について思案している。それが皆の士気を高めるんだ」。

 脚本は、ニューズウィーク誌の編集長やエスクァイア誌の顧問編集者も務めたウィリアム・ブロイルズ・ジュニア。ジャーナリスト出身らしく『アポロ13』や『キャスト・アウェイ』など、リアルな感触の作品が得意な印象です。ザナックとバートンは、彼の初稿はSF色が強すぎると感じ、『マーキュリー・ライジング』『マイティ・ジョー』などのコンビ、ローレンス・コナー&マーク・ローゼンタールにリライトを依頼しています。

 撮影監督は、フランス人のフィリップ・ルースロ。英国やハリウッドに活躍の場を移し、『リバー・ランズ・スルー・イット』でオスカーに輝いた名手ですが、その映像美には定評があります。シネスコ・サイズの本作では、アナモフィック・レンズを使って壮大な画面を作りながら、最小限の照明機材で撮影を行ってプロデューサーを驚かせました。

 プロダクション・デザインは、『スリーピー・ホロウ』でオスカーに輝いたリック・ヘインリックス。バートン的なデフォルメこそ控えめですが、冒頭の宇宙船から、モン・サン・ミッシェルを思わせる外観のエイプ・シティ、神殿のようなその内部、砂漠の野営キャンプ、カリマ遺跡などなど、目を見張るデザインの数々は垂涎もの。一方で、巻き貝みたいな形状のヘルメットなど、バートン自身の初期スケッチがそのまま採用されている部分もあります。衣装デザインは、バートン作品を多く手掛けるコリーン・アトウッド。俳優の顔がメイクに隠れているので、階級や役職が分かる彼女の衣装は、キャラクターの判別や性格表現に大きな役割を果たしています。

 特殊メイクは、この分野の第一人者リック・ベイカー。『エド・ウッド』でもバートンと組んでいますが、バートン風のアニメチックな猿にはしない事を条件に参加し、数百体の個性の異なる猿を造型しました。ある面において、本作はリック・ベイカーのメイクを鑑賞する映画だとも言えるでしょう。特殊メイク業界の人は猿が好きな人が多く、ベイカーも本作を「特殊メイクのアーティストなら一度はやってみたい仕事」だと言っています。

 ダニー・エルフマンの音楽も本作ではシリアス一辺倒で、ユーモラスなアイデアはなし。何十種類もの打楽器を重ねたプリミティヴなサウンドは、映画全体の硬質なタッチを増幅させています。楽器編成は通常と逆で、打楽器と金管がメインで弦楽器が少ない、妙なオーケストラになってしまったとの事。例によって非常に印象的なオープニング・タイトルでは、原始的な打楽器のリズムが鳴り渡るサスペンスフルなテーマ曲をたっぷり聴く事ができます。

* キャスト

 スタッフ同様、キャストも多くがティム・バートンの映画ならという事で集まった人々です。主演のマーク・ウォルバーグなど、脚本も読まず、自分が主役かどうか知らないまま契約書にサインしたそうです。バートンと仕事が出来るならどんな役でも良かったとの事。彼の抑制が効いた演技は共演者の間でも評判が高く、作品にリアルな感触を与えています。

 セード将軍を演じたティム・ロスは、内部に凄まじい怒りとエネルギーを溜めた演技で迫力満点。タランティーノ作品などで演じてきた悪役とはひと味違う、パワフルな芝居を見せてくれます。彼も又、題材には興味が無かったのにバートン作品と聞いて即座に心変わりしたとの事。こういう発言をする俳優は非常に多く、彼らが共通して言うのは、映像センスに秀でた監督は俳優にとって良い監督でない場合も多いが、バートンは皆の意見に耳を傾け、そのアイデアも取り入れる珍しいタイプだという事。

 猿側のヒロインを演じたヘレナ・ボナム=カーターは、全編を通じて存在感があり、非凡なセンスを感じさせます。シリアスな登場人物の中で、唯一ユーモラスな性格を与えられているポール・ジャマッティは、軽快な演技を展開。『グリーン・マイル』のマイケル・クラーク・ダンカンや『ラスト・エンペラー』のケリー・ヒロユキ・タガワなど、非白人のキャストも個性的なキャラクターの造型に一役買っています。彼ら猿人側のキャストは、猿の動きをマスターするために特設スクールに通わされており、セリフ回しだけでなく身体表現にも注目したい所。

 人間側のヒロイン、エステラ・ウォーレンはモデル出身らしい美しい容貌で目立っていますが、何と彼女、シンクロナイズド・スイミングのカナダ代表としてオリンピックの出場経験があるとの事。さらに、旧作の人間側ヒロイン、ノヴァを演じたリンダ・ハリソンは、当時製作者ザナックの恋人で、後に結婚・離婚していますが、本作にも、主人公がエイプ・シティに連れて来られる場面で少しだけ顔を見せています。近年は女優業をほとんどやっていない彼女ですが、元夫が製作する作品には時々出演しています。

 そのノヴァという役名は、本作ではオランウータンの元老院議員ネードの妻に引き継がれ、その役を当時のバートンの恋人リサ・マリーが演じています。彼女が、この後バートンの新しい恋人になるボナム=カーターと一緒のシーンに出演し、二人して猿のメイクで食卓に着いているのは不思議な光景ですね。ちなみに夫の議員を演じているのは、『ビートルジュース』のグレン・シャディックス。

 名優デヴィッド・ワーナーも猿のメイクで政治家サンダーを演じていますが、映画の公開前から大きく注目されたのが旧作で主演したチャールストン・ヘストンのカメオ出演。セード将軍の父親役という事で、今回は猿側の配役でした。他には、『チャーリーとチョコレート工場』でウンパルンパとして大活躍するディープ・ロイが、セード将軍の姪とゴリラ・キッドの二役で出ています。

 

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