インディペンデント系の印象が強いサントですが、『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』のヒットとアカデミー賞ノミネートで、広く名前の知られる映画監督となりました。しかし、彼の作品群を振り返ってみると、やはりそのフットワークの軽さ、自由さは、ハリウッドのメインストリームと異質という感じがします。それは、『誘う女』『サイコ』『小説家を見つけたら』と、派手ではないものの一応スターを起用したメジャー作品を連発した後に、『ジェリー』以降、最小限の製作規模による実験的な映画作りに戻ったり、素人に近いキャストで映画を撮ったりという、原点に立ち返ったような時期があるせいかもしれません。 しかし、彼の作品はそうでなくても共通して、既成概念に束縛されない自在さと、大衆に迎合しないマイペースな感性が貫徹されています。それは又、社会がエコライフへの流れに向かっているのとシンクロしているようにも見え、それがどことなく彼の作品を、自然派の無添加製品や有機農産物、或いは音楽でいうアコースティック、アンプラグド的な括りに分類したくなる要因にもなっています。もっとも、そういったブランド化、ジャンル化こそ、サントが最も嫌う風潮なのかもしれませんね。 手法やモティーフの面で言えば、彼の多くの作品に共通するのが、マイノリティや若者を主人公に据えた物語、淡々とした語り口、即興性の強い演技とキャメラワーク、監督の故郷であるポートランドでのロケーション、詩情の豊かさ、そして、価値観やモラルを押し付けない中立的な視点です。映像面での特徴は、田舎道や荒涼とした大自然をよく背景に使う事と、空を流れる雲の早回し映像をトレードマーク的に挿入している事。 ちなみにその雲の早回しは、フランシス・コッポラ監督の『ランブル・フィッシュ』からの引用だとサント自身認めていますが、コッポラ自身も『ジャック』で再度この手法を使っており、主人公の成長スピードの速さを象徴するのに効果を挙げています。そういえばこの二人、アートとしての映画製作を行っている雰囲気がある点で近似していますね。又、音楽の使い方もサント作品は独特ですが、音響全体をコラージュのように捉える傾向もあり、そこに着目すると、レスリー・シャッツという音響デザイナーの名前も浮かび上がってきます。 キャスティングにも特色があって、ブレイク前の若手俳優や演技経験のない一般人を起用したりする事が多いのは、サント作品のテーマや映画作りの姿勢とコンセプトが一致しています。それから、ホアキン・フェニックス、レイン・フェニックス、ケイシー・アフレック、ヘンリー・ホッパー、シュイラー・フィスクなど、有名スターの兄弟や二世俳優をよく起用しているのも特色。レッド・ホット・チリ・ペッパーズのフリーやソニック・ユースのキム・ゴードンらミュージシャン、ウィリアム・S・バロウズやバック・ヘンリーら作家、デヴィッド・クローネンバーグやハーモニー・コリンら映画監督など、俳優以外のキャストも多用。又、マット・デイモンら俳優から持ち込まれた脚本をしばしば映画化している他、若い脚本家の起用も目立ちます。 作風からして、ただ淡々とキャメラを回して俳優に寄り添っているような監督と思われがちですが、『グッド・ウィル・ハンティング』や『小説家を見つけたら』など感動的なドラマ・メイキングも巧いし、『誘う女』や『カウガール・ブルース』のような、細かくカットを割って編集で作り込む映画にも卓越したセンスを発揮。『永遠の僕たち』や『追憶の森』のナイーヴな優しさは、決して自然体の演出で無為に出て来るようなものではないし、『ミルク』や『エレファント』の禍々しい殺人シーンなど、観客を震え上がらせる恐怖演出にも見事な手腕を見せていて、演出のスキルはかなり高い人と思われます。 |