ジョージ・ミラー

George Miller

* プロフィール

 1945年3月3日、オーストラリアのクイーンズランド生まれ。ニューサウスウェールズ医科大学に進み、医師免許も取得。しかし生来の映画好きが高じ、同大学で建築を学んでいた弟と学生映画コンテストに応募してグランプリに輝く(クローズアップにした男の頭部が爆発するという60秒のショートショート)。

 これがきっかけでプロデューサーのバイロン・ケネディと知り合い、意気投合して短篇『映画の中の暴力パート1』を製作。暴力描写に関する講義がショットガンによる実演と化す14分の作品で、シドニー映画祭、カンヌ国際映画祭、モスクワ映画祭にも出品され、オーストラリア映画協会賞を受賞。72年にケネディ・ミラー・プロダクションズを創設。74年に60分のTV作品『イブニング・ドレスを着た悪魔』も成功を収める。

 2人は劇場用映画の計画を立て、79年に『マッドマックス』を製作。低予算であったため、救急医療の仕事をしながら準備を進めたが、その経験も映画に盛り込まれている。映画はオーストラリアの興業史を塗り替える大ヒットを記録。大した宣伝がされなかったアメリカを除き、世界各国でも大ヒットとなった。続編も製作され、こちらはアメリカでもヒット。スピルバーグから監督を依頼された『トワイライト・ゾーン/超次元の体験』第4話で演出力が注目され、『イーストウィックの魔女たち』『ロレンツォのオイル/命の詩』を監督。

 しかしオーストラリアに戻って製作、脚本を担当した『ベイブ』が大ヒット、米アカデミー賞7部門にノミネートされ、続編は自身で監督。さらに初のCG映画『ハッピーフィート』もアカデミー長編アニメ賞を受賞し、続編も製作・監督。かねてから噂されていた『マッドマックス/怒りのデス・ロード』も大きな話題を呼び、またもやアカデミー賞10部門にノミネート、6部門で受賞。

 88年、オーストラリア人として初めてカンヌ国際映画祭の審査員に選ばれた他、89年には東京国際映画祭の審査員も務める。製作者として名を連ねるビル・ミラーは実弟、編集のマーガレット・シクセルは奥さん。ちなみに、『マッドマックス』でグースが運び込まれるのが、ミラーがかつて働いていた病院との事。

* 監督作品リスト (作品名をクリックすると詳しい情報がご覧になれます。)

 1979年 『マッドマックス』 

 1981年 『マッドマックス2』 

 1983年 『トワイライトゾーン/超次元の体験』〜第4話

 1985年 『マッドマックス/サンダードーム』(共同監督)

 1987年 『イーストウィックの魔女たち

 1992年 『ロレンツォのオイル/命の詩

 1998年 『ベイブ/都会へ行く』 

 2006年 『ハッピーフィート』(共同監督)

 2011年 『ハッピーフィート2/踊るペンギンレスキュー隊』(共同監督)

 2015年 『マッドマックス/怒りのデス・ロード』 

 2022年 『アラビアンナイト/三千年の願い』  開通予定

* スタッフ/キャスト

 ジョージ・ミラーの映画を支えるスタッフ、キャストたち

* 概観

 『マッドマックス』で世界的に認知された人なので、シリーズの熱狂的なファンも多く、ヴァイオレンスやカー・アクション、デザインの観点ばかり語られてきた印象がありますが、実際には彼のフィルモグラフィーの中でヴァイオレンス・アクションは、ジャンルとして少ない部類に入ります。『ベイブ』や『ハッピーフィート』は大ヒットしただけでなく、賞レースに絡むほどの良作でしたし、『ロレンツォのオイル/命の詩』もアカデミー脚本賞にノミネートされています。

 ジョージ・ミラーが凄いのは、激しいアクションを演出できるからではなく、誰にも真似できない独創的な世界観を構築し、独自のユニークな映画語法でストーリーを語る事ができるからです。彼の語り口は非常に個性的で、ストーリーテリングにおいて何を重要視するかという基準が、一般的なそれとかなり違います。際立っているのは「省略」の手法で、説明的な描写を取っ払い、ぶっきらぼうなまでに断片的で力強いカットを積み上げて行くやり方は独特。

 そのためどの作品も、観客が作品のリズムを掴むまでに少しコツがいるかもしれません。例えば、構成に無駄がないミラー作品では、しばしば前置きなしに本題へ入ります。それは『ベイブ』や『ハッピーフィート』のように、一見ファミリー映画の顔をした作品でも例外ではありません。説明が全くないまま、有無を言わさずダイナミックな物語の渦に観客を巻き込み、その勢いで翻弄してしまうケースが多い。

 

 ミラーの映画作りにおいて特徴的なのは、小道具やキャラクター設定など、ディティールに徹底的にこだわり、膨大なバックストーリーを設定しておきながら、出来上がった映画にほんの一部しか反映しない点です。そもそもセリフも少なく、説明的な描写がほとんどないのですが、それなのに突拍子もない描写が当たり前のように展開され、意味ありげなディティールが溢れ返るため、細部まで完全に出来上がった世界が眼前に現出する訳です。

 ものすごく非効率的で無駄だらけの作り方なのに、完成した作品には無駄がない。それがミラー作品の豊穣な世界の秘密だと言えるでしょう。『マッドマックス』シリーズはその代表的なもので、「なんだコレは?」という不思議な描写が頻出し、後でパンフレットやメイキング映像を見ると詳しい裏設定があったりする。そんな事、映画の中で説明してくれなければ観客は分かりません。ミラーによれば、別の脚本をもう1本作れるほどのバックストーリーがあるそうですが、それを生かさない大胆さが凄いです。

 

 題材の選び方は一貫性が無いようにも見えますが、映画を観ればそれらを同じ監督が作った事にも納得がゆきます。その点は、自身で製作と脚本も兼ねているメリットと言えるでしょう。「不屈の精神」は、ミラー作品で繰り返し描かれるテーマで、彼の映画の主人公は、自分より遥かに強大な相手に立ち向かってゆく点で共通しますが、大抵は何の取り柄も無い、ごく普通の人間(や動物)です。

 医師として無惨な事故現場に多く立ち会った経験が『マッドマックス』を産み、そのシリーズで豚を扱った事が『ベイブ』に繋がり、医師としての使命感が『ロレンツォのオイル/命の詩』、故郷で育まれた大自然への畏怖が『ハッピーフィート』に生かされるという、人間としてのごく自然な希求が映画作りに繋がっている点に注目。その意味では、ハリウッドでの外部請け負い仕事は異色の感があります。

 

 暴力的な映画を撮るの印象が強い人ですが、スタッフやキャストはみな「穏やかで優しい人。声を荒げる所は見た事がない」と言います。これほど才能があって心優しい彼が、難病ドラマやファミリー・アニメを撮るのは、別におかしな事ではないのでしょう。『マッドマックス2』の出演者ヴァーノン・ウェルズは、「彼の映画は『マッドマックス』と全然違う世界観の作品も全部大成功してるだろ? 彼と一緒にいると、それが全然矛盾していないって事が分かるんだ」と語っています。

 生身の危険なアクションを多用してはいますが、さすがは元医者だけあって安全性には徹底して配慮しています。アクション描写のこだわりはすこぶる強く、どの場面も監督の頭の中に完璧な画があって、少しでも早く車が通り過ぎたりすると最初からやり直していたという証言も。又、『マッドマックス』の出演者が言うようにミラーは黒澤明の影響も受けていて、要塞を守る2作目のシンプルな設定や、3作目の映像的構図にはそれが強く出ています。

 

 スタッフ・ワークは外部作品を除けばオーストラリアの人材を活用していて、初期作品のスタッフが色々な部門で関わり続けている点に、人を大切にするミラーの姿勢が窺われます。彼は共同作業が好きな人で、複数で監督に臨んだ作品も幾つかあるし、『ベイブ』第1作では脚本と製作のみで裏方に回るなど、チームでの映画作りを強く意識しているように見受けられます。

 『マッドマックス/サンダードーム』を共同監督したジョージ・オグリヴィーには、演劇の工房理論を映画製作に持ち込むよう依頼しており、この時期からTVシリーズも含めて、スタッフ、キャストが一同に会して議論しながら製作を進めるスタイルを取り入れています。なのでミラー作品では、各部門のスタッフが共同製作者にクレジットされている例がしばしば見られます。

 俳優との仕事もスムーズで、衝突やトラブルの話は伝わってきません。当初からアドリブ演技を多く取り入れていて、初期作品から最新作に至るまで出演者はみな「俳優を信頼している監督なので、かなり自由に演じさせてくれる」と語っています。又、『ハッピーフィート』ではアテレコを個別に行わず、俳優を集めて一斉に声の収録をしています。

《関連書籍》

『マッドマックス・ムービーズ 近未来バイオレンス映画大百科』

  編:ギンティ小林&市川力夫+映画秘宝編集部 (洋泉社)

『メイキング・オブ・マッドマックス 怒りのデス・ロード』

  著:アビー・バーンスタイン 訳:矢口誠 (玄光社)

 

Home  Back